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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二章 少年の日の思い出
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『みんな、死ぬ!』

「お、来たか」


 ギルド館は登録している冒険者に食事の提供もしており、丸いテーブルと椅子がいくつも並べられていた。

 奥にはギルドの旗が飾られ、その下に冒険者登録やクエストの手続きを行うカウンターがある。

 

 正面のテーブルに、大剣を背負った男が腰かけていた。


 男は道具屋の次男でゴーシュという。


 店は兄が継ぎ、自分は冒険者として腕を振るっている。村の警備を王国と協力して行っており、テーベ村に駐留する冒険者のリーダー役を努めていた。


「早速だが、お前たちの狩ってきたガルゥについて話がある。みんな、ここに」


 七人はゴーシュの腰かけていたテーブルを囲んだ。


「四年前と今回、奴らはどこから来たのか。ギルドでも調べていたんだが、シュウさんに情報提供してもらって、あらかた検討がついた」


 ゴーシュは地図を広げ、ある点を指差した。


「恐らくガルゥは北、バーサ帝国領から来たんだろう」


 そこはテーベ村にとって最も近い隣国。

 しかし、過去に起きた戦争で王国からのイメージは決して良くない。皇帝による独裁で、冒険者や行商人でも限られた内情しか知らない謎多き大地だった。


「バーサ帝国……」

「ここからは俺が変わろう」


 話を変わったシュウが、自身が駐在する北の砦を指さした。


「ここがバーサ帝国との国境、北の砦だ。テーベ村までは大きな街道が伸びているが、帝国側には荷馬車がやっと通れる悪路が繋がっているだけ。向こうの砦も、その道を進んだ先にあるゼノ山脈の麓に建てられている。天気のいい日には、ここからも見えるだろう? その理由はここ、封魔の森だ」


 くるくると円を描き、シュウが帝国側の黒く塗りつぶされたような場所をなぞる。

 それは、帝国と王国を壁のように遮るゼノ山脈をぐるりと囲んでいた。


「この森はエルフが管理していて、人間とは街道以外不可侵の条約を結んでいる。でも、定期的に砦周辺の調査を行うから、そのときは案内人のエルフが来てくれるんだ。四年前のあの日、そのエルフが言っていた。森が騒がしいって」

「森が?」


 アニが首をかしげた。


「うん。そしてその日、調査に出た小隊が魔物に襲われたんだ。それだけじゃない、森にあるエルフの集落のひとつも、襲撃を受けた」


 全員固唾を飲んで、シュウの話に耳を傾けた。


「王国側の森は魔素が少なくて、魔物も魔獣もいないはずなんだ。なのに、あの日は複数の場所で現れた。今でも、原因は分かっていない……」


 シュウの顔が一層険しくなる。


「あとで知ったんだが、森の中にある国境線の防衛魔法に綻びが見つかったらしい。きっと、四年前のガルゥはそこから国境を超えてこの森に来たんだろう」

「ちょっと待って! なら、今日のって……」


 アニは、それ以上言葉が続かなかった。

 全員、同じことが頭をよぎったのだろう。特にナミラは、父に似た険しい顔で杖を握っていた。


「緊急報告! 緊急報告!」


 館内にけたたましい音と、緊迫きんぱくした女性の声が響いた。


「北の砦より、何者かに襲撃を受けたとの知らせあり! 繰り返す、北の砦が襲撃を受けたとの知らせあり! これより、救援要請に従い緊急クエストを発令する! 繰り返す……」


 アニとデルは絶望の表情を浮かべ、ダンは「マジかよ」と呟いた。


 ナミラは天井を睨み、まだ見ぬ相手に敵意を向けた。



 そして現在。

 大人たちは武器や魔法薬の準備と搬送に追われている。

 ギルドに発令されたクエストは、砦の支援と防衛。しかし、肝心の敵の正体は知らされず、村では「戦争が始まるのではないか」との噂が広まっていた。


「大丈夫さ。この数十年、帝国とは平和にやってきたんだ。楽観はできないけど、たぶんガルゥみたいな魔獣や魔物が大量発生したんだよ」


 不安げなアニに、ナミラは優しく微笑んだ。

 しかし、心中は決して穏やかではない。その耳には、北から逃げてきた動物や虫たちの声が聞こえているのだ。


「危険! 危険! 砦、危ない!」

「エルフ、死ぬ! 人間、死ぬ! みんな、死ぬ!」

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