『地下に潜む者たち2』
地下に案内され、向かう先が下水道だと分かると四勇士は顔を引きつらせたが、覚悟を決めて足を踏み出した。しかし、バーバラは臭いだけで倒れそうになったため、モモが体と周囲を清潔に保つ魔法をかけてやったのだが、湧き立つ不快感はどうにもならなかったようだ。
「ナミラも大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ」
魔法の重ねがけを受けるバーバラから離れ、アニが声をかけた。
「ほんと? でもさっき、倒れそうになってたじゃん」
顔を覗き込むアニは、数分前のことを思い出していた。
古い梯子を伝って下水道に降り立った瞬間、ナミラは立ち眩みを起こした。咄嗟にダンが支えてくれたが、仲間たちからは心配の目を向けられていた。
「今はなんともないよ。あのときは……なんて言ったらいいかな」
あのとき、周囲を見渡した瞬間に強烈な頭痛がナミラを襲った。
同時にこの場所を知っている感覚が蘇ったが、具体的な記憶が出てこない。まるで無理やり抑えられているような感覚があり、夢でも襲ったひどいノイズが頭に満ちて思考を強制的に止めた。
「前世がここを知っているのは間違いないんだ。リッパーマン……いや、これは他の前世も? なら、いったい誰の前世だ? この場所になにが……ぐっ、くぅ」
「こら。まだ怪我も治りきってないんだし、無理しないの。はい、これ。ここで飲むのは気が引けるかもしれないけど」
ぶり返した頭痛に顔を歪ませると、アニがポーションを手渡した。
「ありがとう、アニ。大丈夫、リッパーマンの前世にとっては懐かしい臭いさ。飲食だってなんの抵抗もないよ」
「そ、そう……」
想い人の求めていなかったワイルドさに、アニは少々困惑した。
「あ、あの、ナミラくん」
ポーションの小瓶が空になったのを見計らって、モモが恐る恐る声をかけた。
「モモ。バーバラ先輩への魔法、ありがとうな。どうかしたか?」
「う、うん。バーバラ先輩がね、せめて周囲の虫を焼き払おうって言い出して」
ナミラはなんとか立ち上がるバーバラを見た。
勇気を振り絞って地下へ赴き、気丈に振る舞う彼女だったが冷静さを欠いているようだ。いつもの高笑いにもキレがなく、顔色が悪い。
「それは……困りますな」
シャラクが頬を掻きながら言った。
「は、はい。こんなところで火属性の魔法を使うと、汚物から出る気……芽痰に引火して爆発しちゃうから」
モモが対応に困っているのが見て取れた。
「そうだな……ちょっと、みんなは後ろを向いてもらってもいいかな? 見てしまうと、さすがにインパクトがすごいと思うから」
言わんとしていることを察し、全員が即座に背を向けた。
ナミラは下水に住む虫やネズミらに声をかけ、自分たちに近づかないように頼んだ。
ウルミとの戦いで下水を使った際、巻き込まれて上がってきた彼らの仲間に触れており、意思の疎通が可能になっていたのだ。
「ワカッタ! ワカッタ! コンド! メシ! クレ!」
「「クレヤガレ!」」
「へいへい」
闇に蠢く小さな影たちは、後日腐りかけの肉を差し入れる約束で了承してくれた。
「……お前に頼まれたら断れんよ」
散り散りに去る影の中から、ナミラは低い声を聞いた気がした。
(気のせいか?)
目をやったときには、もう生き物の気配は消えていた。
その後、リッパーマンのギフト【下水王】で汚水を退けながら、一行は下水道を進み続けた。
十五分ほど歩いた頃。
目の前に揺らめくランプの光が現れた。
「シャラクさん、お迎えに参りました。お連れの方がいらっしゃるのですか?」
淡い光の中から流れる声。
ナミラは香りに誘われる蝶のように、思わず数歩進み出た。
近づき、姿を見せたのは一人の女性。
初めて見る顔だったが、その声はナミラがよく知るものだった。
「ウルミさん」
ほっとした表情で、ナミラが呟いた。
「ナミラ……坊ちゃま?」
驚き目を丸くした女性は、ランプを落としてしまった。




