あんたが抱えているもの全てを
――ガンッガンッガン。
その頃、レプタリア城の玉座でも、サンとアリゲイトとの間で激しい攻防が繰り広げられていた。
しかし、状況は、アリゲイトが優勢。グランディアの獣人の圧倒的なパワーにサンが押されていた。
アリゲイトが斬刃を向けサンに大きく切りかかる。サンは、それをなんとか両手の剣で、受け止めるが、アリゲイトに鳩尾に蹴りを入れられて、大きく後退する。
「おいおい、少しはいい目をする様になったと思ったんだがな。どうした? これじゃあ昨日とかわんねぇじゃねえか」
地面を強く蹴り、大きくサンに切りかかるアリゲイト。サンはそれをなんとかかわし、アリゲイトの腕に切り掛かる。
――カァァァン。
「だから、効かねぇよ」
しかし、鳴り響くのは、鉄と鉄がぶつかるような金属音のみ。反撃として、アリゲイトは自身の剣を大きく横になぎはらう。サンは後ろに引きかわそうとするが、間に合わず、アリゲイトの剣先を胸に受ける。
――ズシャァァァァァ。
「いっつ」
胸を抑え、自身の炎で治癒するサン。そんな彼にアリゲイトは、怒気を含んだ声で言葉をぶつける。
「ふざけるのも大概にしろよ! お前本当に本気でやってるのか? 中途半端な信念で戦場に立つなと言ったはずだぞ」
すると、アリゲイトの目の前の少年は不敵な笑みを浮かべた。
「はははは、ははは」
「何がおかしい」
「いやぁ、ごめん、ちょっと浮かれてたんだ。本当に俺はさ、恵まれてるなって思って」
「は? 何を言っている?」
アリゲイトは訝しげな目を向ける。この少年は、今この状況に浮かれていると言った。命をかけて、彼と自分が信念をぶつけ合うこの状況に。
サンはそんなアリゲイトの視線を受けながら、言葉を発する。
「あんたはさ、やっぱりめちゃくちゃ強いよ。俺さ、あんたが言っていた信念っていうのを見つけるために一晩中悩んだんだ。一晩中迷った。それで今、自分の納得できる信念を抱えて、ここまでこれた。でも、あんたはきっともっとすごいんだ」
胸の再生が終わり、サンは、剣を構え、真っ直ぐにアリゲイトを見据える。そして言葉を続ける。
「あんたはきっとさ、そんな俺の何倍も悩んだんだろ。そしてどんな奴よりも、迷って答えを出したんだ。だからあんたはもう、迷わない。きっと、そんな信念を抱えて戦える人なんてほとんどいないよ。だから俺はさ、最初の旅でそんなあんたと出会えて、こうして戦えて、本当に幸福なんだと思う。でももう、浮かれるのはやめにする」
するとサンは勢いよく地面を蹴った。そして彼は凄まじいスピードで、アリゲイトに向かってあの突きを繰り出す。
「陽天流一照型、木洩れ日!!」
――ガァァァン。
「――くっ」
再び自身の堅固な体で受け止めようとしたアリゲイト。しかし、サンの信念のこもった突きは、そんな彼の体を大きく後ろへのけぞらせた。咄嗟の衝撃に驚くアリゲイト。しかし、彼の本能がすぐに体制を立て直し、そのままアリゲイトは、自身の剣をサンに対して振り下ろす。
「うォォォォ」
「陽天流四照型、旭日!」
――ドガァン。
しかし、そんなアリゲイトの剣を大きく上へ弾き飛ばすサン。そしてそのまま彼は、剣を振った勢いを利用して一回転し、次の照型につなげる。
「陽天流三照型接続、日輪・連!」
「――うっぐゥゥゥ」
サンの攻撃を鳩尾に受け、顔をしかめるアリゲイト。彼は危機を感じ、そのままサンのペースに持って行かせぬ様に大きく退く。そしてサンに対して言葉を発する。
「はっ、浮かれてたってのはあながち間違いじゃないらしいな」
「ああ、あんたのおかげ戦う理由を見つけられたから、俺は簡単には負けないよ。だからさ、あんたも、出してくれよ」
「は? 何を出すんだよ」
「だからさ、俺も出すんだから、あんたも出してくれよ。――本気を」
「……随分口の減らない野郎じゃねぇか。気に入った。じゃあもう少し、俺もお前を殺す気で行こうか」
今度はアリゲイトが鋭く地面を蹴って、サンに対して斬りかかる。サンは、押し負けぬ様両手に力を込めて、アリゲイトの剣を受けた。
――ガキィィィン!!
