あの人が抱えている呪い
シェドとサンを置いてただひたすらに山を駆け下りるジャカルとネク。ジャカルは、ネクに対し、息を切らせながらも尋ねる。
「はぁはぁ、ネク。なぁほんとに大丈夫だったのか? シェド隊長を置いてきて。レプタリアのコブラ隊の神経毒は、他のどの獣人よりも強力らしいじゃないか。掠めたとはいえ、流石の隊長も無事ですまないんじゃ」
「……大丈夫。鎖烈獣術には、毒が聞かないようにするための技がある。レプタリアも研究を重ねたと思うけど、あの量の少なさならシェドの動きはそれほど落ちない。だから、私たちは早く本陣に戻らないと」
「そうか。ネクは、本当に信じてるんだな。シェド隊長の力を」
「……うん、シェドは負けない。絶対毒なんかには負けない。だってあの人が抱えている呪いは、毒なんかよりもっと重くて辛いものだから」
毅然とした態度でそう言い放つネク。ジャカルはシェドが抱えている過去をまったく知らない。それどころか、カニバル軍の獣人たちは、唐突にカニバル軍伝説の兵士、ヴォルファに預けられて、カニバル軍に住むことになった彼らのことを何も知らない。
ただジャカルは、時折このネクとシェドが見せる固い絆を目にすると、自分たち大人が不甲斐ないせいで、これほど若い彼らが苦労しなければならなかったのだと実感するのだった。
「そうか、それは、アツい絆だな。あ、そういえば、隊長に置いて行くって言ったやつはなんだったんだ?」
ジャカルは、ネクの言葉に少しの笑みを表しながらも彼女にそのような質問をぶつける。ネクは、落ち着いた様子でその質問に答える。
「ああ、あれ? あれはコブラ毒の血清。もしもの時のために敵の毒を研究して作っておいたんだ。ただ――」
「ただ?」
ネクは、伏し目がちになって呟くように、言葉を発する。
「その血清一つしか作れなかったんだ」
「まずいじゃないか! 戻るか?」
「もうすぐ山を抜ける。今更戻ったって間に合わないよ。どうせひとつしかなかったんだ。私たちにはもう、血清を誰が使うにしろ、シェドに勝ってもらってサンを連れてきてもらうしかない」
「……まあ、そうか。頼むぞ隊長。必ず帰ってきてくれ!!」
そしてシェドの勝利を祈る二人。しかし、この時二人は予想すらしていなかった。彼らにもまた、彼らの命を脅かすほどの、巨大な魔の手が迫っていたということを。




