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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部三章 王都動乱
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『建国祭 開戦』

「ナミラ……様」

「強くなったわね、マーラ」


 微笑む姿はナミラのまま、優しく投げかけられたのはアルーナの労いだった。

 嬉しさに涙ぐみながらも、マーラは先程の気づきを伝えようとした。


「あ、あの! お伝えしなくてはいけないことがっ!」

「大丈夫。これが終わったらちゃんと聞くさ。下に他の魔族たちがいる。みんなが手伝ってくれたから間に合ったんだよ」


 マーラが足下を見ると、建物に隠れた仲間の魔族たちが見えた。

 中には、涙するサキュバスたちの姿もある。


「みんなと一緒に下がれ。魅了も代わるから、魔力は回復に使うんだ」

「はい……ご武運を」


 マーラがフラフラと地上へ降りると、ナミラから魅了の光が発せられルーベリアの力を相殺した。


「なんなのよ……どいつもこいつも」


 美しい顔が怒りで歪み、ルーベリアが狂気に染まった目を向けた。

 テーベ村騎士団と、回復魔法をかけてもらったガルフが魔女と対峙した。


「ルーベリア先生、もうやめるんだ」

「ルーおばさま! お願い! 元に戻って!」

「ルー! なにがあったというんじゃ!」


 口々に声をかけるが、ルーベリアの表情は変わらない。


「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!」


 それどころか耳を塞ぎ、金切り声を上げた。


「なんで認めてくれないの? なんで愛してくれないの? こんなにきれいなのに、こんなに強いのに!」


 ルーベリアの体から膨大な魔力が溢れ出し、全属性の上級魔法陣が展開された。


「馬鹿な! ルーにこんなことできるはずがない!」

「みんな、迎撃を!」


 全員が武器を構えると同時に、殺意を込めた魔法が放たれた。


「『竜巻の咬牙(トルネード・ファング)! 殺鳥の火炎(フレイム・バード)! 瀑水咆哮(アクア・バースト)! 轟雷の鉄拳(ボルテック・フィスト)! 溶岩の百魔手《ハンドレッド・マグマ・ハンド》! 冥樹(デス・ツリー)! 大地の盾甲羅(グラウンド・シェル)! 氷花死歌(アークティク・ソング)!』」


 それぞれ散開し、襲いくる魔法を迎え撃つ。


「くっそ! 空飛ぶだけでも一苦労だってのに!」


 先日やっと飛行魔法を覚えたばかりのダンは、さほど逃げられず早々に追いつかれてしまった。


「悪いな先生! 手加減はまた今度教えてくれや!」


 ダンに迫るは水魔法。

 最高位魔法でも現れた水竜が放った膨大な水が、押し潰そうと襲いかかる。


「スーパー兜割りに斬波の闘気を」


 ダンが激しく回転すると、刃に宿った闘気が円を描いた。


「スーパー兜割り・闘円斬《とうえんざん》!」


 火花散る勢いで正面からぶつかる。

 数秒間の拮抗を見せたが、力を増した上級魔法の前にダンのほうが押され始めた。


「そしてこのままなら、誰も巻き込まねぇだろ……」


 飛沫を顔に浴びながら、ニヤリと笑う顔に熱い魔力が溢れ出す。


「『進む道に障害なく! 振るう力に限界なく! 並び立つ者この世に皆無! 破壊の権化よ本能のままに! 解き放て! 狂化《バーサーク》』!」


 持てるすべてを攻撃に振り分け、狂戦士と化したダン。

 技の回転を増し攻撃力を上げた暴力的な円撃は、破壊の水を打ち破り街に虹を描いた。


「おおおおおおおおおお!」

「……ふんっ」


 そして勢いそのままにルーベリアを強襲したが、土の魔法に阻まれてしまった。


「ぐふぉ!」


 盾を模した巨大な甲羅に叩き落とされたダンは、地上に向かって真っ逆さまに落ちていった。


「道化殺法 大蜘蛛晩餐界《おおぐもばんさんかい》」


 しかし、逃げながら糸を張り巡らせていたデルのおかげで、地面への直撃を防ぐことができた。


「ダンちゃんのアホー! それ使ったら飛行魔法もできなくなるでしょうが!」


 デルは気を失ったままぶら下がるダンの服をナイフで射抜き、建物の壁に貼り付けた。


「……さぁ、こちらへ。歓迎致します」


 糸の中心に立ち、仮面を被ったデルは深々と頭を下げた。

 真上からは禍々しい大樹の蔓が襲いかかる。


「ホッホホウ!」


 デルはなんの迷いもなく、直立の姿勢で糸から飛び降りた。

 人が見ればどよめくが、蔓は関係なく追いかける。すると、広がっていた糸の結界が口を閉じ、蔓を縛り上げた。瞬く間に糸は蔓に食い込み、液を噴き出させ、バラバラに切り裂いた。


