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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部三章 王都動乱
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『建国祭 時を経た告白』

 仲間たちが危機を脱する中、ナミラは誰よりも速く空を駆けていた。

 あとを追うは研ぎ澄まされた竜巻の牙と、殺戮を目的に生まれた炎鳥えんちょうの群れ。他の魔法よりも速い速度を誇り、互いに相乗効果を持つ二つの属性は決して獲物を諦めない。

 

闘竜鎧気とうりゅうがいき!」


 街への被害が出ない高さまで飛んだナミラは、闘気の鎧を身に纏った。


「でやああああああああ!」


 先に飛び込んできた鳥たちを、高速の剣撃で斬り裂いていく。

 瞬く間に数を減らす炎の背後から、隙を狙って風の獣が牙を突き立てようとする。ナミラは手を止めず、そちらを睨み呪文を唱えた。


「『永久とわに消えぬ炎の化身よ 夕焼けに棲む美しき翼よ 我が声に応えよ 燃える燃える紅き鳥 孤高の王者に力を乞う 業火 ほむら 弔いの篝火かがりび すべてを灰に帰す清浄を 極炎鳥降臨バーン・フェニクス!』」

「なに!?」


 驚きの声を上げたのは、ルーベリアだけでなかった。

 ガルフやモモも、目を見開いてナミラを見ている。少なくとも、魔喰と戦ったときにはナミラは最高位魔法を使えなかった。初対面だったモモのおかげで呪文は知っていたが魔力足りず、万象王の能力では環境へのリスクが高かった。しかし、魔族たちの前世を得たことで身に宿る魔力はモモに次ぐものとなったのだ。

 それ故、今のナミラは最高位魔法をも操れる。最強クラスの闘気と併用できるのは、世界で一人だけの奇跡であった。


「あは、あはははははは! 王都を燃やし尽くすつもり?」


 紅に染まる空を見上げながら、ルーベリアが声高に笑った。


「見せてやる」


 ナミラは呟くと、空から墜ちる極炎鳥に向かって飛んだ。

 あろうことか、真正面から受けようとしている。


「ナミラ!?」

「ナミラくん!」


 アニとモモの悲鳴に似た声が重なる。

 同時にナミラは火の最高位魔法をその身に受けた。


「おおおおおおおおおおおおお!」


 あらゆる生命が一瞬で灰になる炎。

 しかし、ナミラが纏う闘竜鎧気は翼の一片まで残さず取り込んだ。巨大な炎は凝縮され、闘気と混ざり合い新たな力へと変化する。


闘魔融合とうまゆうごう


 闘気の雄々しさと魔力の神々しさを合わせ持ち、極炎の翼を広げた鎧が現れた。


「闘竜鎧気・炎翼えんよくそう!」


 絶え間なく襲っていたルーベリアの鳥たちは、放たれる力の前に消滅した。

 すかさず風の最高位魔法が襲う。

 獲物を捉えた竜巻の牙だったが、一瞬で炎に包まれ熱い風となって消え、土の大盾も振るわれた剣の熱波に飲まれ乾き砕けた。


「な……」


 ルーベリアは言葉を失った。

 すべての魔法を退けられた上に、過去に例のない圧倒的なナミラの力。ギフト【前世】を知らぬ彼女には、存在を受け入れることすら困難であった。


「ルーベリア先生、もうやめましょう」


 熱波を放ちながら、ナミラが目の前に立ち塞がる。

 ダンはアニとデルに両脇を支えられてなんとか空を飛び、仲間たちは無事に集結した。


「ルー、どうして……」


 悲痛な面持ちで、ガルフが声をかけた。


「……貴方のせいじゃない」


 かすかに震えながら、ルーベリアは口を開いた。


「あの日、学生だったあのとき! 私は貴方に告白してフラれた! 忘れたとは言わせない! 貴方が受け入れてくれていれば、私は……」


 自己愛に満ちていた目に、うっすらと涙が浮かんだ。


「受けてよかったのか? お前が受けるなと言ったのではないか!」


 回復しきっていない体で、ガルフが声を上げた。


「なにを言って」

「お前こそ忘れたのか? 学院へ入学するときに言ってきたではないか。『私は魔道を極める。だからもし、私が他のことにうつつを抜かすようなら止めて。そうね……くだらないお遊びや恋愛なんかがまさにそれよ』と」

「え……」


 ルーベリアは目を丸くして固まった。

 必死で記憶を辿り、過去の光景を蘇らせる。ガルフが語る自分はなにも知らぬ子ども。己の限界も、ガルフに抱く感情の名前さえも、何一つ知らなかった愚かな自分がいた。


「だから、儂はお前の申し出を断り今日まで友であり続けたのじゃ。儂はお前のためを思って、断ったのじゃ!」

「そ、そんな……わた、私は」


 ひどく動揺するルーベリアを、ガルフは曇りなき瞳で見つめた。


「まさか、お前にあのときのことを恨まれるとは。じゃがな、言わせてもらうぞ? 当時は儂こそお前を恨んだ。儂は……お前を好いておったのだから!」


 アニとモモが、咄嗟に頬を赤らめた。

 皆ガルフに注目していたがナミラだけは、ルーベリアの体に小さな亀裂が入ったのを見逃さなかった。


「学院に入学する前、賢者塔で出会った幼き日! 同じ師の下で力を高めあったあの日々から、儂はお前を想っておった! ルーベリア・ユダ・マリア! 儂が愛したお前はそんな姿ではない! 儂と共に永い年月を過ごしてきた、今のお前を愛しておる!」


 永く永く閉じ込めてきた想い。

 雷迅の賢者として崇められる男は、少年のような目をしていた。


「わ、わた、私、は……」

「ルーベリア先生」


 両手で顔を覆い、震えるルーベリアにナミラが優しく声をかけた。


「俺は、あなたをそんな姿にした原因に心当たりがあります。まだ間に合います、戻ってきてください。学院に、ガルフ様の元へ」

「ルー!」


 すがるように、ガルフが手を伸ばした。


「あは」


 白い指の間から、狂った笑みがこぼれた。

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