二百七十六話 暗黒の聖女
投稿が遅れてすみません。
パフォーマンスとして少し飛行したクワトロ号は、再び着水すると港に接舷した。
港に集まった人々は「神託の通りだ!」と歓声をあげ、代表者らしい人種の男性が呼びかけてくる。
「ようこそ、地上から来た兄弟達よ! 我々はあなた達を歓迎――どうしたんだ、その顔は!?」
だが、クワトロ号に乗っている者達の姿を見た瞬間、歓迎の言葉は驚愕に変わる。
「右側の皮が削がれて、骨が剥き出しじゃないか! は、早く治療しないと!」
「待つんだ、町長! こっちの人は顔が全部骨だけだぞ!? それにみんな顔色が悪いし、目が虚ろだ!」
「ポーションをありったけ持ってこい! 治癒魔術が使える奴をかき集めるんだ!」
『いやいや、落ち着けよ。俺の顔については気にしないでくれ』
『ヂュゥ、お気持ちだけ頂いておきます』
顔の右半分が、頭蓋骨が剥き出しになっているボークスと、実は顔だけではなく鎧の下も骨だけの骨人が、地底世界の人々を落ち着かせようと、怪我人ではない事を伝える。
神託を受けたドーラネーザが招いた天を翔ける船、クワトロ号を出迎えるために地底世界の人々は集まった。だが、クワトロ号に乗っているのがほぼアンデッドである事に気がついていなかった。
遠目にはクワトロ号は雰囲気がやや不気味だが巨大な事以外は普通の船に見えるし、巨人種ゾンビやアンデッド船員も、遠目には生きている人と変わらないように見える。防具や服を着ているし、動きに不自然さが無いからだ。
「と、言う訳で船に乗っている者の多くはアンデッドじゃが、心配はいらん。地上では巨大な真なる巨人や龍とやり合った、神にも匹敵するアンデッド達じゃが、とても理性的だ。
ユラク町長、妾が保証する」
ドーラネーザの説明に、ユラクというこの町の長らしい青年は驚愕から立ち直り、元通りの穏やかな表情で頷いた。
「そうでしたか。ドーラネーザさんがそう言うのでしたら、大丈夫ですね」
その町長の判断に、集まっている人々からも異論は出なかった。どうやら、彼女は随分信頼されているようだ。
「しかし、アンデッドとは……こんなに幼いのに、あなたも生前はご苦労なさったでしょう」
「……すみません、俺は生きています」
「えっ? そうなんですか? これは失礼しました。まるで死蠟のような肌の色をしていたので、てっきり……では、あのスキュラの方の妹さんですか? 触手が随分多いんですね」
「いえ、それはこのタマとギョクの触手です。俺はダンピールのヴァンダルー・ザッカートと申します。あと、男です」
「「キュー」」
「なんと! 勇者ザッカートの名を継いでいるとは、特別な立場の方のようですね。これは重ね重ね失礼しました」
アンデッドやスキュラに間違えられたヴァンダルーが、そう訂正すると、ユラク町長は「いやー、参った」と頭を掻いた。
「では、早速ですが神殿までご足労願っても構いませんか? 私達はここをガルトランドと呼んでいますが、ここに来た方はまず神殿に案内するようにと、古の時代からの慣習がありまして。
私達はその間、皆さんの宿や歓迎の準備をしますので、他に世話役を頼む事になりますが。あ、そう言えばアンデッドの方達も食事はとられますか?」
「分かりました。後、アンデッドの皆も食事をとる事が出来るので、よろしくお願いします」
ボークスや骨人も食事を楽しむ事が出来る。生者のように必要不可欠と言う訳ではないので、娯楽でしかない。しかし、娯楽だからこそ宴を開いてもらえば喜ぶし、この地底世界の人々と交流しお互いに打ち解ける機会になるだろう。
しかし、若干話が早く進み過ぎている気がすると、ヴァンダルーは思った。
