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贖罪のブラックゴッド 〜神への反逆者〜  作者: 柊 春華
~穢れた大地に神の裁きを~ 第三章:傍に居たくて《リライアンス》
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第三章 傍に居たくて⑤


 少しだけ時間は戻る。


 ウォルシィラは通路を疾走し、すぐに奥にある人影を視認した。



「見つけたよっ!」


「ちぃっ!」



 崩れた天井の瓦礫にでも埋まっていたのか、埃を被った黒髪の男の姿がある。あれがシャドウだ。


 魔力の気配。男の足元に魔法陣が展開されて、その身体が影の中に沈んでいく。



「逃がさないよ!」



 また姿をくらまされたら面倒だ。ウォルシィラはそれを阻止せんと走りながら瓦礫を蹴り飛ばした。



「食らうかよ!」



 せり出して来た影の棘が瓦礫を防ぎ、その隙にシャドウは影の中に潜ってしまった。シャドウが沈んだところから徐々に影が広がっていく。


 このままでは先程の繰り返し。今は味方の助力が得られない分、より状況が悪くなる。



「でも対処方法はもうわかってるよ!」


「んなぁっ!?」



 広がっている影の中心部に掌打。床面と共に影が爆散する。


 身を隠す影を失ったシャドウが再び姿を現した。慌てた様子で後退。



「ちっこいくせになんつー馬鹿力だよ!?」


「ちっこいゆーなぁっ!」



 身体から神名が消失し、叫びと共に強烈な蹴りが繰り出される。



「どおっ!?」



 シャドウは人間の可動域に挑むような動きで躱した。代わりにそれを食らった壁面が大きく陥没する。


 消失した神名が再び全身を覆った。今の攻防に一番驚いたのはウォルシィラだ。



「ちょっ、夕姫いま主導権奪わなかった!? なにしたの!?」


(わ、わかんない……ついカッとなって、気づいたら身体が動いてた)



 普通、神の意思に反して肉体の主導権を奪うことなんて出来ない。神が抑えつける力に人間の力では敵わない。単純に力の差がある。


 夕姫の身体を奪うつもりなどさらさらないが、それを差し引いても奇怪な現象だった。


 なんてことを考えていると死角から攻撃がきた。屈んで躱してシャドウに意識を戻す。



「頑丈に作ってある壁が蹴り一発でこれかよ……これだから覚醒体ってのはイヤなんだよなぁ。常識外れも良いとこだぜ」


「じゃあ逃げたらいいんじゃないかな? 人間と神の力は歴然だ。ちょっとやそっとで覆せるものじゃないよ」


「いやぁそうしたいのは山々なんだが、そういうわけにもいかねぇのよ。こちとら仕事なもんでね。雇われの辛いとこだ」


「死ぬよりマシだと思うけどね」



 夕姫の手を汚させたくないため、できれば殺したくはない。しかし必要とあらば殺すことを躊躇うつもりもない。



「慈悲深いねぇ。全部の神がアンタみたいに話せるやつだったら、俺たち人類ももう少し安心できるんだけどなぁ」



 人間が神を恐れるのは仕方がない。〝神滅戦争〟(ディオスマキナ)や敵性神によって人類には神への恐怖が深く刻まれている。



「けど友好神も敵性神も、結局のとこ本質は変わらねぇ」


「っ!?」



 突如として視界が黒く染まった。目を何かで遮られているわけではない。眼球に傷を負ったわけでもない。


 ただ黒一色で何も見えない。



「アンタら神は人間を侮る。どんな状況でも、どんな時でも。だから戦闘中に会話に応じるし、隠蔽しながら術式を構築していることに気づきもしない」



 視覚を奪われたのはまずい。



「あんま人間を舐め腐ってんじゃねぇぞ――害獣ども!」



 周囲から攻撃の気配。しかし人間の身体では正確な状況まで把握することが出来ない。


 回避行動。全身に鋭い痛みが走る。躱し切れなかったが致命傷には至っていない。


 〝戦女神〟としての経験と勘のみを頼りに凌ぐことが出来た。



「見えねぇのに避けるとかどんだけだよ。ほんとイヤになるぜ」



 追撃。なんとか躱しても必ず傷は負わされる。残った感覚だけで躱し続けるなどできるわけがない。いずれは捉えられる。


 夕姫が死ぬ。


 輝たちは何をしている。アルフェリカを助けることはできたのか。まだ見つからないのか。それとも何らかの邪魔が入ったか。まさか窮地に陥っているということはあるまい。



「これには、頼りたくなかったんだけどな」



 どうあれ背に腹は変えられない。


 勘で回避行動を続けながら魔力を練り上げる。掌に浮かぶのは漆黒の魔法陣。



「黄泉へ下る御霊。怨嗟を紡ぐことも赦されず、終わりなき昏き旅路を歩め――」



 唇から漏れ出るのは神を殺す呪詛。本来、自分には使う資格のない人間のための武装。


 顕現するは漆黒の大鎌。



「――【黙する旅人】(サイレントウォーカー)



 人間を守るため。神を殺すため。〝神殺し〟(ブラックゴッド)がそう願って創ったはずの『神葬霊具』。


 そのことを知っているウォルシィラは苛立ちを覚えるしかない。


 そんな武器を――自分()シャドウ(人間)に対して振るうことに。



「鳴れ、【黙する旅人】(サイレントウォーカー)



 漆黒の大鎌から澄みきった音が響く。魔を沈黙させ、あらゆる術式を破戒し、神の力さえも封じ込める力が拡散する。


 黒い視界は光を取り戻し、シャドウが構築していた術式の悉くを解体した。攻撃も防御も出来ない完全に無防備な状態。



「な、に――?」


「終わりだよ」



 驚愕から立ち直る暇なんて与えない。一瞬で背後に回り、手にした大鎌でその意識を刈り取った。


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