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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十二章 魔王の大陸編
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二百七十七話 元魔王軍は辛いよ

 魔王軍で冷遇されていた邪悪な神に、勇者ザッカートは声をかけた。魔王グドゥラニスを裏切り、我々の側に付くなら受け入れると。

 その言葉に幾柱もの邪悪な神が従った。そして触手神の中でも力を持っていた、メレベベイルといった神々が魔王を裏切った事で、ザッカートが声をかけていなかった神も数柱続いた。


 この時魔王軍から離反した神々が、後にヴィダ派と呼ばれる神々の一員となる。しかし、後に地底世界ガルトランドの神々となる者達は、この時はまだ魔王軍の一員だった。

 ザッカートも、全ての邪悪な神に声をかける事は出来なかったのだ。それに、それなりの地位にいたが、魔王グドゥラニスのやり方に内心疑問や反発を覚えている神と、そうでない神を見分ける事は、流石の勇者でも出来なかったのだ。


 当時の魔王軍はお互いの関係が良好ではなかったので、メレベベイル達も彼等を紹介する事は出来なかった。そしてガルトランドの神々が、自主的に魔王軍から離反しメレベベイル達に続く事も出来なかった。

 同類の裏切りに驚き、困惑している間に機を逸し、気がついた時には魔王グドゥラニスによる組織の引き締めが行われたからだ。更に、後にアルダ勢力と呼ばれる神々が、メレベベイル達を敵視している事を知ったからだ。


 裏切り者をこれ以上出さないようにと、苛烈な引き締めが行われている最中にそんな事が判明したのだ。グドゥラニスに気がつかれ、魂を砕かれても構わないから離反しよう。そんな覚悟は固まりきる前に萎えてしまった。

 そして勇者軍と魔王軍の戦いは、ザッカート達生産系勇者が魔王に滅ぼされた事で激しさを増していく。その戦いには海を主戦場とする戦いも含まれた。


 『水と知識の女神』ペリアの従属神や海を得意とする亜神達は、ベルウッド達も苦手とする深海に潜んでいた水棲の邪神悪神と戦った。

 そして逞しい体つきの男の姿を持つ『南海の神』マリウスは、双頭の鮫の姿を持つ『紅海の悪神』ジャファーと戦った。そしてマリウスの銛がジャファーの首の根元にあった心臓を貫いた時、同時にジャファーの牙がマリウスの胴を大きく抉った。相打ちだ。このままでは二柱とも力を失い、数万年にもわたる長き眠りにつくしかない。


 その時、ジャファーはマリウスにこんな提案をした。『我の全てを渡す故、我と一つにならないか』と。

 実はジャファーは魔王軍を離反する事を考えていた神の一柱であり、死闘を繰り広げる内にマリウスに対して、彼と一つになれるなら、それ以外の全てがどうでもいいと言う病的なまでの執着を抱いてしまったのだ。

 ジャファーの提案に頷いたマリウスは、ジャファーの全てを受け取り、『紅南海の正悪神』マリスジャファーとなった。


 しかし、瀕死の二柱の神が合体しただけではダメージを全快させる事は叶わなかった。また『炎と破壊の戦神』ザンタークと違い、お互いに望んでの融合だったとはいえ、完全に一つの存在になるためには時間が必要だった。そのためマリスジャファーは千年程の眠りについた。


 マリスジャファーが眠っている間も戦いは進み、最終的にグドゥラニスは勇者ベルウッドによって倒された。

 幸運にも生き延びた魔王軍の邪悪な神々は、ベルウッド達の残党狩りを恐れて世界中に散った。後のガルトランドの神となる者達も、今更降伏しても封印されるだけだと考え、魔境やダンジョンの奥深くで隠れ潜んだ。

 だが、彼らもまさか魔王を倒した約百年後にヴィダとアルダが争い、ヴィダが封印されるとは思わなかった。


 魔王を倒して平和になった……少なくとも差し迫った大きな脅威が無くなったのに、何故この世界の神同士で争うのか。彼等には意味が分からなかった。だが、勝ったのがアルダ勢力だったのは彼等にとって致命的である事は理解できた。

 まだヴィダなら、伏して降伏すれば受け入れられる可能性を見出す事が出来た。だが、共に魔王と戦ったはずのヴィダを、そして元魔王軍の邪神悪神を敵とし幾柱も封印したアルダに、彼らの降伏が受け入れられる可能性は無い。