これまでも、境界山脈内部の国々や魔大陸の街では、アンデッドについて説明し、納得してもらった。しかし、納得が得られるまでもっと時間を必要とした。……それでも説明する前にヴァンダルーが人々から信用を獲得していたり、相手が導かれていたり、そうした理由で理解を得るまで必要とした時間は通常では考えられない短さだったのだが。
しかし、ユラク町長を始めこの場の人々が納得するまでに要した時間はおおよそ十数分。ヴィダの新種族だけなら、ヴァンダルーの導きの効果が高まったのだと考える事も出来るが、ユラク町長は見た限り人種である。
彼が余程人生に絶望しているのでなければ、会話も殆ど交わしていないのに導かれたとは考えられない、
「でも、良いのですか? アンデッドに対して殆どの人は忌避感を持つはずですが」
気になる事はすぐに確認しておくに限ると思って尋ねると、ユラク町長は「はい、良いのです」と頷いた。
「神託には、アンデッドの存在は明確にはありませんでしたが、『深淵が死を率いてやってくる』とありましたからね。
それに、私もアンデッド同様、アルダが邪悪と定義する存在ですから」
「貴方も?」
そう聞き返すと、ユラク町長は人間にしか見えない笑顔で答えた。
「はい。私はユラク・シモン。人種にそっくりですが、ホムンクルスです。私だけではなく、この地底世界の人種やエルフ、ドワーフは全て……いや、ほんの数人以外はホムンクルスか、それと他の種族の混血です」
ホムンクルス。それは邪悪な生命属性魔術によって創られる、疑似生命体。しかし、多くの個体は出来損ないで、培養に使った容器から出る事が出来ず、大きさも赤ん坊か幼児程度にしか成長しない。
だが、邪神悪神の力を得た者や、長く邪な魔術を学んだ魔術師が作るホムンクルスは、人間そっくりな見た目と、高い知能を持つと伝わっている。
アルダ神殿では、ホムンクルスは人間ではなく魔物の一種として定義しているが、当然魔境やダンジョンなどで発見される事はない。と、言うか人間そっくりのホムンクルスは、半ば伝説の存在であり、バーンガイア大陸では魔術師ギルドの書庫に納められた文献に存在が記されているだけであった。
本当に魔物なのか……ステータスにランクの項目があるのか、ランクアップするのか、ジョブに就く事は出来ないのかは、文献に記された情報が少なく、不明とされていた。
ヴァンダルーも昔、ダルシアの新しい肉体を作る方法の一つとしてホムンクルスについて調べた事があった。
ただあまりの資料の少なさと、必要な邪悪な神々と契約する具体的な方法が分からなかったので、保留にしたまま時が流れ、最近では忘れていたのだが。
「まさか、町長も含め住人の殆どがホムンクルスだったとは思いませんでした」
そうした謎は、このガルトランドで一気に解明されそうである。
『うん、見ていても人種にしか見えなかったもん。それがあんなに……集まっていた人達だけで、数十人はいたよね?』
そう驚くヴァンダルーとザンディアに、世話役を任命された魔人族の女性は「そうでしょう」と頷いた。
「我もドーラネーザ達と共に、このガルトランドに身を寄せた当初は驚いた。我もホムンクルスを作った事はないが、知識としては知っていた故、余計にな」
そして、遠い目で空を見上げて続ける。
彼女の名はデディリア。獣魔人、ヴァンデルと呼ばれる、様々な獣の特徴を持つ魔人族だ。大柄な体に、獅子の尻尾、鉤爪の生えた足に、鰭のような耳等、魔人族の共通した特徴である頭部に生えた角と青黒い肌を見なければ、異なる種族同士で結婚した獣人種の間に生まれた女性のように見える。
そしてドーラネーザの一族と同盟を結んでいた、魔人族の一族の長で、バーンガイア大陸では『暗黒の聖女』と名乗っていたそうだ。
