『建国祭 美魔女VSサキュバスクイーン2』
「はあっ!」
ナミラたちが避難を急ぐ間、マーラは一人戦い続けた。
魔力そのものを放つ攻撃は何度かルーベリアを捉えたが、ダメージを与えることはできなかった。
「あははははは! 攻撃のつもり? 魔法でも教えてあげましょうか?」
「けっこうよ!」
「遠慮しないで? 『炎熱閃光』」
火の中級魔法がマーラを襲う。
間一髪避けることができたが、ルーベリアはそれを見て不敵に笑った。
「『岩石砲弾』『痺怪魔粉』『機雷泡』『雷光』『氷結吹雪』『風圧魔弾』」
全属性の中級魔法。
それらを絶え間なく撃ち続け、マーラを防戦一方とした。
「あははははは! 逃げるだけ? 守るだけ? 醜い! 醜い!」
「……うっさいわね」
悪態をついてはいるが、マーラの体は確実にダメージを負っている。
(このままじゃまずい……生気を魔力に変換するのも、そろそろ限界……)
心に浮かんだ弱音。
しかし、マーラは血が流れるほど唇を噛み、自身を奮い立たせた。
(なにを思っているのマーラ! 思い出せ! あの姿を! お姉様たちの最期を!」
脳裏に浮かぶは八百年前の惨劇。
多くの魔族が命を奪われ、没落の今に至る始まりのとき。
そんな最中をマーラは生き残った。
この八百年その理由を求め続けた。
僅かな同胞と共に恥辱にまみれ泥水をすすり、必死で生き抜いた。
そして訪れた、つかの間の夢のような時間。かつてのように輝き、生きる歓びを感じることができた奇跡。ナミラという一人の少年がもたらしてくれた、返しきれない巨大な恩。
マーラは今、命の理由を見出した。
「私は、このときのために生きてきた!」
胸を張って言える。
永い時を超えて、アルーナお姉様の来世と出会えた縁。今までの苦悩が報われるような、芳醇な幸福感に満ちたこの数日間こそ、私の人生の絶頂。
今こそ、サキュバスクイーンとしての本領発揮のとき!
今こそ、八百年前と今生の恩に報いるとき!
今こそ、誘惑の淫魔として最も美しくあるべき瞬間!
「見て! 感じて! 忘れないで! これが私! サキュバスクイーンマーラの、最も魅力に溢れた姿!」
血反吐を吐きながら、マーラは飛ぶ。
踊るように優雅に、遊ぶように可憐に。
髪の一本手足の先まで生き生きと、満身創痍の傷を負いながら生命力に満ちていた。
「……きれい」
魅了の力は依然として相殺されている。
だが、今のマーラは老若男女問わず見惚れさせ、涙すら流すほどに美しかった。
「なによなによなによなによなによなによなによなによ! サキュバス如きがふざけるなぁ!」
動きにキレが増し、攻撃を避け始めたマーラにルーベリアは怒号を放った。
「『灼熱の水を操りし星の主人 地に住み天を衝く力 溶けろ融けろ熔けろ 掴めぬ魔手が命を掴む 逃げろ逃げろ逃げろ すべては無駄だ 溶岩の百魔手!」
力を手に入れたルーベリアが、初めて呪文を詠唱した。
唱えた魔法は八つある属性の中でも、異質を誇る溶岩の上級魔法。溶岩魔法は唯一、上級と最高位魔法しか存在せず使い手も少ない。
「あはははははは!」
すべて溶かす百の手が、手負いのマーラを追いかける。
僅かでも触れれば、それだけで重度の火傷を負うことになる。
「はああああああああああ!」
ひたすらに逃げ回り、なけなしの魔力で迎撃するマーラ。
だが、文字通り攻撃の手は緩まない。
「あははははは! 死になさい!」
絶望的な命の危機。
触れれば溶ける魔の手が迫る中にあって、マーラは揺るがなかった。魅了を解除すれば、再び逃げ回るだけの力を得ることができる。しかし、マーラはその選択をしない。
かつて魔族を迫害し、アルーナたちを殺した人族。今も最弱の種族と罵り蔑む人間たちを、最期の瞬間まで守る。
それがナミラとの約束であり、理想とするサキュバスクイーンの姿。
そしてなにより、自身が考える最も美しい生き様であった。
「諦めない!」
マーラはカッと目を見開き、両手を広げた。
「妖艶なる月光蝶!」
クイーンのみに許された、サキュバス最強の技。
マーラは命を燃やし、美しい光の羽を生み出した。
「え……」
その瞬間、刺すような視線がマーラに向けられた。
同時に、振り絞った最期の力が消える。常にあった力を失う謎の現象が、何故か強まったのだ。
「これ……は!」
それ故に気づいた。
エナジー・ドレインを得意とするサキュバス故か、八百年前を知るからこそか。
全身から抜け出ていると思っていた己の力は、マーラの場合下腹部から消えていく感覚があった。目を凝らすと一本の糸が見え、それはある場所へと真っ直ぐに伸びていた。
「なんて……こと」
知り得た真実にマーラは震えた。
なんとしても、このことを伝えなければならない。
「ナミラ様! このことをはやく」
「死ねええええええええええええ!」
逃げ出そうとしたときにはすでに遅く。
灼熱の手に囲まれ、マーラの声すら溶かされた。
「ナミラ様ああああああああああ!」
決死の叫びでナミラを呼ぶ。
せめて今の自分を解析してくれれば、真実に気づいてもらえるかもしれない。
マーラは決して、絶望に飲まれることはなかった。
黒く染まり紅く光る手が、マーラの姿を隠す。
極限の熱は高まり合い、眩い閃光と共に爆ぜた。
「あははははははははは! ざまぁみろ!」
穢れた歓喜の声が空に響く。
頬を赤らめ恍惚の表情を浮かべたルーベリアは、爆煙を嬉しそうに見つめた。
「よく頑張った」
しかし中から聞こえた声に、きれいな顔は苦虫を噛み潰した。
涼風が吹き抜け煙を散らし、声の主が姿を現した。
愛刀を抜きマーラの頭に手を置いて、闘気と魔力を滾らせる一人の少年。
ナミラ・タキメノが、絶体絶命の危機に駆けつけた。
「あとは任せろ!」
聞く人の心を安堵させ鼓舞する勇ましい声に呼応し、仲間たちも空へと上がる。
残った僅かな爆煙が、まるで反撃の狼煙のように昇っていた。




