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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第六章 滅亡の因縁
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『因縁』

 紅い夕日を受け、さらに深みを増す紺碧の薔薇。

 凛と偉大に、この世に存在するのが己のみかのように佇んでいる。その美しさはすべての心を虜にし、宿す冷気はあらゆる生命を赦さない。

 天上天下を貫く氷の超天魔法が、この世界顕現した。


「本当に……人間か?」


 ガルダが息を飲む。

 自らも同じ威力のものを撃てなくはないが、一国の環境を破壊するほどの魔素が必要になる。

 それを自分の魔力だけで賄ってみせた少女に、魔喰とはべつの恐ろしさを感じていた。


「はぁっ……はぁ……あっ」


 人類初の偉業を成し遂げたモモは、杖にしがみついたまま全身を痙攣させていた。


「す、すごい……い、今までで一番……はっ、あっ、やっ……」

「モモちゃん?」


 アニが駆け寄る。

 妙に艶っぽい声に反応した、ダンとデルの視線を遮るように立ち塞がった。


「……すごかった……こんなの、はじめて……ふぅ……んぅ!」

「魔力よね! 魔法の話よね!?」


 足をガクガクと震えさせ、モモは立つこともままならなくなった。

 アニは慌てて自分のマントをかけてやり、恍惚の表情を浮かべるモモを支えた。


「え、えーっと! これは勝ったってことでいいのか?」

「いや、まだだ」


 声を張り上げ自分に注目を集めたシュウの問いに、ナミラが舞い降りながら答えた。

 

「……冗談だろ?」

「冗談なんかじゃないよ。超天魔法は見ての通りだけど、あくまで魔法だからね。魔喰にとってはごちそうかな。ま、この魔力量と密度なら、すぐには吸収できないだろうけど」


 見上げたナミラの視線の先。

 天上で咲く一枚の花弁が、僅かに溶け始めた。


「みんな、今のうちに下がってくれ。あとは俺一人でなんとかする」

「そんな! 一人なんて……」


 アニは先の言葉を口にすることができなかった。

 傷ついた自分たちでは、足手まといになると理解していた。


 しかし、悔しさで胸がひどく痛む。


「ありがとう、アニ。でも大丈夫、勝算はあるんだ。魔喰を倒すには、先に依代を破壊しなくちゃいけない。そのためには、魔素や魔力を許容量以上吸収させる必要があるんだ」


 絶氷青薔薇ブルー・ローズを指差し、ナミラは明るく語った。


「バジラナを切り離すことには成功した。あと一歩で依代は破壊できる」

「しかし、本体は……」


 ガルダが険しい顔で進み出る。

 万象王の死という悲劇が、脳裏に蘇っていた。


「たしかに、一度は返り討ちに遭った。だが、今はあの時代にはなかったものがある。大丈夫、俺を信じろ」


 頼もしい笑顔のナミラに、精霊王たちは頷いた。


「分かりました。ではナミラ様、もし魔法を使うのならば、我らの魔素をお使いください」

「馬鹿。そんなことをしたら、お前たちの力が」


 ガルダは首を横に振り、笑った。


「魔喰は我らにとっても因縁の敵。せめて、ご助力させてください」

「……分かった」


 深々と頭を下げた四人に、ナミラそれ以上なにも言わなかった。


「では、我らは兵士たちを運びましょう」

「そうしてくれ。ゲルトさーん! その戦車に乗るだけ乗せてくれー!」


 ナミラに呼ばれ、ゲルトがため息をつきながら戦車を近くに停めた。


「ったく、俺はただの商人だぞ? こんな最前線、場違いだっての」

「そう? 俺はなんだか運命感じてるんだけど」

「なんの運命だ……勘弁してくれぃ」


 さらに大きなため息と共に、ゲルトは愛馬の頭を撫でた。

 前線にいたシュウたちが戦車に乗り、自分以外の者が崩れた砦の向こうに行ったことを確認すると、ナミラは再び青薔薇と向き合った。


「さて……出迎えの準備をしなくちゃな。使わせてもらうぞ、精霊王たち」


 愛刀を鞘に戻し、両拳を握る。


「はああああああっ!」


 先程のモモと同じように、大量の魔力を練り上げる。

 両腕に装備した篭手と胸当てのスフィアが輝き、力のレベルを押し上げる。杖の製作ついでに作った、オリジナルの装備。ぶっつけで使うことになったが、効果は期待以上だった。