 何かの罠と見なされて攻撃されるのがせいぜいだろう。

 『悦命の邪神』ヒヒリュシュカカや『解放の悪神』ラヴォヴィファードのように、享楽に耽る事を選ばなかったガルトランドの神々は、何とか神として生き残る道を探した。


 眠りから目覚めたマリスジャファーも、大いに困惑した。だがアルダが今の自分を受け入れるはずがなく、魔王軍残党として扱うだろう事は、すぐ理解した。そのため彼は境界山脈内部に逃げそこない、海を彷徨っていた人魚達に接触し、彼女達の守護神となる事を選んだ。

 それがドーラネーザの祖先達である。


 一方、後にガルトランドの神々となる者達は希望を発見した。故郷を追われ滅びに瀕したヴィダの新種族、ケンタウロスとアラクネの一族を見つけたのだ。

『あのヴィダの新種族達を助け、ヴィダが復活するまで守護すれば、その功績で我々も受け入れられるのではないか?』

『それしかない。だがどうする? ただ守護しただけでは、その内アルダの手先達が嗅ぎつけて来るぞ』

『アルダも気がつかない場所に、彼女達の新天地を創るのだ。まずは骨牙の、それに淫皮のが守護しろ。我と肉堕ので、新天地を創る』


『臓腑の、我等四柱だけでそんな事が出来るのか?』

『出来る出来ないの問題ではない。やるしかないのだ』

 『臓腑の邪神』ポヴァズは、『骨牙の悪神』ロージェフィフィと『淫皮の邪神』ヴォネナカルアが見つけたヴィダの新種族を守っている間、『肉堕の悪神』ヂェリュブファンと共に彼女達の為の新天地を探した。


 彼らが目を付けたのは、魔王の大陸だった。未だに無人で、アルダ勢力の注意はボティンの封印にしか向けられていない、やっと草木が生えるようになった荒野だけの土地だ。

 だが、そんな土地では幾らヴィダの新種族が人間より強靭でも生きていけない。それに隠れる場所も無いので、アルダ勢力の神々が気紛れか何かで注意深く大陸を観察したら、気がつかれてしまう。


 それでは意味がない。だからポヴァズは地下に目を付けた。地底深くにヴィダの新種族の為の居住空間を作り、そこで彼女達を匿うのだ。

『でも地下の生活にヴィダの新種族は耐えられるでしょうか? 特にケンタウロスはきついのでは?』

『むうぅ……やはり魔物の飼育より難しいな。とりあえず、できるだけ広い空間を創ろう』


 そしてポヴァズ達は広い地下空間を創り上げた。途中、ロージェフィフィとヴォネナカルアと交代しながら、大陸の地下約一万メートルに、魔王の大陸の三分の一以下の広さだが十分すぎる居住空間を創り上げた。


 そして生命属性を司る邪神悪神であるポヴァズ達四柱の力で、太陽の代わりになる光熱球を創り、地上と変わらない環境を用意した。

 ここでは地下だと言うのに太陽の恵みがあり、雨が降り、森や草原、砂漠、雪山など様々な環境がある。食料は設置したダンジョンで取る事が出来、生活用水は地下水脈から湧き出る真水を利用し、海と洞窟を繋いで海水を容れ海産物や塩を取る事が出来る、地底塩水湖を用意した。


 そして骨と肉、臓腑と皮で出来た船でアラクネとケンタウロスを運び、ここに住まわせた。

 アラクネとケンタウロスたちはポヴァズ達に感謝し、この地底世界をガルトランドと名付けて神殿を建立し、彼等をヴィダ派の神として信仰した。

 これで将来ヴィダが復権した時、我々を受け入れてくれるに違いない。そう安堵した四柱の神だったが、その内に想定外の事が幾つも起きた。


 そのうち一つが、『魔雪山の巨人』ゾーザセイバがコンタクトを取って来た事だ。彼は偶然ガルトランドの存在に気がつき、自身が守る巨人種達の保護を求めて来たのだ。

 ゾーザセイバはヴィダ派の亜神ではなく、他の真なる巨人を裏切って魔王軍に降った巨人だった。だが、魔王が敗れたことで行き場を失い、同じく行き場を失っていた巨人種の一族を見つけて彼らの守護神となっていた。


