何も守れてはいないだろうが
あれからサン、シェド、ネクは、3人の施設の子どもと共に、カナハのことを埋め、弔った。子どもたち3人は、墓標を前にしきりに涙を流していた。サンたちもしばらく墓標に手を合わせた後、ひとまず子どもたち3人にしてやろうと、拠点への帰路に着いた。
「なぁ、シェド。あの子たちこれからどうなるんだ?」
サンは、スラム街を歩きながらシェドに問いかける。前を歩くシェドは、特に振り返ることもなく、サンに対して言葉を返す。
「どうなるんだろうなぁ。まあ、でも流石に気の毒だから、軍の食料が余っていたらあの施設に渡すことにしよう。戦争が終わるまではとりあえずそれで生き延びてもらうしかない」
「そっか。ありがとう」
「なんでお前がありがたがる?」
「……なんでだろうな。あ、それとさぁ、シェド。俺、あんたに聞きたいことがあったんだ」
サンは、なんとはなしに自身のペンダントを握りしめる。
「なんだよ?」
「俺思ったんだよ。本当はさ。この戦争はカニバルが被害者ってわけじゃないんじゃないか」
少しだけ3人の空気が張り詰める。シェドはサンに尋ねる。
「ほう、続けろ」
「俺さ、考えたんだ。本当はさ。レプタリアが私利私欲のために南の峠に攻めたんじゃないんじゃないかって。きっとレプタリアの奴らもさ、カニバルに対してなんらかの憎しみがあって、だからこそ、南の峠を占国したんじゃないかって。だからきっと、この戦争には、カニバルにも過失があったんだ。だからきっと、俺は、そこまでの憎しみを積み重ねたカニバルに味方をすべきじゃなかった」
ポツポツと歩みを進める3人。そんな中、シェドが静かに呟くように、前を向いたまま答える。
「だったら……そうだとしたら、お前はどうするんだ?」
――ガキィィィン。
最後尾にいたネクの目の前で、サンの刀とシェドの右手が衝突する。サンは、激しい怒りを持って、シェドに対して言葉をぶつける。
「俺は! お前をぶん殴る!!」
「前とは、立場が逆になったなぁ。敵意がダダ漏れだぞ!!」
――過去――
ユキが殺されてからシェドは、太陽が嫌いだった。
ユキは、かつての恩人のことを太陽のような人と呼んでいた。しかし、その太陽は、母を助けてはくれなかった。
誰かが何かから命を救われるたびに彼は思う。なぜ母は救われない側だったのかと。なぜ光は彼らを照らし、母のことは影に伏したのかと。
それに太陽は、その眩い光で、見たくもない理不尽を、目も当てられない現実を、煌びやかに照らし出すのだ。
幼少のころシェドはヴォルファと共に、わずかな期待をその身に秘めて、母と別れた森に再び訪れた。
しかし、そこにあったのは、澄んだ光に照らされる、惨殺された母の死体だった。
だからこそ、だからこそ彼は、太陽が、光が、正義が、嫌いなのだ。
――現在――
――ズガァァァァン
サンの刀とシェドの腕が、凄まじい音を立てる。二つの攻撃が生じた衝撃波に、ネクは目を瞑る。2人は、そんなネクに構うことなく、なおも戦闘を続ける。
激しい剣戟の中、シェドはサンへと声をかける。
「まあいずれは気づくとは思っていたがなぁ。ここまで怒りを持って武器を振るわれるとは思わなかったよ。サン、お前、他に何に気づいた?」
あくまで冷静な姿勢を崩すことなくサンの攻撃を捌いていくシェド。そんな彼とは対照的に、サンは声を張り上げる。
「わかってるんだ! カナハのことを殺したのは、お前たちカニバル軍の誰かだろ?」
「なぜそう思う?」
「カニバル軍のナイフが倉庫に落ちてたんだよ! それにトゲが言っていた厚着していた男たちと俺らは会ったことがあった! でも、ネクがつけられたはずはないから、尾行はあり得ない! ならなぜ、あの場所がわかったかと言われたら、厚着の男が、肉食獣哺乳類イヌ科、ネコ科、クマ科などの嗅覚が優れた動物だったからだ! それなら全てに説明がつく」
「なるほど、そこまでわかってたら教えてもいいか。お前の言う通りカナハを殺したのはカニバル軍だよ。今南の峠を占国しているチータマ隊に民間人への暴行が問題になっている兵士がいた。おそらくそいつの仕業だろ」