「通常のホムンクルスを一体創るのに約百万バウムかかるのに、あの人数……しかも人種型やエルフ型、ドワーフ型など幅広く揃えて、町の長が出来る程高い知能と事務能力を併せ持つ。
創ろうとすれば、どれだけの資金と施設が必要になるのか、想像も出来ない」
そしてそのまま真っ直ぐ歩いて、建物の間の狭い道に入ろうとする彼女。それをプリベルが声をかけて止めた。
「……あのー、神殿ってあの大きな建物だよね? そっちに行くと、通り過ぎちゃいそうだけど」
「む、すまん。まだこの町に来てから日が浅くてな」
そう言い訳をして、金勘定に夢中になっていたのを誤魔化しながら戻ってくるデディリア。このガルトランドにもガルトという独自の通貨があるそうだが、これはバーンガイア大陸にいた頃からの彼女の癖だろう。
ヴァンダルー達一行はクワトロ号と『死海四船長』達を港に残し、彼女の案内で神殿に向かっていた。クワトロ号を影の中に収納する事もできるのだが、港に集まった人々がまだ興味津々といった様子でクワトロ号を見つめているので、置いて行く事にしたのだ。
今頃港では、骨人やアンデッド船乗り、オルビアやレビア王女による、「私達は悪いアンデッドじゃないよショー」が開催されている頃だ。
骨のパズルや骨人の剣踊、炎と水と空間のショーで、アンデッドの中にも親しみが持てる存在が居る事を地底世界の人々に知ってもらうために、即興で開かれている。
『俺達は、何故に不参加ぁ? 空間の連中まで参加していたのにぃぃ』
『そうです、主よ。我々の光のショーで奴らを惑わし、同類になる事を望むよう仕向けて見せます!』
『狂犬』のベールケルトと、『闘犬』のダロークがそう力説するが、ヴァンダルーはきっぱりと首を横に振った。
「ダメです。特にダローク、『奴らを惑わし』とか、『仕向ける』とか、そう言った言葉が出る内は絶対にダメです」
二人は生者を自分達の同類にしようとする、ある意味ゴーストらしい癖があった。その対象が敵に向かうのなら別に構わないが、敵以外も同類にしようとするので目を離せないのである。
……この二人は、ヴァンダルーに導かれても人格が全て変わる訳ではない事の、悪い例である。
『そんな!? いったい何がいけないのですか!?』
しかも、自覚がない。
『貴様がそんな事だから、ヴァンダルー様の目が届く場所にしか配置されんのだ! 良いぞ、その調子を維持するのだ!』
ダローク達が万が一暴走した時に、すぐ取り押さえるため『忠犬』のチプラスもついて来ていた。ただ、彼はヴァンダルーについていられる事を喜んでいる様子だが。
「不穏な言葉は聞かなかった事にするとして……ここの人種やドワーフ、エルフが全員ホムンクルスではないし、ユラク町長たちも純粋なホムンクルス、錬金術で創りだされた存在ではない。
町長も言っていたが、彼等はヴィダの新種族との両親の間に混血が進むうちに産まれた存在だ。培養器ではなく、母親の腹で生まれ育っている。普通のホムンクルスとは、だいぶ違うだろう」
「なるほど。普通の人と見分けがつかないのは、だからかもしれませんね」
感情と感情表現、他者への共感。それがよくある作り物めいたものではなく、普通の人間と同じなら外見が多少変わっていても、人間だと思い込むのかもしれない。
『しかし、聖女にも色々いるもんだな』
『ん? ボークス、何か言った?』
デディリアの様子を見て、ボークスがそう呟く。自分に視線が向けられている事に気がついた、『癒しの聖女』の二つ名を持つジーナが首を傾げる。
方や、金勘定に夢中になって道を間違えかける魔人族の聖女。方や、飛んで来た自分より大きな岩を盾で叩き落とす巨人種ゾンビの聖女。
どちらも、見た目からして一般的な聖女らしい清らかさや、たおやかさは感じられない。