 しかし、いよいよアルダ信者の人間達に追い詰められ、このままでは遠からず保護した巨人種達も自分も狩られてしまう。だから助けてくれとポヴァズ達に助けを求めたのだ。

 だがポヴァズ達はゾーザセイバと巨人種達に手を差し伸べるか、それとも見捨てるのか、悩んだ。

 一度は同じ陣営に属したとはいえ、邪神悪神同士は仲が良い訳ではない。手柄の取り合いから殺し合いに発展する事等日常茶飯事だった。


 お互いに協力し合っているポヴァズ達四神の方が、魔王軍では異端だったのだ。

『どうする? ゾーザセイバは『あの時はどうかしていた。改心した、今は反省している』と言っているが、信じるか?』

『信じる根拠はないが、疑う根拠もないな。そもそも、我々は未だにこの世界の神の精神構造を理解していない』

『確かに。アルダやベルウッド達が何を考えているのか、未だに理解できないわ……今の信者達の祈りの内容にも時々困惑するし』


『悩ましいな。どうだろう、この際だからゾーザセイバが改心したかどうかは考えず、彼と巨人種達を助けるべきか見捨てるべきかだけ考えるのは?』

『『『異議なし』』』

 同族と世界を裏切って魔王に降った存在が、本当に改心したかどうかは考えない。人間社会ではかなり重要な事のはずだが、ポヴァズ達にはあまり重要な事ではなかった。


 何せ、彼等は「改心した」訳でも、「正義の心に目覚めた」訳でもない。単に、生き残りたいから、取れる選択肢を取ったに過ぎない。

 勿論、信仰されて悪い気はしないのでヴィダの新種族達に彼らなりの愛着は抱いているが、それと善悪とは別の問題である。


『ゾーザセイバから、このガルトランドの存在がアルダ達に知られる可能性がある。よって助けて囲い込むべきだろう』

『奴が守護する巨人種を助ければ、我々も巨人種達の信仰対象に含まれるようになるのではないか?』


『最近アラクネ達が連れていた人種やドワーフ、獣人種の数が減っている。混血がすすみ、アラクネとケンタウロスが産まれる割合が多くなったせいよ。男の数を維持するためにも、巨人種を迎え入れるのは有用だわ』

『何より、巨人種はヴィダの新種族の一種。ゾーザセイバはともかく、巨人種を見捨ててヴィダの印象が悪くなったら都合が悪い』


 結果、満場一致で助けるべきだとなった。

 そして『魔雪山の巨人』ゾーザセイバは、巨人種と一緒に暮らしていた数名のエルフを乗せる氷の箱舟を作り、四神が彼等をガルトランドへ導いた。


 そして、次の想定外の事態が起きたのは数万年後だった。保護していたヴィダの新種族が変化したのだ。

 蜘蛛の下半身を持つ種族であるアラクネは砂漠で暮らし、『骨牙の悪神』ロージェフィフィが最初に保護したためか、褐色の肌にサソリの下半身を持つアンドロスコーピオンに。

 ケンタウロスは主に平原で暮らしていたが、徐々にガルトランドの壁にも進出するようになり、最初に保護したのが『淫皮の邪神』ヴォネナカルアだったからか、灰褐色の肌と山羊の下半身を持つグラシュティグに。


 そして巨人種達は肌が白くなって体毛が濃くなり、更に大柄になって種族名は氷雪系巨人種となった。これもやはり、ゾーザセイバが守護神となり、雪山で暮らしていたからだろう。


