第38話
第38話 邪滅支配街エルタティア 前編
【エクスアリア エルタティア付近 地下避難壕 朝陽達の部屋 17回目の夜刻】
私は、タケミツに斬られた左腕をエルタティアの鍛治職人であるバニングさんによって、新しい夢宮朝陽の左腕|アトリビュートハンドトレット《変属性の白想左腕》としてつけてもらった。
――やっぱり少しだけ違和感がある。バニングさんは時期になれると言っていたけど……
『朝陽よ。エルタデュータ貮型とエイアスは、エルタティアの民の夢領域に入り、彼奴等夢喰の討滅に行った様だ……メリディはまだ無事の様だな』
《おいおい朝陽、久しぶりにあたしが目を覚ましてみりゃ、こりゃ一体どういうこった? バニング氏も言っていたが、ここは夢覚市じゃないのか?》
「コクモンジ、ここはエクスアリアという世界の地然街エルタティアの近くだよ」
《エクスアリア? エルタティア? 朝陽はあたしを初代夢鬼理一文字と言ってみたり、夢鬼理トゥエルヴと言ってみたり、夢鬼理想始刻文字刀・エクスと言ってみたり、本当に朝陽は真っ直ぐだな。だからあの幼くも独りぼっちだった朝陽から卒業できたんだよな……良かったね、朝陽》
『コクモンジよ。お前が初代夢鬼理一文字として、幼き朝陽を正しき道に導いてくれたからこそ、今の朝陽がここにいるのだ、ありがとう』
《なにを言ってるんだよユメキリさん。あたしは朝陽の夢領域で、朝陽の両親に化けた夢喰をやっつける! という朝陽の想いに応えた結果、一文字という名前がついたんだ》
「そうだったね、コクモンジ」
《そうさー! でも夢斬士として朝陽が成長していくにつれて、あたしが朝陽の強すぎる明日を救う力に答えられなくなった、だからあたし達には初代も二代目もない。そうでしょ?》
『左様だ、コクモンジよ』
《そうだから朝陽の想いの力の一つであるあたし達には必ず夢鬼理の名前がついているんだからさ》
「ありがとね、ユメキリもコクモンジも」
私の想いの力は夢鬼理の力。
始まりのあの日の夢から始まり、私は今エクスアリアにいる。
でも夢鬼理の力は科学では完全には解析できない。
だけど私一人だけが夢鬼理の力を使えても、私の命の灯火が消えてしまっても、世界は止まることなく動き続ける。
だから私の想いの力の源である夢鬼理の力を明日に繋げていく為の仕組みとして、夢鬼理ネットワークを考えた。
エルタデュータ貮型となった夢斬貮型も夢覚市の夢宮コンツェルンにいる夢斬参型も私の想いの力の一つなんだ。
明日を救う力を持つ者、力に溺れることなかれ……
遥か数百前年前から続く夢宮の表の掟と裏の無醒殺滅の掟。
これを夢宮一族が護っていたからこそ、夢宮朝陽という私が存在している。
だからこそ私はエクスアリアで、夢鬼理ネットワークVer.エクスアリアを完成させる。
それが夢喰王タケミツからこの世界を解放して、一度放たれてしまった夢喰をエクスアリアの人達で護っていけるシステムになることを信じるだけだ。
【エイアスとエルタデュータ貮型が夢領域から帰還しました】
『チッ! タケミツとバレディナめ!』
「どうしたの? 貮型」
『それがなマスター朝陽。タケミツとバレディナは、夢斬貮型であった我エルタデュータ貮型の力が弱まったのを境に、マスターエイアスを含めたエルタティアの民の夢領域に侵入し、殺意の邪想を注入する邪法実験を行っていた』
「夢鬼理ネットワークも無いのにどうやって夢領域に侵入したのよ」
『チッ! マスター朝陽、それはエルタティアの山頂で話しただろ』
「邪想ネットワーク、夢鬼理ネットワークを模倣したシステムのこと?」
『チッ! そうだマスター朝陽。奴らは、明日を失いかけたエルタティアの民の夢領域と邪想ネットワークを勝手に繋ぎ、そこから夢喰が侵入できるようにしていたのだ!』
――つまりエルタティアの民の許可無く、勝手に穴を開けて繋いで夢喰を放つ……外道が!