両者の間にけたたましく響く剣の衝突音。そんな音が鳴り響いたあと、アリゲイトは武器越しに、サンに問う。
「なぉ、サン。ここでお前を戦士と認めて一つ尋ねさせてくれよ」
「なんだよ?」
「お前は自身の信念として、戦争を終わらせると語ったな。だが、どうやって終わらせるつもりだ? カニバルの兵士として俺を倒し、カニバルを勝者に据えて、戦争を終わらせるのか?」
「ああ、それか」
サンは大きく後退し、アリゲイトの方を見据える。そして彼は、アリゲイトに対して言葉を発する。
「俺は、もうカニバルの兵士じゃないよ。辞めたんだ。シェド隊。だから俺は、カニバルの味方でもないし、当たり前だけどレプタリアの味方でもない」
「なんだと? じゃあお前、なんでこの戦場にいるんだ? 一体どういう存在として、この戦場にたっていやがる?」
「どういう存在として、か」
サンは、アリゲイトの言葉を呟いた。そして彼の脳裏に、カナハの墓標が頭をよぎる。カニバル兵でもレプタリア兵でもない今の自分に、何かの名義をつけるなら、きっとあの旗を立てた時から決まっていた。
「そうだな。俺はさ、アリゲイト。きっと、ハクダ団のサンとして、ここに立ってるんだ」
「ハクダ団、だと」
アリゲイトは、明らかに不快そうに眉を顰めた。まるで古い瘡蓋を無理やり剥がされ、血が溢れ出てきた様な、そんな表情。
「随分大人をおちょくるのが好きなガキだなぁ、おい。どこでその名を知ったかは知らねぇけどな。あんなガキの理想郷に、現実を変える力なんてねぇよ。じゃあなぁ、ハクダ団。お前は一体どうやって戦争を終わらせる気なんだ? どちらの軍にも属さない地位も権力もないお前が! どうやって! この戦争を終わらせる!」
アリゲイトは、烈刃に剣の向きを変え、サンに力一杯振り回した。すると、サンは、なんと自身の右腕で、アリゲイトの剣を止めた。どくどくと真っ赤な血が彼の腕から流れ出る。しかし、サンはそんなもの意にも介さず、アリゲイトに真っ直ぐに視線をぶつける。
「そう、それをあんたに話したかったんだ。俺さ、あんたのいう通りガキだけど、一生懸命考えたんだよ。それでさ、俺決めたんだ。あんたを倒してさ、俺はあんたをカニバル城に連れて行く」
「それでどうする気だよ。そこから俺を牢屋にぶち込んだら、お前がやってることは、カニバル兵と同じじゃないか」
「捕まえないよ。連れて行くんだ。それであんたには、ベアリオに会ってもらう」
「あ? なにが言いてぇんだよ? 国王同士でタイマンでもして、戦争の決着でもつけようってのか!?」
「違う!! そうじゃない! 俺は、あんたらが2人そろえば、力じゃなく知恵で! 血なんかじゃなくて言葉で! この戦争を終わらせられるって言ってるんだ!!」
「はぁぁぁ?」
そのアリゲイトの顔は、驚いているというよりもサンの言葉にあきれている様だった。思わず武器を下げ、目を丸くしながらサンに言う。
「おいおい、どんだけ理想主義者なんだ、お前は? 言葉で解決? そんなことができるわけねぇだろう。そもそもカニバルが交戦的だからこんなことになってんじゃねぇか」
「それは、ベアルガ王の話だろ。今の王、ベアリオは戦争なんて望んじゃいない。一刻も早く、この戦争が終結するのを願ってる」
その時、アリゲイトの眉がピクリと動いた。まるで彼の本能が、サンが言う理想を無意識に求めているかの様に。
「……本当か? いや、それでも俺とは手を組まないだろう。俺はそのベアリオの父親の仇だ。そんな奴と話したい奴なんているわけない」
「恋する乙女じゃあるまいし、話もせずに相手の気持ちを決めるなよ。ベアリオは俺と話す時にもこの戦争の平和的終結を祈っていた。そしてベアリオの部屋には、レプタリアとカニバルが平和的に交流できるための調査資料が山ほどあった」
「……そう、か。……そう、なのか」
サンを見据えるアリゲイトの瞳が震える。彼が動揺するのは当然のことだった。アリゲイトは、ベアルガの侵攻を防ぐために、涙ながらに剣をとった。無意識に止まる足をひたすらに前に進め、ここまできた。だが、今、サンの言葉を信じさえすれば、そんなことなどもうなくて済む。
しかし、その時、アリゲイトの脳裏に次々と沢山の記憶がよぎった。それは、この戦争で散っていったものたちとそれに悲しむ家族の姿。
もちろんサンの語る言葉をひとつ残らず信じてしまいたい思いが、アリゲイトの中にはある。しかし、彼の言葉がもし嘘だった時、レプタリアはそこで終わってしまうのだ。
アリゲイトは、自身の持つ沢山の血を吸ってきた斬烈剣ノコギリを握りしめる。
「いや、ダメだな。サン、お前の言うことに嘘はないんだろう。けれどな。それでも俺はお前の手を取ることはできないよ。もうこの戦火は、話し合いなんてもんじゃ鎮火できないほど、燃え広がりすぎた」
「わかってるさ。そんなこと。きっとあんたの背中には、歴史とか、責任とか、誇りとか。俺みたいなガキじゃ想像もできないものが乗っかってるんだ。簡単に、言葉での解決なんてものに踏み出せるはずがないんだよ」
「……そうだな。ガキの癖にちゃんとわかってるじゃないか。ならサン。そこまでわかっていて、お前は一体ここになにをしにきた?」
サンは、自身の剣をまっすぐに構えた。そしてそれをアリゲイトに向ける。
「あんたが、簡単に俺の言うことが信じられない立場なのはわかってる。でもさ、それでも俺はあんた達が話すべきだと思うんだ。だから俺は、そういうよくわかんないさ――」
その時、サンの背中に炎が集まった。煌びやかに轟々と燃える炎。そのすべては大きな翼へと形を変え、彼は、それを広げ、アリゲイトをまっすぐに見据える。
「あんたが抱えているもの全てを、折りに来たんだ!!」