 種族が変化した事態は、ガルトランドの守護神たちにとっては些細な事だった。しかし、その生態が問題だった。

『いかん、このままでは将来的にガルトランドのヴィダの新種族は少子化で……男不足で滅んでしまう!』

 アンドロスコーピオンはアラクネから変化したので、やはり女しか存在しない。そしてグラシュティグもケンタウロスだった頃と変わって、女性だけの種族になった。


 氷雪系巨人種からだけは男も産まれたが……流石に他の二種族の分も種を撒けるほど多く生まれる訳じゃない。


 このままのペースで混血が進めば、ガルトランドは女だけの世界になって子孫が残せず滅んでしまう。

 ヴィダが復活するまで、まだ数万年以上かかるだろうと考えていたガルトランドの神々は、その前にヴィダの新種族が滅びないよう、どうにかしなければならなかった。


 また新たに地上から連れて来るか、それとも氷雪系巨人種の男達にヴォネナカルアの加護を与えて、精力絶倫にするか、それとも……。

 そう悩んでいた時、ヂェリュブファンが思いついた。


『新たに地上から探して連れて来るのは危険だし、どうせ将来混血が進めばまた同じ問題に直面する事になる。どうせなら、我々で必要な数の男を創れば良い』

『なるほど。しかし、我々に人間が創れるだろうか? 我々は魔物しか創った事がないのだが』


『臓腑に骨、肉と皮膚がそろっているのだから、何とかなるだろう。儂も手伝おう』

 ヂェリュブファンの提案を受け入れ、ゾーザセイバも手伝い人造人間……ホムンクルスの創造が始まった。

 最初は亜人型の魔物や人間の胎児のような存在しかできなかったが、試行錯誤の果てに外見は人間そっくりのホムンクルスを創れるようになった。


 ホムンクルスはヂェリュブファン達の目的通り、ヴィダの新種族と交配する事が可能で、それにジョブに就く事もできた。更にホムンクルスは魔物に分類されるためか、世代を重ねてもヴィダの新種族の親から生まれ続け、数を少ししか減らさなかった。


 余談だが、このホムンクルスの作成術は、ポヴァズ達と波長の合う人間に夢や閃きの形で伝えられ、バーンガイア大陸の錬金術師が文献に記し、アルダ信者に邪悪として禁術に指定される事になる。


 これでヴィダが復活するまで、ガルトランドを維持できる。そう思った神々を、最後に襲った変化が、魔王の大陸の変化だった。

 魔素を魔王の大陸に集中させると言うナインロードの施策によって、加速した汚染が地底にも達し、ガルトランドにも影響を与えたのだ。


 ガルトランドの天井や壁から見慣れない魔物が出現し、狩猟や鉱物資源の採集を目的に作ったダンジョンの難易度が勝手に上がり、魔境が出現してしまった。

 だがこれはポヴァズ達が何かする前に、ヴィダの新種族達が過酷になった環境に適応した。


 グラシュティグやアンドロスコーピオンが壁を駆け上がって魔物を倒し、氷雪系巨人種達が難易度の上がったダンジョンを制覇し、ホムンクルス達が様々な魔術を開発して助けた。

 そのため、神々はアルダ勢力の動きを警戒する事に集中できた。


『異常なほどの魔素をこの大陸に集めたのは、どう言う事だ? 地上には奴らの仲間であるはずのボティンやその従属神達も封印されていると言うのに』

『まさか我々を、このガルトランドをどうにかする為か? 人間の輪廻転生を司る神……確かロドコルテと言ったな。奴がアルダ達に我々の存在を伝えたのかもしれん!』


『それはないわ。もしそうだったら、今頃ここにベルウッドが飛びこんで来るはず』

『恐らく、魔素を集めても封印や、封印されたボティン達に影響は出ないと判断したのだろう。実際、グドゥラニスが施した封印が、グドゥラニスの意思以外の要因でどうにかなるとは考えづらい』

『封印を堅牢な城壁に例えるなら、魔素を集めるのは周りに肥やしを撒くようなものだ。幾ら雑草が茂っても、城壁とその内部は揺るぎもしないだろう』


 元々魔王の配下だった神々は、グドゥラニスが施す封印がどれほど強固なのか知っていた。

 そして、彼等はどんな神か知らない『輪廻転生の神』ロドコルテが、アルダ達に情報を提供していないと最終的には判断した。もし情報を提供していたら、アラクネ達と共にいた人種やドワーフ達を保護した直後に、このガルトランドにアルダ達が攻め込んでいるだろうからだ。


 実際、当時のロドコルテはヴィダの新種族を滅ぼす事はアルダ達、『ラムダ』世界の神々の仕事で、自分が干渉する事ではないと考えていた。自身とそのシステムにとって脅威となる魔王が封印された後、彼は『ラムダ』世界に対する興味を数万年以上もの間失っていたのである。


 ロドコルテが『ラムダ』に関心を向けるのは、魔王が封印されて約十万年後。『地球』からヴァンダルーを含めた転生者を送り込む、ほんの少し前だ。


『なるほど……だが、安心は出来ん。丁度良く奴らが魔素を送り込んでくれたのだから、それを利用して大陸の周りに番人となる魔物を設置しよう。あまり強すぎなければ、奴らも自分達が魔素を大陸に集めたからだと思いこむはず』