「ありがとう貮型。エイアスさんは大丈夫?」
「ああ、まあな。夢喰の罠にかかりそうになって、エルタデュータ貮型に散々罵声を浴びせられたがな」
『チッ! マスターエイアスはお人好し。だが我エルタデュータ貮型の契約としての実力は本物だ』
「お前もなエルタデュータ貮型。しかし夢斬貮型夢領域とは違い、エルタティアの民の夢領域は異様な空間だった……朝陽殿と弥乃葉殿はもちろん、シャリア殿も人の夢領域に入った事があるのだろう?」
――それは勿論、明日を救う力を持つ者である夢斬士の本当の戦場は夢領域だからね。
「エイアスくん、そりゃ勿論『正義の夢斬士である夢宮朝陽、夢月弥乃葉、シャリアさんは明日を救う力を持ってるヒーローさ! ヒューヒュー!』なんだから当たり前でしょ!」
「弥乃葉殿は時々よく分からない言葉で話すが、朝陽殿がこの場にいなければ、弥乃葉殿のカレーとやらも食べられず、メリディ様を救える手立ても無かっただろう」
「エイアスくんはやっぱりすごいねー! エルタデュータ貮型みたいな舌打ち大剣に一切動じないところとかさ」
『チッ! 夢羅鬼理がいなかったらマスター朝陽を斬っていた士の腑抜けレベルマイナス1の夢月弥乃葉め!」
「なにー? 腑抜け刀からちょっとぐらい強くなったからって調子乗りすぎ!」
「はあ……弥乃葉殿。俺もエルタデュータ貮型も護るべき者がいる、護るべき明日、帰る居場所があると言う覚悟を決めたからこそだ。それと貮型も舌打ちは控えることだな」
『了解、マスターエイアス』
「ああ、頼むぞエルタデュータ貮型」
――良かったね、エルタデュータ貮型。
私達と話を終えたエイアスさんは、状況報告の為にエギリスさんとバニングさんの元へ向かった。
「朝陽様。救世の左腕が戻って本当に良かったです!」
「うんシャリアさん。昨日まであった当たり前の夢宮朝陽の左腕ではなくなってしまったけど、これはみんなが繋いでくれた明日を救う新しい力だから、ありがとう」
「でも朝陽さー、その新しい左腕は属性攻撃ができるの?」
「できるみたいだよ、弥乃葉。それと向こうの世界に帰ったら変属性の力で普通の骨に変わるみたい」
「えっ? 朝陽の左腕は『見た目は普通、中身が異常な左腕!』なの? そうは全然見えないね」
「でしょ? でも付けてもらう時のあまりの激痛に気絶……いやでもまあこうして左腕が戻ってきたから良かったかな」
「つまりあれだ! 『夢宮朝陽の正義の夢斬士救世主伝説はこれからも続くのである!』みたいな感じだね」
「もう! 私と弥乃葉は、エクスアリアで名前を大々的に残したらダメなんだよ、分かってる?」
「ふーん、でも今さらそんなこと言われてもさー。陰楼様だって、もう名前を残してるからね」
「そ、それは確かに弥乃葉の言う通りだけどね……」
「でしょー! だから『この世界は邪滅の腑抜け魔王に支配されようとしていた、だがその世界には救世主がいた……それは正義の夢斬士達とその仲間達だった!』なんだよ!」
「そうですよ朝陽様! 女神エクスアリア様が創りしこの世界をあの汚らわしいタケミツと邪なるオーガたる夢喰から護る旅はまだまだ続くのです! まずはメリディさんとこのエルタティアの地を救いましょう!」
「うん! これからもよろしくね、シャリアさん、弥乃葉
!」
――夢鬼理ネットワークシステムVer.エクスアリアを構築する旅はそんな簡単な旅じゃないんだ! でもまずは、エイアスさんとエルタデュータ貮型と共にメリディさんを救出しエルタティアを解放しなければ!
