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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二章 少年の日の思い出
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『迫る驚異』

 シュウたちが砦へ向かったその日の夜。

 仕事を終えた村人たちは不安を抱え、いつもと違う一日に疲れを感じていた。


 それは現村長であるバビも同じだったが、就寝前に予定にない客人を寝間着姿のまま対応していた。

 

「で、なんの用だ?」


 バビは不機嫌を隠すことなく、昨年からさらに太った腹を撫でた。

 目の前にはガイとゲルト、そしてナミラが座っている。


「くだらんことだったら寝るぞ」

「バビ村長。こっちは寝ずに馬車を走らせてきたんで、眠たさなら負けませんぜ?」


 ゲルトの軽口をふんっと鼻で笑い、バビは黙った。


「村長、この村に盗賊が迫ってきている。急いで守りを固めないと、明け方には攻め込まれるぞ」


 深刻なガイの言葉にバビはポカンと口を開け、驚きと共に睡魔を逃した。


「とととと盗賊? な、なんで!」

「盗賊が来る理由なんて、奪うために決まってますでしょう?」


 今度はゲルトが笑った。


「い、いや、そうでなくて。なんで来ることが分かったのだ!」

「俺です」


 黙っていたナミラが静かに口を開いた。


「俺が動物と話せるのは知ってますよね? 彼らが教えてくれたんです。ただ、敵の規模やどこから来るのかとか、詳しいことが分からなかったんですけど」

「そこで俺です」


 ゲルトは得意げに、そして悲しげに語り出す。


「いやね、本当に偶然なんですよ。西の連合国からこの村にやって来る途中に、その盗賊団と出くわしまして。それで、命からがら徹夜で逃げてきたってわけです。おかけで商品は無くなりましたけどね」


 ため息をついたゲルトが俯く。


「ゲルトさんのおかげで色々分かりました。その盗賊団は少なくとも百人以上いるようです。魔法使いの男もいたみたいで、旗印から『斬竜団』という、ここらで一番大きな盗賊ということも判明しました」


 ナミラの話を聞きながら、バビはワナワナと震え叫び出した。


「なぜ今なのだ! 冒険者はみんな北の砦に行っておる! 明け方など、王都への救援要請も間に合わんぞ!」

「だからですよ、村長。村人たちは武器をかき集めたり、もう行動を起こしています。今のうちに守りを」

「そんなもん、残った連中でなにができる! すぐに逃げたほうがいい!」


 バビは鼻息荒く叫び、そのまま飛び出して行きそうだ。


「今から逃げても間に合いません。奴らが来たのは西ですが、部隊を分けて王都への街道も押さえています。西と南から、じりじり囲まれてるんですよ。東は森が続きますし、北は言うまでもないでしょう?」


 真っ青になったバビは、子どものように地団駄を踏んだ。


「ふざけるな! それなら戦わず降伏する! やっと町への昇格の話が上がってるんだぞ? 余計な被害を出すわけにはいかん!」


 三人は目を丸くしたが、すぐに怒りに顔を染めたガイが噛み付いた。


「なに言ってんだ! 降伏なんかしたら、なにされるか分からねぇのか?」

「被害を最小限に留め、機嫌を取って時間を稼ぐのだ! その間に、王都から派遣された北への援軍が、村に立ち寄るはず。それまで耐えるのだ!」

「馬鹿か!」


 力いっぱいテーブルを殴り、ガイが吠えた。


「黙れ、酒場の店主ごときが! ゲルト、お前も無礼だ。町になってもここで商売できると思うなよ? ナミラ! お前も煽ててたらいい気になりよって! お前が自由にできるのは誰のおかげだと」

「いい加減にしろぉ!」


 唾を撒き散らして喚くバビだったが、突如響いた怒鳴り声に黙ってしまった。

 声の主はナミラだったが、初老の男性のように厚みと迫力のある声を発していた。


「貴様、この家の家訓を忘れたか! 『村を襲う者あれば、先頭に立って戦え。たとえ焼け野原になっても、子どもさえ生きていれば村は続く』なのに貴様は己の利益を優先か! 恥を知れ!」


 ナミラはみるみるうちに、口髭を蓄えた男性に姿を変えた。

 真似衣の魔法で、初代村長のラビに変身したのだ。


「え、誰? え、あれ? ひいじいちゃん? 初代様?」


 肖像画で知るその顔に、バビは目をパチクリさせた。


「もういい。逃げたければ逃げろ。儂らは勝手に戦う。だが、この屋敷にある武器防具はもらっていくぞ」

「へ?」


 バビは情けない声を出し、目を泳がせ始めた。


「これも家訓で決められているだろう。このような事態のために、常にある程度の武器類を備えておくと」

「……売った」


 消えそうな声がナミラの耳に入った。


「なんだと?」

「売ったのだ! あっても邪魔だし、こんなことになるなんて思わなかったのだ! 父ちゃんの頃には、一度も襲われたりしなかったから!」


 ラビとしての顔がどんどん歪む。

 呆れと失望が隠すことなく現れていた。


「なんのために、この村長邸が北の端にあると思う? 帝国との戦いになったとき、真っ先に盾となれるようにだ。この……この大馬鹿者がぁ!」

「ぶぎゃ!」


 豚のような悲鳴を上げ、殴られたバビはソファーの上に伸びた。


「お、おいおい」

「ナミラ……で、いいんだよな? これからどうすんだ?」


 大きく深呼吸をしながら、ナミラは元の姿に戻った。

 どうやら特定の事案に遭遇すると、関係する前世の感情が強く現れるらしい。ラビとしての怒りが、まだ胸で燃えている。


「この家には、村人の避難のために地下室が備えてあります。とりあえず、戦えない女性や子どもはそこに避難してもらって、このアホも縛りつけておきましょう」


 頭を切り替え、ナミラは迫りくる驚異に意識を向けた。


「俺に考えがあります。協力してください」

「おう、当たり前だ」

「まぁ、行商人にできることがあれば惜しまないが。ところでナミラ」


 ゲルトは腫れ物に触るように、恐る恐る話しかけた。


「さっきの、一体なんだったんだ? あの怖いおっさん……誰だ?」


 ナミラは笑いながら、ゲルトにも自分の能力について説明し、改めて協力を求めた。


 その後、ダンたちと合流し作戦を決行した。

 できることは限られていたが、それ以上に時間がなかった。


 朝日が顔を出す頃。

 テーベ村を狂喜の視線が取り囲み、刃を向けた。

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