『いい考えだ、ポヴァズ。後、出入り口の洞窟に結界を張ろう。魔物は勿論、神や亜神には洞窟が見えず、人間……ヴィダの新種族だけには見えるように』


『ロージェフィフィ、ヴィダの新種族だけに見える結界と言っても、吸血鬼はどうするの? ヒヒリュシュカカや他の邪神悪神を奉じる連中にここがばれたら、きっと碌な事にならない』

『とりあえず吸血鬼にも見えるようにしよう、ヴォネナカルア。原種吸血鬼は亜神に含まれるのでどうせ見えない。並の貴種程度なら対応できる。そもそも、吸血鬼が深さ一千メートル以上の深海に潜るとは考えにくいけれど』


『番人となる魔物はリトルクラーケンでいいか? それなら儂にも創れる。ついでに、空も飛べるようにしておこう』

『『『『クラーケンが飛ぶの(か)?』』』』

『知らんのか? イカはトビウオのように飛ぶのだぞ』


 そして番人となる魔物が創られ、洞窟には結界が張られた。この時ゾーザセイバによって創られたリトルフライングクラーケンの子孫の一部が、ヴァンダルー達が遭遇したフライングクラーケンである。


 そうしてガルトランドは発展してきた。近年になり、ゾーザセイバの時のようにマリスジャファー、そして魔人族に信仰されていた『邪毒茸神』ペリャゼイルが、信者である人魚と魔人族と共に加わった。


 人魚達のお蔭で地底湖の内部に発生した魔境の魔物を間引くのが楽になり、更にバーンガイア大陸で起きている事の情報も手に入れた。

 その情報にはヴァンダルーや境界山脈内部のヴィダ派の事はなかったが、これから十年以内に大きな事が起きるのではないか? そう神々に思わせるには十分だった。


 そして魔王の大陸に突然アルダ派の亜神達が集まるようになり、何事かと様子を窺っていた神々はフライングクラーケンの目を通して、大陸に近づく空飛ぶ幽霊船クワトロ号と、それに乗る強大なアンデッド。そしてヴァンダルーに気がついた。


 マリスジャファー達はそれが自分達の助けになる存在だと直感し、ガルトランドに招くようドーラネーザに神託を下したのだった。




 ガルトランドの神々から話を聞いたヴァンダルーは、『なるほど』と重々しく頷いた。そして、改めて訊ねた。

『つまり、結界で洞窟が見えなかったのは皆さんが施したセキュリティ、結界が何を人間と見なすのかの設定から俺が外れていただけで、俺が人間ではない訳ではないのですね?』

『まず気になるのはそこなのか!?』

 ヴァンダルーの質問に、マリスジャファー達が思わず聞き返した。


 ヴィダ派ではなく、魔王軍残党……アルダ勢力がそう分類するだろうから、そう名乗っているだけのマリスジャファーはともかく、ポヴァズやヴォネナカルアは、十万年以上前は魔王軍の一員として、乗り気ではなかったがこの世界の神々や勇者と戦っている。更に『魔雪山の巨人』ゾーザセイバは、魔王軍に降った裏切り者で、確実に当時の『ラムダ』世界に損害を与えている。


 自分達の来歴に関して、ヴァンダルーから何かあるだろうと思い、覚悟を決めていたらこれである。驚いても無理はないだろう。


 しかし、それはヴァンダルーをヴィダ派の神々の代表と彼等が誤解しているからだ。

『そう言われましても……今が良ければ過去はどうでもいいとまでは言いませんが、流石に十万年も前の事は知りませんし』

 ヴァンダルーはザッカート達勇者の魂の欠片から作られた魂を持つ、亜神の域に踏み込んだ存在だ。しかし、彼自身は自分を人間と定義している。


 ヴァンダルーは三度の人生を合計しても百年も生きていないし、ザッカート達だった時の記憶はない。十万年前の事は遥か太古の出来事である。

 これが数百年、数千年前の人々なら当時の事を思い浮かべ、悪感情を覚える者もいるかもしれない。だが、流石に十万年は無理だろう。

 何より、ヴァンダルーは彼等から被害を受けていない。彼自身も、彼の仲間達も。だから、恨む理由がないのだ。


 神域に魂を飛ばす事ができ、神々と言葉を交わす事も可能だが、ヴァンダルーはあくまでも人間なのである。

 だから十万年以上前、ポヴァズやヴォネナカルア達が魔王軍だった頃の行いよりも、ヴィダの新種族を十万年以上保護し続けていた事を、評価するべきではないだろうかとヴァンダルーは考える。