「ユメキリ、メリディさんはどうなってる?」
『メリディか? バニングによる新しい朝陽の左腕によって、メリディの状況が少しだけだが……分かってきた」
――メリディさん……早く助けないと。
『朝陽よ。バレディナはメリディの魂を塗り潰し、メリディをバレディナの傀儡と変え、バレディナこそが真のエルタティアの支配者となり、バレディナが支配者となった暁には、このエルタティアの地をタケミツが望む邪滅の地とする事を企てている様だ』
――バレディナ……いいやタケミツ、私はお前を絶対に許さない! エクスアリアの世界を己の幻想的な私利私欲のために理を汚すとは! 必ずこの世界と夢宮一族の掟と私自身の明日を救う力でお前の野望を阻止する! でもバレディナはなぜ……。
「でもさユメキリさん。バレディナはなぜそんなにタケミツに心酔してるわけ? いくらタケミツがわたしにやった殺意の邪想の注入をバレディナにしたからって、あんなに心酔できる?」
『弥乃葉よ。貮型が言っていただろう? お前の腑抜けレベルはマイナス1、もし我と鬼理刻の分体であるユラキリがいなければ、お前もバレディナと同じになっていたのだ』
「確かにわたしは朝陽の敵と呟いていた……朝陽はわたしだけのモノという情動に支配されかかってた」
『左様だ弥乃葉よ。タケミツがお前に告げた邪滅ハーレムシティとやらは、タケミツが作り出した実験する場みたいなものだろう……』
私も含めて、ユメキリの言葉を聞いたシャリアさんと弥乃葉は黙ってしまった。
『ただ朝陽達よ。シャリアとエイアスを始めとしたこの世界のヒトが生を受けたこの世界は女神エクスアリアが創りし世界だ。時々我へ微かに語りかけてくる声、デザイアという言葉。それがタケミツが世界を完全に支配できぬ理由と何か繋がりがあるのかもしれん』
「あのー、そのユメキリ様」
『どうしたシャリアよ』
「もしかしてシャリアのエクスへヴリア、これがデザイアギアの一つだったりしますか? 女神エクスアリア様が使っていたとされる邪なる者には握ることすら叶わない、選ばれたエクスアリア族にしか握れない聖なる剣なのですが」
――えっ? シャリアさんがいつも持っていて、エルタティア山の山頂で抜いていたあの白緑光を放つ剣が⁈
『…………なるほど、朝陽よ。シャリアが殺意の邪想に完全に呑まれなかった理由は、シャリアが携しその白緑光の聖なる剣のおかげだ、女神エクスアリアの遺したデザイアギアの一つだ。だからユメキリIV型とシャリアがすぐに契約できたという事だ』
「つまりこの世界にも、夢斬士の様に明日を救う力を持つ者達がいるってこと? 日本人である私と弥乃葉、陰楼さんではないエクスアリアの明日を救う力を持つ者が?」
『その様だ、朝陽よ。我達がやろうとしているエクスアリアで夢鬼理ネットワークを完成させ、タケミツを斬らぬ限り、我達は夢覚市に帰ることはできないという事だ』
――エクスアリアにいる明日を救う力を持つ者、シャリアもその一人……旅をしながらその人達も見つけないといけない、でも私は……いいや私達は。
私が声をかけようとした時だ。
隣で下を向いて黙り込んでいた弥乃葉が急に顔を上げ、私とシャリアさんの方を向いた。
「わたし達は、『正義の救世主たる明日を救う力を持つ勇者!』……いいや夢斬士なのだ!」
――なんでアンタが言うのよ! 弥乃葉!
第38話 邪滅支配街エルタティア 前編 完。
第39話へつづく!
最後までお読みいただきありがとうございました!




