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「モニターに映します」



アルファが画面に映したそれは大きい様に見える。


宇宙空間では対比する物が無い為、印象ではあるが。



「どれくらいだ?」


「ビックマムの約3倍というところです」


「…随分ざっくりとした説明だな?」


「詳しいデータで言いますか?」


「いや、いらん」



詰まらなそうに船長が会話を打ち切ると、アルファは私達デッキに居る者全員に報告する様に言った。



「未だに発信は続いています。内容は同じで完全な文章になっていません。船体に書かれている船名はエクリプス。検索をかけます」



エクリプス。日蝕とは宇宙船らしい響きとも感じられる。



「エクリプス?何を隠しているんでしょうね?」



パーマー監督官が呟いた。


…あぁ、隠すという意味もあるか。


まさかそんな船名で密輸などすまい。出来過ぎで笑い話になってしまう。


彼が連想したのは恐らく積載物資だろう、所謂『お宝』が隠されていると想像を働かせたのだ。



「検索終了しました。移民船です。二百年程昔のものです」


「二百年?そんな骨董品が…いや待てアルファ、移民船だと!?」



船長が驚くのも無理は無い。


二百年前の移民船が宇宙に浮かんでいて、曲がりなりにも音声信号を発信する動力が残っている。


…という事は。



「遭難船という事か?中に冷凍睡眠中の人間がゴッソリいるんじゃないだろうな?」


「ふ~む、それはそれで悪い話じゃないですね」


「は?パーマー、本気で言ってるのか?」



この船唯一の部外者と云っていい男が問題発言をしてくれた。



「まぁ、船長。考えてみて下さいよ、たとえ物資をサルベージ出来無いとしても、人命救助となれば政府からのボーナスが見込めるじゃないですか」


「……パーマー、パーマー監督官、話を聴いていなかったのか?この船の三倍だぞ?おいアルファ!記録には乗客乗員併せて何人だ?」


「1万208名です。船長」


「聞いたか?積載一杯詰め込んでるこの船に入るか?積み荷全て棄てても無理だ!救助出来るだけ救助したとして誰を乗せて誰を捨てるんだ?」


「いやしかし、救助しない訳には…」


「船長、国際法上では」


「アルファ!よく考えろ!動力があるならすぐには死なん、冷凍カプセルが壊れない限り。通報だけで足りる!」



参ったな…



「パール!君はどう思う?」


「船長、パール主任は本社の備品ですよ?アルファやベータと同じ」


「…パーマー、このサルベージ騒ぎで一番割りを食ってるのは彼女達だ。何の見返りも無いんだぞ?意見くらい言わせろ!」



やはり。話を振られると思った。


本来私は意見を言える立場では無いのだが…



「…まず、情報が足りな過ぎです。雑音で意味の解らない通信ではなんとも。ドッキングして向こうのAIを解析するのが先決でしょう、その後で方針を達して下されば良いかと」



あの船に何が起きたのか、どんな状態なのか、今のところ何一つ判っていないのだ。



「…もし生存者がいたら船長の言う通り通報すればいいのです。冷凍睡眠中でも積み荷の権利があるのですからサルベージはせずに」


「まぁ、それが妥当じゃろうなぁ」



今まで静観していたドテ医師がまとめてくれる。



「実際、この船の医療機材では限界があるわい。向こうが伝染病なんぞで全滅しとったらコトじゃ。アルファ、そこんとこも解析しておくれ」


「はい。ではドッキング後、エクリプスAIと交信解析を行います」



船長も監督官もお互いにいい顔はしない。が、取り合えず船長は納得してくれた様だ。




────────



「申し訳ありません船長、あの場ではああ言うしかありませんでしたので」


「いや、いいんだパール。適切な助言だよ、私が言うべき言葉だったんだが…あまりにも頭にきてな」



食堂で船長と食事を共にしながら、今後の事を話す。



「アルファの解析待ちではあるが…このまま帰るのが一番だな」


「お?お二人さん、相席してよいかの?」



ドテ医師がベータを連れて顔を出した。


食堂は私の部下達がたむろしている為、パーマー監督官は近寄らなくなっていた。


仲間外れの様で悪いのだが…


私はドテ医師に訊いてみた。



「Dr.、貴方はどう思います?」


「儂か?君子危うきに近寄らずと云うじゃろ?あの船には入って欲しくないのう」


「Dr.の立場では人命救助を考えるべきでは?」


「だからじゃよ、あの船に病原菌が居ったらお主らが罹患する。お主らを救う方法は中に入らせん事じゃしの」


「我々は備品です」


「そういう考え方はしないで欲しいな、パール。我々は家族同然だ、少なくとも私はそう思っている」


「ありがとうございます、船長」




そう思ってくれるのはありがたい事ではある。



「こうしよう、解析の内容…生存者がいた場合、通報の為速やかに離れる。病原菌など問題がある場合、菌の特定が出来無い、またはウチの医療機材では難しいならやはり速やかに離れる」


「ま、それがいいじゃろ」


「ベータ、聴いてたな?記録しておけ」


「了解しました船長、船を買い取るのはお預けになりそうですね」



ベータは残念そうだ。ここまで来るのに反対してはいたが、『買い取り』に関しては期待していたらしい。


アンドロイドに感情は無いとは謂うが、私にはその様に感じられた。





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