サンは、一度大きく距離を取り、突きの姿勢をとる。そして、陽天流一照型、木洩れ日を放つ。しかし、それをシェドは、手刀の形にして、手の横側でサンの木漏れ日を受け止める。サンは、シェドに言葉を放つ。
「おかしいじゃないか!! それだったらあんたらもレプタリアとやってることは一緒だろ! 陣地を広げて、たくさんのものを傷つけて、戦争の被害者を増やしてるだけじゃないか! こんなのがあんたのしたかったことかよ!!」
シェドは、そのまま手刀にてサンの木洩れ日を弾き返す。そしてシェドは真っ直ぐにサンを見据え、言葉を放つ。
「ああ、そうだ。これが俺のしたかったことだ」
「…………は?」
サンはどうにか、その音一つだけをどうにか体から絞り出す。シェドの言った言葉をサンは、簡単に信じることができなかった。シェドは続ける。
「いいか、俺のしたかったことは富国強兵だ。兵を強くし、国を豊かにしたい。そして国が豊かになると言うことは、他の国が貧しくなり、そして虐げられるということだ。カニバルの兵士は、みんな頭のどこかでそれをわかっている。何も知らないで戦うやつなんざお前ぐらいだ。あとそれともう一つお前に言っておく、俺は、お前が、嫌いだ」
地面を蹴り、サンに向かってその鋭い爪をむけるシェド。サンは、そんな彼の攻撃を受け止めながら、彼に問いかける。
「……なんだよ、それ! 何が言いたいんだ!」
「そのままの意味だよ。なあ、サン。お前は、その炎で何人蘇生してきた?」
「……2人だ」
「じゃあお前は、その能力がなければ今までその目で2人の獣人を見殺しにしていたんだな?」
「……ッツ!」
サンは、力一杯にシェドの腕を弾き飛ばす。シェドは後ろに飛んでそのまま着地し、サンのことを見据える。シェドの頭に、太陽に照らされたユキの死体がよぎり、彼は僅かに眉を顰める。
「いつも物語にいる正義の味方は、誰かが傷付けられてから、怒り、強くなる。俺はそれが大嫌いなんだ。ジャカルが死にかけたから強くなった。カナハが死んだから強くなった。なあ、正義の味方。お前はこれからもそんなことを繰り返す気なのか? 誰かを失うたびに強くなったとしても! そいつは! 何も守れてはいないだろうが!!」
その時、サンの頭に、トゲを打ち込まれたスアロが、槍に貫かれたジャカルが、血を流して倒れるカナハが次々によぎった。アリゲイトも言っていた。自分は理由も与えられなきゃ弱いままだと。
そうだ、今回も何も変わってないじゃないか。サンは自分に問う。サンはカナハを傷付けられて、カニバル軍に激しい怒りを覚え、今シェドに立ち向かっている。でも彼自身が一番わかっているのだ。カニバルにも人を傷つけたくて傷つけている奴なんて1人もいないと。自分の信念に従って武器を振る。それができているからこそ、ベアリオもジャカルも、そして彼も、こんなにも輝いていたのだ。
今の自分には、そんな信念はない。
シェドは、距離を取ったままサンに向かって声を上げる。
「こいよ、陽天流。お前の最強の技を撃ってこい。それを俺が今ここで打ち砕き、お前の弱さを証明してやる」
サンは、頭に色々な思考が駆け巡り、自身がどんな信念のもとに戦えばいいのかわからなくなっていた。だが、彼はただ刀を上段に構え、六照型の構えをとる。そして、自身の迷いを打ち払うかのように、カナハの死への悲しみを乗せて、シェドへ技を放つ。
「あぁぁぁぁ、陽天流六照型、太陽照波斬!!」
思い切り刀を振りかぶる、サン。それはフォンやファルに打ったものには及ばないまでも十分すぎる威力を伴っていた。
しかし、シェドは、右手一本で、サンの六照型を打ち払った。そして一瞬でサンとの間合いを詰め、彼はいう。
「わかったろ? ただの正義じゃ何も救えはしないんだよ」
――ズシャァァァァァ。
彼は手を手刀の形にしサンの体を大きく切り裂く。勢いよく飛び出ていく血。先程との戦闘で血を流しすぎたせいもあってか、サンは、前方向に倒れ、どんどん意識が遠くなる。
「あ……あ、く……そ」
目の前でシェドとネクが、なんらかの会話をしながら去っていく様子が見える。なんだろうか? 自分を殺すための相談でもしているのだろうか?
そんな疑問はもう晴らすことはできない。相次ぐ戦闘で心も体も疲弊していたサンは、炎で体を修復しながらも、ゆっくりと眠りに着くのだった。




