揺らぎましたねぇぇ!!
――すごいな。
サンは、なんとか体勢を変え、木にもたれかかりながら、シェドとカメレオンたちの戦いをじっと見守っていた。
ネクたちがこの場を離れてからもう数十分は経過しただろう。その間、シェドは10数人のカメレオン部隊に一歩も引くことなく、むしろ、既に2人ほどを戦闘不能に追い込んでいた。
再びカメレオンの獣人二人がシェドに向かって斬りかかる。シェドは、それを上空にジャンプしてかわし木に掴まる。そしてそのまま、後ろで弓を構えていたカメレオンに強烈な飛び蹴りをし、よろよろと立ち上がる。
「よし、残り7人だな」
「な、なんなんですか? この男。本当に毒が回っているのですか? こんなのたかが一獣人の力じゃない!!」
そう言って、激しい動揺を見せながらもシェドに剣で斬りかかるカレオン。シェドは、それを籠手で受け止め、カレオンの鳩尾に蹴りを放つ。
「がぁぁ!」
「お前は、後で相手してやるから少し待ってろよ」
後方の木に衝突するカレオン。部下たちは、そんな隊長を気にかける余裕もなく、シェドに次々と立ち向かい、そして殴り倒されていく。
――まずいまずい。何か策を練らなければ!
カレオンは座り込んだまま、目の前の化け物を倒す方法を考える。自分たちの部隊の剣には全て毒が塗ってある。そのため、一度剣さえ当てて毒をしっかりと食らわせることができれば、後はどうにでもなる。だからこそ、どうにかこのシェドという男に隙を作らねば。
――背に腹はかえられないか。
カレオンは決断する。本当は作戦の中でこれは伏せるべき情報だ。だが、情報なんぞよりも部下の無事の方が大事である。カレオンは声を上げる。
「みなさん、一度戻りますよ。もう十分時間は稼いだ」
一斉に剣を止める部下たち。シェドは、そんな彼の言葉に質問をぶつける。
「時間だと? なんのことだ?」
「気になりますか? 今回の作戦の目的は、あなたたちシェド隊の壊滅です。そして私の任務は、あなたをここで足止めして、シェド隊を分裂させることでした。ならば、ジャカルやネクが出ていった先には、誰が向かったか、あなたは想像できますか?」
シェドにはもうすでに、レプタリアの誰がくるのか、想像がついていた。そして、彼の頭に、その男がネクとジャカルを惨殺する姿がよぎる。
「――ゲッコウ、か?」
「そう、我が軍のゲッコウは、決してあなたたちから身を守るためだけに本陣にいなかったわけではないということです。そして、揺らぎましたねぇぇ!」
わずかだが、仲間の危機に、動きを止めてしまうシェド。そんな彼の隙をカレオンは見逃さなかった。彼はこっそりと姿を消していた部下の一人にハンドサインを出し、その彼が、シェドの背中を大きく切りつける。
――ズシャァァァ。
「うぐぅぅぅっ!」
唸り声をあげるシェド。そんな彼をみて、カレオンは、ニヤリと不敵な笑みを見せる。
「揺らいじゃいましたねぇ? 警戒してなかったですねぇ? 動揺する心、毒で麻痺し動きで鈍くなっているあなたの体。そんなあなたに、姿を消した部下が一太刀食らわせるなど造作もないこと。さあ! 反撃の狼煙が上がりましたよ!」
再び激しくシェドへと斬りかかるカメレオンたち。シェドは、更なる毒で痺れる体をどうにか動かして、彼らの攻撃を防ぐ。そして、声を張り上げて、サンに言う。
「おい! サン! 聞こえるか!?」
「何!?」
急に敵の刃を受けてしまったシェドを心配しながらも、サンは尋ねる。シェドは彼に言葉を返す。
「さっき、ネクが走っていったところ。そこに毒の血清があるはずだ。お前は、それを打ってジャカルとネクのところへ向かえ! 敵の最高戦力があいつらに接触した可能性がある」
「でも、シェドは!?」
「心配すんな。たとえ毒をもらったとしても、9割の勝率が6割程度に下がっただけだ。勝つさ。だから、お前は早く行ってこい」
そして、カメレオンたちとの戦いに戻るシェド。ズタズタになりながらも、それでも一歩も引かない彼の姿には感動すらも覚えた。
サンは必死で体を動かして、先程ネクが通っていた道を探す。するとわかりやすく木に紫のポーチがかけてあった。サンは、そのポーチを必死で掴み取り、開く。
――あった!
そこには小さな注射が一本入っていた。間違いないこれが血清だ。サンはすぐにそれを自身へと打とうとした。しかし、彼は咄嗟にその手を止める。
――待てよ? これを打ったらシェドはどうなる?
サンは、シェドの方を見た。ヘビ毒に苦しみながらも必死で敵の攻撃を裁き切るシェド。もしかしたら勝率6割なんて嘘なんじゃないだろうか?
それなら自分が血清を打ったあとすぐにシェドに加勢して、カメレオンたちを倒し、ネクたちに合流すればいいのではないか? いや、そうしたらいまゲッコウという男が迫る二人を守るのに間に合わないのかもしれない。
シェドを助けるか二人を助けるか、どちらかで揺れるサンの心。しかし、そこで一度サンは、迷うことをやめる。
――いや、違う。何言ってるんだよ? 目に映る全てを守るって誓ったろ。
そうだ。そうだった。目に映る全てを守る。自らが立てた誓いを、自らで破るわけにはいかない。何かを選び何かを捨てる。そんなことを考えるべきではない。
――いちかばちか。やるしかない。
サンは、自身の炎に目を向け、それを自分へと当てた。




