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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二章 少年の日の思い出
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『行く者見送る者』

 声に反応しないよう気をつけながら、ナミラは慌ただしい村の中を進んだ。

 早朝だというのに、誰も文句を言わずに働いている。


「母さん、大丈夫?」

「うん、平気よ。ありがとう、ナミくん」


 途中、少し息の上がった母を心配した。


 ファラも普段は畑仕事をしているが、ナミラやアニと比べると体力に差がある。しかし、微笑みながらもまっすぐ前を見つめる姿に、ナミラはこれ以上なにも言うまいと歩を進めた。


「来た来た、遅いよー!」


 目的地では先に着いたデルが手を振って待っており、ダンは荷物の運搬を手伝っていた。


「ナミラ、ファラさん。もう時間がない、はやく」


 走り寄ってきたガイに頷き、親子は小走りで向かった。


 ここは、テーベ村北の門。

 砦へと続く街道が伸びており、今まさにシュウが砦へと帰還しようとしているところだった。


「父さん!」


 ナミラの声に振り返ったシュウは、パッと明るく笑った。


「おぉ、来てくれたか! よかった、見送りなしはちょっと寂しいからな」


 ふざけるように笑うと、シュウはナミラの肩に手を置いた。


「お母さんとこの村を頼む。悔しいがお前はきっと、今の父さんより強い。だから、一人の男として頼む」


 父の目には、語り尽くせない想いがあった。

 ナミラはまっすぐ見つめ返し「わかった」と頷いた。


「あの、これ……」


 ナミラの脇で、ファラが消えそうな声で持っていた袋を差し出した。


「焼き菓子、焼いたの。朝、みんなで食べようと思って。お腹、空いたら、砦の人と食べて。それから、それから……」


 シュウはファラの言葉を待ちきれず、愛する二人を力強く抱きしめた。


「必ず帰ってくる! 約束する。そしたら、みんなでお腹いっぱい食べよう!」


 シュウの目は赤く、ファラは泣きながら何度も頷いた。

 そしてナミラは、なにも言えずに唇を噛むことしかできなかった。


「それじゃあ、行ってくる」


 シュウは愛馬に跨り、見送りの人たちを一瞥した。


「子どもたちを頼んだぞ、ハゲ!」

「いい加減手柄立ててこい、アホ!」


 最後にいつもの悪態をつき合うと、シュウは街道を風のように走り去った。


 父の姿が見えなくなるまで見送ったナミラの胸には『命を賭ける者を送り出す側の気持ち』が宿っていた。


「なんでだよ! 連れてってくれよ!」


 シュウから一時間ほど遅れて、冒険者の一団が出発しようとしていた。

 そしてそれに同行しようと、ダンとデルが言い寄っていた。


「お前たちは冒険者じゃないだろ。冒険者登録できるのは十五歳からだ。お前たちは資格さえない」


 リーダーのゴーシュが、馬から降りずに答えた。


「今年の誕生日で十五になるんだからいいだろ!」

「ガルゥだって倒したんだ! 絶対に戦力になるからさ!」

「いい加減にしろ!」


 プロの一喝に、二人の勢いは止められてしまった。


「いいか? これから行くのは戦場、準備周到の魔獣討伐とはわけが違う!」


 デルは言葉が出なかったが、ダンは「でもよ」と不満を漏らした。


「聞け、お前ら」


 ゴーシュの声に落ち着きと優しさが灯った。

 ダンたちを止めにやってきたナミラとアニも、ゴーシュの言葉に耳を傾けた。


「お前たちの実力を疑ってるんじゃねぇ。信じてるからこそ、残ってほしいんだ。お前たちが村にいてくれれば、後ろを気にせず戦える」


 ゴーシュはニカッと笑い、ダンに自分の短剣を投げた。


「そもそも、お前たちは『テーベ村きしだん』だろ? 遠征は俺たちに任せて、この村をしっかり守ってくれ!」


 笑顔のまま、ゴーシュはパーティを伴って走り出した。

 テーベ村きしだんは、ゴーシュの言葉を胸に送り出したが、ダンだけは悔しそうに短剣を握りしめていた。

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