「ホッホッホウ!」


 しかし植物の上級魔法は、なおも再生しようとする。

 デルは、集まり始めた破片のひとつひとつにナイフを撃ち込んだ。


「喝っ!」


 それぞれが繋がろうとした瞬間、印を結びナイフを爆発させた。

 さらに続けて、束ねられた糸の先端を引っ張る。


「道化殺法奥義! 滅群霧死柱《めつぐんむしばしら》!」


 柱のように伸びていた糸の塊が凄まじい速さで回り始め、竜巻を思わせる姿となった。

 そして爆散した蔓の欠片をすべて巻き込み、再生不可能なまで削り消滅させた。


「またのお越しを」


 デルは再び気取ったお辞儀を見せつけた。


「鳥爛舞闘《ちょうけんぶとう》、肆《よん》の舞。死白鳥《しはくちょう》の円舞《えんぶ》」


 アニは建物の屋上に降り立ち、魔法を迎撃していた。

 降り注ぐのはマーラを追い詰めた百の手。灼熱の雨を華麗な動きで捌きながら、眼光は鋭く怒りを潜めていた。


「……よくもルーベリア先生を。よくもマーラさんを」


 ナミラの話から、この件にも暗躍する者がいると悟っていた。

 始まりは悪くとも、ルーベリアは学院で世話になりマーラには踊りを教えた。アニにとって、二人はすでに大切な人に名を連ねていた。


「鳥爛舞闘、捌《はち》の舞。暴乱大鷲《ぼうらんおおわし》!」


 舞姫の刀身に光が宿る。

 二対の剣は使うほどに馴染み、今やアニは手の延長とまで思っていた。そしてアニの心に応えるように、剣は潜在能力を引き出していく。


「はああああああ!」


 かつて斬竜団と戦ったときには、血液のみを翼とした。

 しかし今は切り裂いた熱量を闘気と舞姫が高め、太陽を思わせる両翼から流星の如き羽が射出される。

 絶え間なくぶつかり合う熱と光。

 やがて指先も触れることなく魔手は潰え、アニは流れる汗をやっとの思いで拭った。


「みんなやるのぉ……儂らも負けては……ぐっ!」

「無理しないで、ととさま!」


 苦しむガルフに、モモが慌てて手を差し伸べる。

 しかし、娘に甘いはずの養父はその手を拒んだ。


「今無理せんでどうする。ルーは……儂にとって大切な友人なんじゃ」


 歯を食いしばり必死で体を起こす姿に、モモはそれ以上なにも言わなかった。

 

「ではモモ、やるとするかの」

「はい!」


 ガルフとモモは天高く飛び、雲の手前で旋回した。

 迫り来るのは『轟雷の鉄拳(ボルテック・フィスト)』と『氷花死歌(アークティク・ソング)』の二つ。

 雷の拳は轟音を響かせ、白き風がは妖しい旋律を奏でていた。


「『轟く怒り 断罪の光り 罪ごと滅ぼす父の愛 命握りし神の拳よ 眼前の愚者に鉄槌を!』」

「『悲嘆の奏 絶望の調べ 死の種を蒔く花の風 すべてを犠牲に咲く花よ 出逢いし命に鎮魂歌を!』


 属性《タイプ》:氷

 出力:八〇%

 術式《コード》:上級魔法

 オーダー受諾しました。


「『轟雷の鉄拳(ボルテック・フィスト)!』」

「『氷花死歌(アークティク・ソング)!』」


 重なる親子の詠唱ののち、同じ属性の魔法同士が衝突した。

 遥かに強くなったルーベリアの魔法。しかし、雷迅の賢者と天才魔法少女はそれを上回る。


「うおおおおおおおお!」

「はああああああああ!」


 ルーベリアの拳はガルフに打ち消され、旋律はモモのものが奏でられた。

 雲には怒号に似た雷鳴が鳴り響き、空からは季節外れの雪が悲しげに舞い降りた。

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