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第一話 「役立たずの雑用係」

「レイン、お前は今日でクビだ」


酒場の空気が、一瞬だけ静かになった。


昼下がりの冒険者酒場。


依頼帰りの冒険者たちが騒ぐ中、《黎明の剣》のリーダー・クラウスは、当然みたいな顔でそう言った。


レインは数秒遅れて瞬きをする。


「……クビ?」


「追放だよ、追放」


隣に座っていた魔導士リリカが呆れたようにため息を吐いた。


「三年も面倒見てもらっただけ感謝しなさいよね」


テーブルの上に、小さな革袋が置かれる。


チャリン、と軽い音。


金貨はほとんど入っていない。


「これ、今月分」


「……少なくないか」


「雑用係にしては多い方でしょ?」


リリカは鼻で笑う。


周囲の冒険者たちも、こちらを見てクスクス笑っていた。


「ついに追放か」


「まぁ当然だろ」


「戦闘じゃマジで役立たねぇもんな」


レインは黙っていた。


反論できないからだ。


実際、彼は弱かった。


剣術適性は最低ランク。


魔力も一般人レベル。


スキルも発現していない。


十五歳の時に《黎明の剣》へ拾われてから三年。


やっていたのは、

•荷物持ち

•野営準備

•素材整理

•武器の手入れ

•地図確認


そんな雑務ばかり。


戦闘では後ろに立っているだけだった。


クラウスは椅子へ深く座りながら言う。


「次の依頼から、お前抜きで行く」


「正直、足手まといだったのよね」


リリカが追撃する。


だがその時。


僧侶のミリアが少しだけ困った顔をした。


「でも……レインがいないと、最近素材集まり悪くなってたし……」


「気のせいだろ」


クラウスが即答する。


「偶然だよ、そんなの」


レインは小さく目を伏せた。


その瞬間。


視界の端に、半透明の文字が浮かぶ。



【嘘】



「……っ」


まただ。


昔から時々見える。


空中に浮かぶ意味不明な文字。


【危険】

【成功】

【失敗】

【嘘】


誰にも見えていない。


昔、親に相談したことがある。


だが返ってきたのは苦笑いだった。


『疲れてるのよ』


『変なこと言わないの』


だからレインは、それを“自分の幻覚”だと思うことにしていた。


見えても無視。


考えない。


そうして生きてきた。


「……分かった」


レインは静かに金袋を掴む。


怒りはなかった。


ただ少しだけ、胸の奥が冷える。


三年間。


なんだかんだ仲間だと思っていたから。


「じゃ、頑張れよ雑用係」


クラウスが笑う。


その頭上に、また文字が浮かぶ。



【成功率:42%】



レインは思わず目を細めた。


数字?


今までよりハッキリ見えた。


だが次の瞬間には消える。


「……なんなんだよ」


「ん?」


「いや、なんでもない」


レインは酒場を後にした。


外は雨だった。


冷たい雨。


石畳を叩く音がやけに大きい。


これからどうする。


宿代も長くは持たない。


冒険者登録はあるが、戦闘能力の低い自分にまともな依頼が来るとは思えなかった。


「……はぁ」


ため息を吐きながら歩いていると。


路地裏の奥から、小さな物音が聞こえた。


ガタン。


レインは足を止める。


薄暗い路地。


雨水が流れ込むその場所に、一人の少女が倒れていた。


銀色の髪。


痩せ細った身体。


首輪。


奴隷だ。


服はボロボロで、腕には酷い痣が残っている。


「おい、大丈夫か」


レインが駆け寄る。


少女は反応しない。


額に触れると、熱かった。


異常な熱。


このままじゃ危ない。


その時。


視界に、今まで見たこともないほど鮮明な文字が浮かび上がる。



【対象:シエル】


状態:衰弱


空腹:極大


信頼度:0


ユニークスキル適性:


【星読】



「……え?」


レインは目を見開く。


今までの断片的な文字じゃない。


“情報”として読める。


しかも。


少女の頭上には、さらに別のログが浮かんでいた。



現在死亡率:78%



レインの背筋に冷たいものが走った。

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