「まあ、聖女と言っても我は自称『暗黒の聖女』。半ば以上、アルダへの皮肉を込めて名乗っていただけだ。特段、聖女らしい偉業を成した訳でも、神からそう認められた訳でもないからな。回復魔術は使えるが、気休め程度だ。ジーナ殿とは違う」
傭兵や冒険者、そして犯罪者の中には自分に箔を付ける為に、所有していない二つ名を名乗る事がある。デディリアの二つ名もそうして自称している内に認知され、ステータスに表示されるようになったものらしい。
『そんな事はないよ。回復魔術が使えるのが聖女の条件じゃないし、だったら私の二つ名に態々『癒しの』なんてつける必要ないし』
「そうですよ。それに貴女は、大陸から一族の生き残りを纏めて、こんな遠くまで辿りついた。それは神の加護や神託があったとしても、十分過ぎる偉業だと思いますよ」
世間一般の聖女のイメージから外れているジーナと、彼女を支持するヴァンダルーがそう反論する。
二人の言っている事は正しい。神殿に仕える聖職者達の多くは確かに回復魔術を使う事が出来る。何故なら、その方が民衆に受けるからだ。しかし、それだけでは法衣を着て聖印をぶら下げただけの魔術師だ。神の教えを説く事は出来ない。
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、ここまで辿り着けたのはドーラネーザと彼女達が奉じる神のお蔭だ。我はそれ程貢献していないし……そもそも、バーンガイア大陸から逃げる羽目になったのは、我ら魔人族の責任だ」
デディリアによると、彼女達は元々オルバウム選王国のファゾン公爵領で暮らしていた。
しかし、ただ平和に暮らしていた訳ではない。定住していたのは割り当てられた自治区ではなく、邪悪な神を信仰し、【魔王の欠片】を隠し持っていた。
そして人間社会に対して、後ろ暗い干渉も行っている。
「もう隠す事ではないので言うが、地元領主の一族や冒険者ギルド支部のマスター等、有力者に対するハニートラップと賄賂だ。
我の一族の淫魔人、サキュバスが人間に化けて近づいて弱みを握り、身体と賄賂で籠絡して一族の安全を確保してきた。隠れ潜んでいるだけでは、いつか見つかる」
人間社会に隠れ潜む魔人族の中には大きければ国家転覆、小さくても辺境の村や町を乗っ取る等、過激な陰謀を企む者もいるが、デディリアの一族はそれ程ではなかったようだ。
「……それは、平和に隠れ潜んでいたと言う範疇に入りませんか?」
ヴァンダルーなどはそう思うのだが、ファゾン公爵はそう思わなかったようだ。
「入らないだろう。我達がその気になれば、籠絡した者達を使って不正はし放題だし、不都合な人間を消す事も容易い。実際、過去にはそう言った事もしてきたからな。
それに、血統を気にする貴族達には我々の存在は都合が悪い。こう見えても、我やドーラネーザにはファゾン公爵領の貴族の血が混じっている」
ハニートラップを仕掛けるという事は、要人と一夜の関係になるという事で、その結果子供が出来る事もあった。出来た子供は一族の一員として育てられ、暮らしてきた。そして親しい魔人や、同盟相手の人魚と結婚し……血は混じり広まった。
デディリアやドーラネーザは選王国の貴族の血を引いているのである。
「そして籠絡した誰かが裏切ったのか、それともヘマをしたのか、今となっては分からないが我々の存在がばれた。公爵の騎士と冒険者ギルドの冒険者で編成された討伐隊を差し向けられた。我々は撃退するどころかドーラネーザ達の助けを得て逃げる羽目になった訳だ。
最初は大陸から離れるつもりまではなかったのだが……ドーラネーザがマリスジャファーから神託を受けた。『新天地を目指すべし』と言う言葉と、方向を指し示してな」
後は泳げない者の為に、運良く見つけた海賊船を襲撃して船を乗っ取ってここまで航海してきたらしい。
