『犯人の瞳2』
ナミラは、ベッドの脇に立つ執事を鋭く睨みつけた。
シャラクは微動だにしなかったが、細い目が微かに泳いだのをナミラは見逃さなかった。
「……これは突飛なことをおっしゃる。私にそんなことができるはずがありません」
「できるんだよ」
シャラクが言い終わると、ナミラが間髪入れず語り始めた。
「あんたはあの夜よりずっと前から、ウルミさんの正体に気づいていた。そのうえで、泳がせていた。彼女が使ったという催眠香も多少は効果があったかもしれないが、他の人たちより効き目は弱かったはずだ」
ナミラは迷いなく言い切った。
「だから、戦いの一部始終をあんたは見ていた。決着が着くと俺たちを保護し、ウルミさんは死んだことにして別の場所へ匿った」
「それは面白い発想でございますな」
「きっと最初、あんたの狙いは父さんだったんだろう。でも、南へ出兵してしまった。困っていたところに、ウルミさんとの戦いが起きた。そこで俺の実力を知ったあんたは、狙いを俺に定めた」
「狙い? いったい、どんな狙いがあるというのです?」
一呼吸置いて、ナミラはシャラクを指差した。
「サキュバスクイーン、マーラをけしかけたのも、あんただな」
シャラクの細い糸目が開く。
一切乱れることのなかった執事の顔が、初めて驚きに染められた。
「……そのサキュバスクイーンから聞きましたか?」
「まさか。あれでもクイーンだ。恩を仇で返すようなことはしないよ。彼女からはなにも聞いていない。あんたも教えてもらえなかったんだろ? 生気は吸収しているのに、どうしてナミラは生きているのか。まぁそれも、俺とあんたへの義理を通したんだ。怒らないでやってくれ」
「いえいえ坊ちゃん。私は先ほどからなにも認めていませんよ? たしかに、坊ちゃんがおっしゃることが出来ればすごいですが、私にはとてもとても。サキュバスの知り合いなんていませんし、この老体では怪我をした坊ちゃんを運ぶだけでも一苦労です。第一、どうやって王都中に嘘の話を広めるんですか? あまり、年寄りをいじめないでください」
シャラクが困った表情を浮かべ、ポケットから取り出したハンカチで汗を拭う。
「どうしても私を疑うとおっしゃるのであれば、この目を見てください。これでも嘘をついていると言いますか?」
前髪を上げ、額を拭い、シャラクはナミラに顔を近づけた。
「ぐおおおっ!」
その瞬間、シャラクの体に激痛が走った。
ダンとテネシーが腕を捻り上げ、デルが糸で体を縛った。アニ、アレク、バーバラが剣を突き付け、モモとルノアが呪文の詠唱をしている。
「こ、これはっ!」
「馬車には先に帰ってもらいましたよ。私たちは、帰ったフリをしてモモちゃんの魔法で姿を消して隠れていたんです」
アニが冷たい視線を向けながら言った。
「ば、馬鹿な。どうやって、この部屋に」
「この屋敷には、帝国時代に増設された隠し通路がいくつもあるのさ。古い文献を読み漁らなければ、知り得ないことだけど……『光生』」
ルノアが自分の功績を自慢しながら、光の魔法を放った。
白い光玉はナミラの頭上へ飛び、シャラクの視界を遮った。
「……その対策。まさか、私の正体もご存じで」
「あぁ。光が邪魔するから、俺たちを視ようとしても無駄だよ」
ナミラはゆっくりとベッドから降り、シャラクと向かい合った。
「さ、話を聞こうじゃないか。魔族の中でも数少ない魔人。三ツ目族のシャラクさん」
なにもかもを知られ、観念した笑みを浮かべてシャラクは顔を上げた。
眩しさに細める両目の上には、額を隠す巨大な瞳が現れていた。




