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贖罪のブラックゴッド 〜神への反逆者〜  作者: 柊 春華
~穢れた大地に神の裁きを~ 序章:たった一つ握りしめた願い《エンドゥア》
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序章 たった一つ握りしめた願い


 じゃらり。


 少女が手足を動かす度に鎖が擦れる音が響く。もうずっと耳にしている音。


 特別製なのか、牢獄の楔に繋がる鎖は転生体の力をもってしても壊すことが叶わない。


 じゃらりじゃらり。


 無機質な音が、疲弊して折れかけた心には堪える。


 諦めろ、諦めろ。そう言われているように思えてならない。


 諦めてなるものか。絶対に助けがくる。彼が助けてくれる。


 それまではどんな苦痛や恐怖にも耐えると決めたのだ。


 少女は折れかける心を奮い立たせる。ツギハギだらけのボロボロの心。虚勢と空元気でなんとか保っているだけのみすぼらしい決意。


 それでもふとした瞬間に思ってしまう。


 もし助けがこなかったら。彼の力が及ばなかったら。


 そんな考えが脳裏をよぎるだけで、地面がなくなったかのような錯覚すら感じた。


 頭を振る。


 そんなはずはない。彼は約束してくれた。必ず守ると。だからそれを信じる。希望にする。



(くだらない。心底にくだらないな、人間)



 どこからか聞こえる声。少女を捕らえる牢獄に人影はない。


 頭に響く声は少女に宿る神のもの。



(所詮は口約束。そのような曖昧なものになぜ縋りつく必要がある。その身体を明け渡せ。この程度の牢獄を出るなぞ、鍵のない扉を開くようなものだ。身体を明け渡せば、汝を縛るその鎖も断ち切って見せようぞ)



 少女は答えない。答える必要もない。



(耐え続けることになんの意味がある? 今までどれだけの苦痛を強いられてきた? 汝の自由を奪い、愛する者から引き裂き、いつ終わるとも知れぬ痛みに耐えて、その先に何があるというのだ?)



 本当にわからない。本心からそう尋ねてくる神は、嗚呼やはり自分とは相入れないモノなんだなと再認識する。



「普通の、穏やかな暮らしがあるの」



 お前とは違う。少女はその意志を込めて、かつての日々を思い出しながらその問いに答えた。



「他愛のない話をしたり、村をぶらぶらしたり、友達と遊んだり。汗水垂らして畑を耕して、くたくたになって、今日も疲れたねーって、家族とテーブルを囲みながら、ご飯を食べて笑い合うの」



 そんな普通の日常。幼い頃にあった小さな小さな幸せ。



(やはりくだらない。そのようなものは溢れ返っているではないか。石ころ同然のものに価値などない。そのために数年と耐え続けるだと? 正気とは思えぬ)


「その石ころが、私にとっては宝石にも勝る宝物なの」



 だから取り戻すのだ。失くしてしまった大切なものを、今後こそ手放さないために。



(ふん、だが果たして間に合うか? 我が刻印は汝の肉体をほぼ覆い尽くしている。今の調子で我が力を行使し続ければ、数日ともたぬだろう)



 神の言葉を示すかのように少女の身体に刻まれた刻印が青白く明滅した。


 虚言でも脅しでもなく純然なる事実。


 幾度となく襲った絶望がまた心を締め上げる。



(汝を苦しめる全てに復讐をしてやればいい。我の力を存分に使うが良い。その機会くらいは与えてやろう。それが終われば肉体は貰い受けるがな)



 違う。そうじゃない。求めているものはそんなものではない。


 まるで悪魔の契約だ。少女はその提案を拒絶する。



「絶対に、諦めない」


(強情な宿主だ。だが構わぬ。残り少ない時間を思うようにするが良い。それが尽きたときが――)



 皆まで言わず、声は遠くなる。


 少女は膝を抱えて身体を丸めた。


 じゃらり。じゃらり。


 鎖の擦れる音が牢獄に響く。



「お兄ちゃん、早く……早く迎えに来て……」



 求めているのは、兄とのささやかな暮らし。


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