 今まで得てきた数多の前世。

 彼らが有していた魔力だけではなく、精霊王たちの魔素も取り込み、一つの巨大な力に変えていた。


「こっからじゃよく見えねぇな」


 テーベ村に続く街道で、ダンが呟いた。


「それなら、ほれ。遠見の魔法じゃ」


 ガルフが水晶玉を取り出し、ナミラの様子を映した。


「おぉ!」

「さすが賢者様! やっと役に立った!」

「今日イチの活躍!」

「儂泣くぞ?」


 がっくりと肩を落としたガルフは、モモに頭を撫でられた。


 グ、オ、オ、オ、オ。


 永遠に咲き誇るかのように思われた薔薇に、巨大な亀裂が入る。

 同時に、二度と聞きたくない唸り声が響き渡り、兵士たちは皆身震いした。


「出てくるか。こっちも準備できたぜ!」


 グギャアアアアアアアオオォォォ!


 世界が恐怖する絶叫。

 青薔薇を喰らい尽くした魔喰は再び巨大化し、ナミラを憎らしげに見下ろした。

 そして、魔力を放出しすべてを破壊しようと背を丸めた。


「それを待っていた!」


 ナミラのほうが一瞬早く、溜めた魔力を外へ出す。


「『我万象王也ゼノ』」


 黄金に輝く絶対の力。

 どこにも非のない球体が対象を閉じ込め消滅させる、逃れようのない尊き御業。


「まさかもう一度、この目で見られるとは……」


 精霊王たちが感涙を流す。

 目の前で光を放つのは、十万年前魔喰の依代を破壊した万象王ゼノの奥義であった。


「うぎゃあああああああ!」


 光の中から、男の悲鳴がこだまする。

 魔喰の雄叫びではなく、人間のもの。依代となった皇帝カリギュリスの、苦悶の声だった。


「やっと許容を超えたか。バーサ帝国の皇帝カリギュリス」


 ナミラは光の中に向かって言った。

 【解析眼】で、事の真相はすべて理解していた。


「ナ……ミラ……タキ……メノ」


 恨みか、それとも皇帝としての称賛か。

 絞り出る声からは、乗せられた感情を読み取ることはできない。


「おう、そうだ。俺はナミラ・タキメノ。お前を倒した男だよ。しっかり魂に刻んでおけ。それで」


 ナミラが立てた親指と、満面の笑みを向ける。


「来世は仲良くやろうぜ!」


 人間としての姿や尊厳すらも失った、皇帝カリギュリス。

 太陽の如き光に包まれた、すべてを飲み込む漆黒の闇のさらに奥。誰も見ることのできない深淵の底で、その瞬間、たしかに彼は笑っていた。


「はああああああああああああああ!」


 ナミラが両手をかざし、さらに力を込める。

 光の球はみるみる縮小し、音もなく消えた。

 

 ザンッ。


 依代も蓄えた魔力も消滅し、魔喰の本体は黒く染まった大地に突き刺さった。


「勝ったああああ!」

「ナミラ胴上げだー!」

「まだだ!」


 喜びで飛び跳ねる人間たちを、ガルダが一喝した。


「ここまでは十万年前と同じだ。ここからだ……」


 精霊王たちは手に汗握り、固唾を呑んでナミラを見守り続けていた。

 そのただならぬ様子に喜びは瞬時に姿を消し、重い緊張が再来した。

 

「さて」


 ナミラがゆっくりと、魔喰に向かって歩き始めた。


 ここまでは計画通り。

 しかしここからは、どの前世も知らない可能性の世界。

 アニには勝算があると言ったが、半分嘘をついていた。勝算と呼べるほどの確証はない。だが、これ以上有効な手段も他にはない。


 今まで出会った人も乗り越えた試練も、すべては前世からの運命であり、この魂が積み重ねた輪廻の賜物。

 

 ならば、俺はこれまでの人生すべてを信じる!

 すべてを賭けて、この因縁を断ち切ってみせる!


 より強い覚悟が、ナミラの目に灯った。


 その瞬間。

 魔喰がナミラに向かって飛んだ。


「馬鹿な! まだその距離では!」


 ガルダが声を上げる。

 ゼノも同じように襲われ、心臓を貫かれた。しかし、反応を示したのはもっと近づいてからだったはず。そしてそのことを、ナミラが覚えていないわけがない。


 離れて見ていた誰もが虚を突かれた。

 目を背けたくてもその隙すらない。

 瞬きの間の、一瞬の出来事。


 ナミラの胸当てを、魔喰の刃が貫いた。

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