 ゾーザセイバや、デディリア達が信仰している『邪毒茸神』ペリャゼイルに対しても、同様だ。


 だから『雷の巨人』ラダテルと違い、魂を喰らう必要性を感じなかったのだ。


『まあ、ヴィダ達には言いたい事があるかもしれませんが……多分、大丈夫ではないでしょうか? ゾーザセイバはタロスやディアナから何かあるかもしれませんけど』

 だが、十万年以上前の戦いに参加していた神々には、他の意見があるかもしれない。だが、それも大丈夫だろうとヴァンダルーは楽観していた。


 元々ヴィダ派は元魔王軍の神々を受け入れている。メレベベイルにしろフィディルグにしろ、魔王軍だった頃はそれなりに『ラムダ』の神々や人間に損害を与えているはずだ。それを受け入れる寛容さがあるのだから、それをポヴァズ達は勿論、ゾーザセイバにも発揮するはずだ。

 ……ゾーザセイバはケジメを付ける意味で、タロスやディアナから鉄拳をくらうかもしれないが。


 ちなみに、マリスジャファーは最初から魔王軍残党と見なされないだろう。何せ、主人格は『南海の神』マリウスで、ジャファーの部分は殆ど残っていないのだから。変わったのは姿と、神としての性質ぐらいだ。


『それに、ここの神殿でヴィダも信仰しているのでしょう? ヴィダも、ガルトランドについては詳しくは知らず、魔王の大陸にヴィダの新種族がいる事に気がついただけでしたが』

 ヴァンダルーの言葉に、繰り返し頷く……形状的に見分けづらい神もいるが、頷いているらしい。


『ええ、ヴィダの新種族達が元々信仰していたので、神像を建立したようです』

『我々も呼びかけてみましたが、境界山脈の結界の影響か、それとも地上の魔素の重篤な汚染の悪影響か、通じませんでした』


『安心した……』

『もしかしたら、ラダテルのように喰われるのではないかと』

 ヴァンダルーの言葉に、ほっと胸を撫で下ろすガルトランドの神々。彼等は何故そこまで緊張するのかとヴァンダルーは思ったが、答えは背後からやって来た。


『偉大なるヴァンダルーよ、それはこれまで御身が魔王軍残党の神を、『暴邪龍神』ルヴェズフォル以外ことごとく喰らってきたからではないでしょうか? 魂の形状にそれが現れています』

『グファドガーン!?』

『何時の間に!? まさか最初からヴァンダルー殿の背後にいたのか!?』


 突然発言した背後邪神に驚愕するマリスジャファー達はともかく、ヴァンダルーは『なるほど』と頷いた。

 指摘されて初めて意識したが、確かにルヴェズフォル……現在ワイバーンにされて、彼の妹的な存在のパウヴィナのパーティーメンバーにされている彼以外の魔王軍残党の魂を、ヴァンダルーはことごとく喰らってきた。


 それは遭遇する魔王軍残党が敵ばかりだった事や、ヴィダ派に降るぐらいなら魂を賭けて逃走する事を選ぶ連中だったからだ。

 逆に、何故ルヴェズフォルを……十万年前に神々を裏切り、ヴィダ派の悪神である『五悪龍神』フィディルグを封印した彼の魂を喰わないのか、自分でも不思議だ。


『まあ、巡り合わせってものでしょう』

 幾つかある理由を……初めて遭遇した時、ルヴェズフォルが神域に籠ったまま出て来ず、ヴァンダルーも招かれていない神域に入る術がなかった事等を一言で済ませると、ガルトランドの神々がヴィダ派に加わる橋渡しと、もしもの時は仲裁する事を約束した。


『最近、こうして仲裁する事が多いですね』

『それもやはり、偉大なるヴァンダルーの力によるものかと』

 つまり、ヴァンダルーのフットワークが軽く、ガルトランドのような前人未到の地に到達できる機動力と戦力を持っているから、接触しやすいのだろう。




 神殿でのガルトランドの神々と会談を終えたヴァンダルーは、ガルトランドの町にあるジョブチェンジ部屋に入った。

 ガルトランドには冒険者ギルドのような半ば独立した組織はなく、ダンジョンや魔境での狩りを行う者達は単純にハンターと呼ばれているらしい。町の町長と各種族の代表者の会議で、ハンターの腕前毎に五級から一級まで等級を審査し、それで入るダンジョンや魔境を決めるらしい。


