8-7
春先との戦いを終えた隠花とひがんは、闇寧喫茶店へ戻った。
「マスター、ただいま」
「戻りました!」
隠花は笑顔、ひがんは無表情のまま喫茶店へと入る。
「おお! 二人とも無事か!」
いつもはクールでニヒルな雰囲気を出す蝕美だが、今日は違った。
明らかに顔色を変えながらカウンターから出てくると、魔女達の体の事を心配したのだ。
二人はそんな蝕美に対し、何も言わず大きく頷いた。
その様子をみた蝕美は大きく息を吐くと、いつも通りの冷静な表情をしてカウンター内へと戻っていった。
「八坂と藤壺さんはどうした?」
「二人は後始末をするって言ってた」
「そうか……。ひがん、隠花、本当によくやってくれたな」
「えへへ……」
「うん」
蝕美の言葉に、隠花はもじもじしながらはにかみ、ひがんはいつも通りの無表情で軽く一つ頷く。
「ひがん、ようやく目標達成したな」
「うん」
ひがんはいつも通りの無表情で軽く一つ頷く。
「本当に……、長かったな」
「うん」
ひがんはいつも通りの無表情で軽く一つ頷く。
……たとえ、両親の復讐を遂げたとしても、それは何一つ変わらない。
彼女の心は壊れてしまい、もう二度と戻る事はないのだろうか?
彼女はこのまま、虚無で無味乾燥な感情を生涯抱き続けなければならないのか?
蝕美は視線を落とした。
もちろん、その仕草にもひがんは眉一つ動かさないし、表情も一切変えない。
「ねえひがんちゃん!」
「なぁに?」
「折角全部終わったんだから、笑ったり泣いたりしなよ!」
そんな中、隠花はめいっぱいの笑顔を見せながらひがんにそう告げたのだ。
「分かってたんだよ? ひがんちゃんはずっと強がってたって事」
「…………」
ひがんは隠花から目線を逸らした。
だが隠花はひがんから目線を逸らさなかった。
「でももう強がらなくていいんだよ!」
「…………」
隠花ははっきりと力強くそう言った。
それでもひがんの目線は、隠花のやや斜め下の方を向いていた。
そして少しの沈黙の後に……。
「…………」
「ひがん……」
今まで表情を変えた事は数える程しか無かった。
今だって、隠花の言葉に対して何も返すわけもない。
今回だって、いつも通りの態度をとってくると誰もが思っていた。
「…………」
そんなひがんの瞳から、大粒の涙が零れたのだ……。
そしてすかさず隠花は、地に落ちるはずのひがんの涙を指で優しく拭った。
「あ、隠花ちゃん……」
ひがんは口を少しだけ開き、驚いていた。
「えへへ、戦ってた時のお返し!」
隠花は満面の笑みでそう答えた。
いつものようにもじもじとしたり、スカートの裾を握ったりはしなかったものの、紅潮していた。
「ありがとう。隠花ちゃん」
「ひがん、いい友達もって良かったな」
隠花の言動と、笑顔の蝕美からの言葉を聞いたひがんは……。
「すん、すん……」
鼻をすすり、何度も大粒の涙を流し始める。
「うぅ、ありがとう……ありがとう……」
そして涙を自身の両手で何度も拭い、ぎこちない笑顔を見せながらお礼を告げた。
ひがんのその様子を、二人は何も言わず笑顔で見守っていた。




