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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部三章 王都動乱
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『建国祭 美魔女VSサキュバスクイーン2』

「はあっ!」


 ナミラたちが避難を急ぐ間、マーラは一人戦い続けた。

 魔力そのものを放つ攻撃は何度かルーベリアを捉えたが、ダメージを与えることはできなかった。


「あははははは! 攻撃のつもり? 魔法でも教えてあげましょうか?」

「けっこうよ!」

「遠慮しないで? 『炎熱閃光ヒート・レイ』」


 火の中級魔法がマーラを襲う。

 間一髪避けることができたが、ルーベリアはそれを見て不敵に笑った。


「『岩石砲弾ロック・シューター』『痺怪魔粉スタン・パラン』『機雷泡バブル・マイン』『雷光ライトニング』『氷結吹雪ブリザード』『風圧魔弾エア・ブラスト』」


 全属性の中級魔法。

 それらを絶え間なく撃ち続け、マーラを防戦一方とした。


「あははははは! 逃げるだけ? 守るだけ? 醜い! 醜い!」

「……うっさいわね」


 悪態をついてはいるが、マーラの体は確実にダメージを負っている。

 

(このままじゃまずい……生気を魔力に変換するのも、そろそろ限界……)


 心に浮かんだ弱音。

 しかし、マーラは血が流れるほど唇を噛み、自身を奮い立たせた。


(なにを思っているのマーラ! 思い出せ! あの姿を! お姉様たちの最期を!」


 脳裏に浮かぶは八百年前の惨劇。

 多くの魔族が命を奪われ、没落の今に至る始まりのとき。


 そんな最中をマーラは生き残った。

 この八百年その理由を求め続けた。


 僅かな同胞と共に恥辱にまみれ泥水をすすり、必死で生き抜いた。

 そして訪れた、つかの間の夢のような時間。かつてのように輝き、生きる歓びを感じることができた奇跡。ナミラという一人の少年がもたらしてくれた、返しきれない巨大な恩。

 マーラは今、命の理由を見出した。


「私は、このときのために生きてきた!」


 胸を張って言える。

 永い時を超えて、アルーナお姉様の来世と出会えた縁。今までの苦悩が報われるような、芳醇な幸福感に満ちたこの数日間こそ、私の人生の絶頂。


 今こそ、サキュバスクイーンとしての本領発揮のとき!

 今こそ、八百年前と今生の恩に報いるとき! 

 今こそ、誘惑の淫魔として最も美しくあるべき瞬間!


「見て! 感じて! 忘れないで! これが私! サキュバスクイーンマーラの、最も魅力に溢れた姿!」


 血反吐を吐きながら、マーラは飛ぶ。

 踊るように優雅に、遊ぶように可憐に。

 髪の一本手足の先まで生き生きと、満身創痍の傷を負いながら生命力に満ちていた。


「……きれい」


 魅了の力は依然として相殺されている。 

 だが、今のマーラは老若男女問わず見惚れさせ、涙すら流すほどに美しかった。


「なによなによなによなによなによなによなによなによ! サキュバス如きがふざけるなぁ!」


 動きにキレが増し、攻撃を避け始めたマーラにルーベリアは怒号を放った。


「『灼熱の水を操りし星の主人 地に住み天を衝く力 溶けろ融けろ熔けろ 掴めぬ魔手が命を掴む 逃げろ逃げろ逃げろ すべては無駄だ 溶岩の百魔手ハンドレッド・マグマ・ハンド!」


 力を手に入れたルーベリアが、初めて呪文を詠唱した。

 唱えた魔法は八つある属性の中でも、異質を誇る溶岩の上級魔法。溶岩魔法は唯一、上級と最高位魔法しか存在せず使い手も少ない。

 

「あはははははは!」


 すべて溶かす百の手が、手負いのマーラを追いかける。

 僅かでも触れれば、それだけで重度の火傷を負うことになる。


「はああああああああああ!」

  

 ひたすらに逃げ回り、なけなしの魔力で迎撃するマーラ。

 だが、文字通り攻撃の手は緩まない。


「あははははは! 死になさい!」


 絶望的な命の危機。

 触れれば溶ける魔の手が迫る中にあって、マーラは揺るがなかった。魅了を解除すれば、再び逃げ回るだけの力を得ることができる。しかし、マーラはその選択をしない。

 かつて魔族を迫害し、アルーナたちを殺した人族。今も最弱の種族と罵り蔑む人間たちを、最期の瞬間まで守る。


 それがナミラとの約束であり、理想とするサキュバスクイーンの姿。

 そしてなにより、自身が考える最も美しい生き様であった。


「諦めない!」


 マーラはカッと目を見開き、両手を広げた。


妖艶なる月光蝶サキュバス・ルーメン・ルーナイ!」


 クイーンのみに許された、サキュバス最強の技。

 マーラは命を燃やし、美しい光の羽を生み出した。


「え……」


 その瞬間、刺すような視線がマーラに向けられた。

 同時に、振り絞った最期の力が消える。常にあった力を失う謎の現象が、何故か強まったのだ。


「これ……は!」


 それ故に気づいた。

 エナジー・ドレインを得意とするサキュバス故か、八百年前を知るからこそか。

 全身から抜け出ていると思っていた己の力は、マーラの場合下腹部から消えていく感覚があった。目を凝らすと一本の糸が見え、それはある場所へと真っ直ぐに伸びていた。


「なんて……こと」


 知り得た真実にマーラは震えた。

 なんとしても、このことを伝えなければならない。


「ナミラ様! このことをはやく」

「死ねええええええええええええ!」


 逃げ出そうとしたときにはすでに遅く。

 灼熱の手に囲まれ、マーラの声すら溶かされた。


「ナミラ様ああああああああああ!」


 決死の叫びでナミラを呼ぶ。

 せめて今の自分を解析してくれれば、真実に気づいてもらえるかもしれない。

 マーラは決して、絶望に飲まれることはなかった。


 黒く染まり紅く光る手が、マーラの姿を隠す。

 極限の熱は高まり合い、眩い閃光と共に爆ぜた。


「あははははははははは! ざまぁみろ!」


 穢れた歓喜の声が空に響く。

 頬を赤らめ恍惚の表情を浮かべたルーベリアは、爆煙を嬉しそうに見つめた。


「よく頑張った」


 しかし中から聞こえた声に、きれいな顔は苦虫を噛み潰した。


 涼風が吹き抜け煙を散らし、声の主が姿を現した。

 愛刀を抜きマーラの頭に手を置いて、闘気と魔力を滾らせる一人の少年。

 ナミラ・タキメノが、絶体絶命の危機に駆けつけた。


「あとは任せろ!」


 聞く人の心を安堵させ鼓舞する勇ましい声に呼応し、仲間たちも空へと上がる。

 

 残った僅かな爆煙が、まるで反撃の狼煙のように昇っていた。

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