 しかし、ジョブチェンジ部屋は必要なので町や、各種族の集落にも幾つか設置されている。


 既に、ヴィダル魔帝国やアルクレムに居るダルシア達には魔王の大陸とガルトランドで起きた事は報告している。

 その時、どちらかに帰ってジョブチェンジ部屋を利用しても良かったのだが、記念に利用する事にした。


「まあ、ジョブチェンジ部屋は何処でも同じなのですが」

 そう言いながら、水晶球に触れる。




《選択可能ジョブ 【冥王魔術師】 【堕武者】 【蟲忍】 【滅導士】 【ダンジョンマスター】 【混導士】 【虚王魔術師】 【蝕呪士】 【デーモンルーラー】 【創造主】 【ペイルライダー】 【タルタロス】 【荒御魂】 【冥群砲士】 【魔杖創造者】 【魂格闘士】 【神滅者】 【クリフォト】 【冥獣使い】 【整霊師】 【匠:変身装具】 【虚影士】 【バロール】 【アポリオン】 【デモゴルゴン】【魂喰士】 【神喰者】 【ネルガル】 【羅刹王】 【シャイターン】 【蚩尤】 【神霊魔術師】 【ウロボロス】 【ルドラ】(NEW!) 【血統者】(NEW!) 【魔電士】(NEW!)》




「また増えましたね」

 【ルドラ】は……なんだろうか? 聞き覚えはあるのだが。【血統者】は、【業血】から覚醒した【統血】スキルに関係するジョブだろう。【魔電士】は……よく分からない。まさか、ラダテルの魂を喰ったから出たとも思えないが。


 とりあえず、【ルドラ】に関しては次の機会までにまた『地球』に行く機会があったら、その時『地球の神』に聞いてみよう。

「では、【滅導士】を選択」




《【滅導士】にジョブチェンジしました!》

《【自己再生:共食い】、【能力値増強:共食い】、【魂纏時能力値強化】、【欠片限界超越】、【魂魄限界突破】スキルのレベルが上がりました!》

《【導き:滅道】、【滅道誘引】スキルを獲得しました!》

《【導き:滅道】が【導き:冥魔創夢道】に統合され、【導き:冥魔創滅夢道】に変化しました!》

《【滅道誘引】が【冥魔創夢道誘引】と統合され、【冥魔創滅夢道誘引】に変化しました!》




・名前:ヴァンダルー・ザッカート

・種族:ダンピール(母:女神)

・年齢:11歳

・二つ名:【グールエンペラー】 【蝕帝】 【開拓地の守護者】 【ヴィダの御子】 【鱗帝】 【触帝】 【勇者】 【魔王】 【鬼帝】 【試練の攻略者】 【侵犯者】 【黒血帝】 【龍帝】 【屋台王】 【天才テイマー】 【歓楽街の真の支配者】 【変身装具の守護聖人】

・ジョブ:滅導士

・レベル:0

・ジョブ履歴:死属性魔術師、ゴーレム錬成士、アンデッドテイマー、魂滅士、毒手使い、蟲使い、樹術士、魔導士、大敵、ゾンビメイカー、ゴーレム創成師、屍鬼官、魔王使い、冥導士、迷宮創造者、創導士、冥医、病魔、魔砲士、霊闘士、付与片士、夢導士、魔王、デミウルゴス、鞭舌禍、神敵、死霊魔術師、弦術士、大魔王、怨狂士


・能力値

生命力:577,752 (2,061UP!)

魔力 :8,940,478,230+(8,046,430,407)  (合計808,900,411UP!)

力  :59,631 (749UP!)

敏捷 :52,968 (217UP!)

体力 :63,430 (950UP!)

知力 :68,171 (678UP!)




・パッシブスキル

剛力:6Lv

超速再生:4Lv(UP!)

冥王魔術:9Lv(UP!)

状態異常無効

魔術耐性:9Lv

闇視

冥魔創滅夢道誘引:9Lv(【滅道誘引】と統合!)

詠唱破棄:9Lv

導き:冥魔創滅夢道:9Lv(【導き:滅道】と統合!)

魔力常時回復:2Lv

従群超強化:3Lv

猛毒分泌:牙爪舌:4Lv

敏捷強化:9Lv

身体伸縮(舌):10Lv

無手時攻撃力増強:小

身体強化(髪爪舌牙):10Lv

魔糸精製:1Lv

魔力増大:9Lv

魔力回復速度上昇:9Lv

魔砲発動時攻撃力強化:極大

生命力増強:2Lv

能力値強化:君臨:6Lv

能力値強化:被信仰:3Lv

能力値強化:ヴィダル魔帝国:1Lv

自己再生:共食い:3Lv(UP!)

