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「……まずい」
「かもね」
今日出した料理は、前に褒められたはずの羊肉のロールキャベツだ。
調理手順も同じ。
材料も、どうせ店長がいないなら使わないと無駄だと思い店用の物を使用した。
にも関わらず、味はもう一歩足りない。
一口食べれば、自分でも分かる。
「料理に集中できなかった。ごめん」
「……いいよ」
彼女は、黙ってロールキャベルの皿に手をつける。
気まずい。
以前の食事で感じた温かい雰囲気とは別物の空気が厨房を支配していた。
「え~と、それで今日は僕の料理を食べに来たの?」
「違う」
「じゃあ……僕を殺しに?」
「もっと違う」
「なら、一体何を」
「……これ」
そう言って彼女はテーブルに何かを置いた。
そこに書いてあったのは、店長の名前と職業が書いてある一枚のカードだった。
「これは、店長のカーストカード!」
「そう。アナタにあげる」
「やっぱり……君が店長を?」
「そんなことはどうでもいい。私と一緒に逃げて」
「逃げるって、どこへ?」
「そのカードの男の悪評が届かない国まで」
「一体、どういうこと?」
現状を上手く理解できずに困惑する僕だったが、深く考えている時間は無かった。
突然、裏の戸が激しく開けられ、衛兵3人が厨房に乗り込んできたからだ。
「見つけたぞルーシー。お前を殺人容疑で逮捕する」
「ほほう、どうやらお前も共犯のようだな奴隷。覚悟しろ」
まずい。
鎧に身を包み、腰の剣に手をかけたままの衛兵。
一方、こっちは丸腰の女の子と奴隷。
三人の衛兵に取り囲まれれば何をしようが、勝ち目は見えている。
しかし、彼女は冷静だった。
「おとなしく逮捕されろ。さもな」
と、衛兵に全ての言葉を言わせる前にノドに何かを突き刺した。
衛兵は口をパクパクさせた後に血を吐いて、ゆっくりと地面に倒れる。
首に刺さっていたのはナイフ。
彼女は丸腰ではなかったのだ。
「き、貴様ッ!」
別の衛兵が、右腕で剣を抜いて威嚇する、
しかし、彼女は自らのローブの中にサッと手を入れると、
両手の指の間に挟みこむようにして八本のナイフを引き抜いて構えた。
そして、鎧と右腕の篭手の間にある僅かな隙間を目掛けて投げる。
腕に命中すると、痛みから反射的に衛兵は剣を握り離してしまった。
その一瞬の隙を見逃さず、彼女は衛兵の背後をとり無言で首を斬った。
残る衛兵は一人。
しかし、最後の衛兵が、彼女の後方から斬りかかろうとしていた。
「あ、あぶない!」
とっさに出た言葉が彼女を救った。
彼女は反射的に前転で斬撃をかわす。
衛兵の攻撃は彼女のロングヘアを捉えただけで済んだ。
斜めに切れた髪が、床に舞い落ちる。
しかし、衛兵はまたしても彼女との距離をつめようと走りかかる。
僕は衛兵の足を、自らの足でひっかけて転ばせた。
衛兵はバランスを崩し、料理の皿が乗ったままのテーブルへと転がりこんだ。
「くっ……奴隷、こんなことしてタダじゃすま」
またしても衛兵の言葉を、彼女が首にナイフを突きつけて静止させた。
「……ナイスアシスト」
「そう言われても全然、嬉しくないよ」
「でも、良かったの? これじゃアナタも同罪」
「衛兵が乗り込んできた時点で同じだよ。
あれじゃ誰が見たって僕が君と密談していたようにしか見えない。
奴隷が犯罪に関与したとなれば死刑さ」
「そうね。ごめんなさい」
「いいよ。それより早く逃げよう」
「任せて。準備は整ってる」
そう言って彼女は僕の手を引いて外へ出た。




