その話を、最後にあなたにさせて欲しいんだ
目が覚めるとサンは、何かのレジャーシートのようなものに横にされていた。そしてシェドに切られた部分には包帯が巻いてある。
なんだこれ、誰が治療したんだ? サンがその包帯に手を伸ばすと、そんな彼に声がかかる。
「――あ、起きた。やっぱり、フェニックスといえど、止血とかした方が治りは早いね」
その声の主は、ネクだった。サンは、まさかネクが治療してくれたとは思わず、飛び上がり、目を丸くする。
「うお、ネク! なんで!?」
「……なんでも何も、あの場で一番近くにいて治療できるのは私しかいないよ」
「いや、そんなことじゃなくって、俺、さっきシェドに剣を向けたんだぞ! それにカニバルに対してだってまあまあ酷いことを言ったし」
ネクは、そんな彼を見て、どこか微笑むような顔をサンに向ける。
「――ふふ、おかしいね、サンは」
「何が!?」
「……だって私たちがサンにしたことの方がずっとずっとひどいよ」
「――――――」
確かに自分はカニバルに騙され、こんなことになっているわけではあるが。当のカニバル兵本人にそんなことを言われ、大人しくなるサン。
ネクはそんなサンに、再び言葉をかける。
「……とにかくそんな激しく動いちゃダメだよ。大人しくしてて。せめて最後に、私にも罪滅ぼしさせて」
「なんだよ、罪滅ぼしって。なんのことだよ?」
「……だって、あの宴会の時、私がサンを引き止めなければ、サンはこんな苦しい思いをせずに済んだ。あなたはきっとこんな怒りも悲しみも感じることなく、次の旅に進めていた」
「そんなこと……」
なかったよ、とは、サンは言い切ることはできなかった。
この戦争に最後まで関わろう、確かにそう決めたのは自分自身だ。だが、ネクに背中を押されなかったら、そんな決断はしていなかったとは思う。まあそんなところもまた、自分に信念がないといわれる所以なのだろうが。
「……優しいね。サンは。でも、もう大丈夫だよ。サンはもう、カニバルのために戦わなくても大丈夫。だからさ、サンがどこかに行っちゃう前に、ちゃんと真実を話すね」
「真実?」
「……うん、真実。カニバルとレプタリアが戦争することになった、歴史の話。その話を、最後にあなたにさせて欲しいんだ」
するとネクは、ゆっくりとその『歴史』を語り始めた。
――ネクの話――
サンは、ベアリオのお父さん、ベアルガ王のことを誰かから聞いた? そっか、聞いてないのか。じゃあベアルガ王の人柄から話すね。
ベアルガ王はすごく怖くて、野心のある人だったの。あの人は、この世界、ゆくゆくはスカイルやシーラすらも、統一した国家を作ろうとしていた。なんでかは分からないけど、そういう大きな夢を抱いていた人だったんだ。
実際レプタリアとカニバルの仲は最初は悪くなかったんだけどね。そういう野心が戦争のきっかけになっていった。ベアルガ王はね。まず、隣の国でグレイトレイクの権益を共有しているレプタリアに目をつけたの、そこで彼が始めたのが、南の峠の事業の共同運営だった。
そもそも南の峠でやっていたことは、家畜用の飼料の育成なんだけどね。元々それは、レプタリア国境内で、彼らの重要産業だった。でもやっぱりカニバルの方が裕福だったから、農耕技術とかは進んでいたんだ。だからそういった技術を提供して、共同運営という形に持って行った。
まあ予想はつくと思うけどさ、そうすると経済の差は広がる一方なんだ。レプタリアが重要産業で稼いでも、結局はカニバルも同じくらいお金が入ることになるから。
ベアルガ王は、そうした国力差をどんどん広げていって、最終的に、経済的にレプタリアを支配するつもりだった。それにいち早く気づいたのがアリゲイトだったの。
多分私みたいな諜報部隊が、そんな話をしているのを聞いたのかもしれないね。とにもかくにもアリゲイトは、それにレプタリアの誰よりも早く気づいた。
そこから彼は、違う産業で、国力を回復しようとしたんだけどね。でもどんな産業にも使われている水は、あの内陸国にはグレイトレイク以外で調達することが難しい。そこでそのレプタリアは南の峠を襲撃した。そして、その国を想う気持ちを買われて、彼は周りに信頼され王となった。これが、私がカニバルに住み、レプタリアを調査して知った歴史の全て。
確かに最初に多くの人を傷つけ、戦争を始めたのはレプタリア。でも彼らは、国力差が広がる前に少しでも早く行動に移さなければ、勝ち目のない反乱を挑まなければならなくなっていた。だから、彼らは、戦った。これが、彼らから戦争を始めた理由なの。
つまり私たちは、戦争を仕掛けられた被害者であると同時に、そんな行動をとるしかない状況まで、レプタリアを追い詰めた加害者でもあるってこと。