能力値増強:共食い:3Lv(UP!)

魂纏時能力値強化:中(UP!)


・アクティブスキル

統血:1Lv

限界超越:8Lv

ゴーレム創成:7Lv

虚王魔術:6Lv

魔術精密制御:3Lv(UP!)

料理:8Lv

錬神術:1Lv(錬金術から覚醒!)

魂格滅闘術:5Lv

同時多発動:4Lv

手術:8Lv

具現化:4Lv

連携:10Lv

超速思考:6Lv

指揮:10Lv

操糸術:8Lv

投擲術:10Lv

叫喚:8Lv(UP!)

神霊魔術:2Lv

魔王砲術:5Lv(UP!)

鎧術:10Lv

盾術:10Lv

装影群術:7Lv

欠片限界超越:2Lv(UP!)

整霊:1Lv

鞭術:3Lv

霊体変化:雷

杖術:2Lv

高速飛行:1Lv



・ユニークスキル

神喰らい:8Lv

異貌多重魂魄

精神侵食:9Lv

迷宮創造:5Lv

大魔王

深淵:10Lv

神敵

魂喰らい:9Lv

ヴィダの加護

地球の神の加護

群体思考:7Lv

ザンタークの加護

群体操作:7Lv

魂魄体:4Lv

魔王の魔眼

オリジンの神の加護

リクレントの加護

ズルワーンの加護

完全記録術

魂魄限界突破:2Lv(UP!)

変異誘発

魔王の肉体

亜神


・呪い

 前世経験値持越し不能

 既存ジョブ不能

 経験値自力取得不能




 この後控えている戦いは、激戦と言えそうなので、能力値が上がり易そうな導士ジョブの内、先に出ていた【滅導士】をヴァンダルーは選んだ。

「もう冒険者登録も済ませましたから、ステータスを気にする必要もないですからね。しかし……レベルが上がったのは、【共食い】や【欠片限界超越】とか、身を削るスキルばかりですね」


 滅導士の影響なのだろうが、文字通りの不吉さだ。

「まあ、いいか」

 そう言って気を取り直したヴァンダルーは、ジョブチェンジ部屋を後にした。


――――――――――――――――――


○二つ名解説:黒血帝


 黒き血を持つ皇帝である事を表す二つ名。ブラッドポーションの生産や、生物を血によって変異させる時、自身の血を変化させる時に補正を得る事が出来る。

 この二つ名を獲得したのは歴史上ヴァンダルーのみであり、ほぼ彼専用の二つ名である。




○二つ名解説:龍帝


 龍の皇帝である事を表す二つ名。普通は自称しようが、神にそう称えられようが獲得する事は出来ない。

 出来るとすれば、龍の中でも有力な存在に認められ、名を贈られた時ぐらいである。

 そのため、ティアマトに二つ名を贈られたヴァンダルー専用の二つ名と言える。


 この二つ名を持つ者に敵対するという事は、ティアマトやその配下の龍達と敵対する事と同じだと覚悟しなければならない。




○ジョブ解説:怨狂士


 【叫喚】スキルを獲得し、ある程度レベルを上げた者が就く事が出来るジョブ。【叫喚】スキルに補正が在り、また【歌唱】等のスキルを獲得しやすくなる。ヴァンダルーの場合は補正があっても、それでは補えない程彼には歌の才能がなかった。ただ、効果音を出すのは上手くなった。


 声を出す力や体力が上がり易く、敏捷は上がり難い。ジョブ単体として考えると、中々微妙である。

 上位ジョブに【ルドラ】が存在するが、亜神の域(人間なら上位のA級、若しくはS級冒険者以上)にならないと、就く事は出来ない。

9月15日に次話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに新たな導士ジョブについたか
[気になる点] 確かにジョブチェンジ部屋ってギルドとかにおいてる感じだけど人間が作れるのかな?
[気になる点] >ガルトランドの町にあるジョブチェンジ部屋に入った。 >しかし、ジョブチェンジ部屋は必要なので町や、各種族の集落にも幾つか設置されている。 ※「ジョブチェンジ部屋」は、いつ、どのよ…
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