「壮絶な大冒険じゃないですか」
「大陸を出てからは、ほぼドーラネーザ達のお蔭さ。我が生きているのもな」
デディリアは討伐隊のある冒険者との戦いで、深手を負っていた。ドーラネーザが【魔王の粘液腺】から分泌した粘液で傷を包み、出血を抑えていなければ死んでいただろう。
『だけど、フライングクラーケンはどうしたの?』
『戦って勝てたとも思えねぇから、偶々遭遇しなかったか、神託で遭遇しないコースを教わったとかか?』
ジーナとボークスがそう尋ねると、デディリアは「守護者の事か」と頷いた。
『守護者?』
「ああ、ガルトランドの神々が配置した魔物か、その子孫の事だ。我々がその存在を知ったのは、ここに着いてユラク殿達から教えられたからだが」
どうやらフライングクラーケンは、洞窟の出入り口と同じで亜神等アルダ勢力の手の者が、魔王の大陸に近づくのを防ぐ目的でガルトランドの神々によって配置された魔物だったようだ。
フライングクラーケンはある程度以上巨大な対象……真なる巨人や龍が水面近くを泳いでいるか、空を飛んでいる時のみ、浅い海に出てきて襲い掛かる習性を意図的に与えられていた。そのため、人魚達や中型の海賊船を使っていたデディリア達は攻撃対象にならなかったらしい。
逆に、クワトロ号は大型船を四つ繋ぎ合わせて作った超大型船だったため、フライングクラーケン達の闘争本能を大いに刺激したようだ。
『陛下君、霊に聞いた時分からなかったの?』
「俺達が倒したのは、ここの神々が創ったフライングクラーケンの子孫達でしょうからね。彼らは亜人型の魔物と違って言語を持たないので、歴史や文化を継承する事は出来ませんから、自分達の来歴を知らなかったはずです。
そして、知らない事は俺に魅了されていても話しようがありません」
ザンディアの問いにそう答えるヴァンダルー。ガルトランドの神々が番人用の魔物を創る時にフライングクラーケンを選んだのも、そうした理由で万が一にもアルダ勢力に自分達の存在が洩れる事がないからだろう。
そう話している内に、目指している神殿が近づいてきた。
この町は、地底世界ガルトランドの首都のような場所であるらしい。各種族が暮らす町や村は別にあるが、お互いに集まって話し合いや交易をするための中継地を、また地底湖での漁をするための港と船の整備、そして海産物の加工を行うための拠点を作ったら、何時の間にか町にまで発展していたそうだ。
そのため神殿も各種族の神々が全てと、『生命と愛の女神』ヴィダと『炎と破壊の戦神』ザンタークが祭られていた。全体的な印象は、モークシーの町の共同神殿と似ている。
やや意匠が禍々しいが。
「ここが神殿だ。恐らく、ここで神々から神託が下されると思う。我達が移住した時もそうだった」
『いや、多分坊主の場合は直接話を付ける事になるんじゃねぇかな?』
「直接? それはいったいどう言う――」
デディリアの声が途中で途切れたと思った時には、ヴァンダルーは神々の神域に招かれていた。
『なるほど、やはり』
そして神々の姿を見たヴァンダルーは、彼等が元魔王軍の邪神悪神である事を理解して納得した。人間そっくりのホムンクルスを創ったり、番人としてフライングクラーケンを大陸から離れた海に配置したり、この世界で誕生した神らしくない事を行っているので、そうだろうなとは予想していたのだが。
姿を見せた神は、双頭の鮫の首の根元から逞しい男性の上半身を生やしている神や、白い体毛で全身を覆った猿……いや、巨人。逆に体毛が一本も生えておらず、目も鼻も口も無く皮膚だけが艶めかしい神、それにあらゆる臓物を人型に組み合わせたような神に、無数の骨を獣の形に組み合わせたクノッヘンに似ている神に、肉だけで出来たドラゴンのような神。そして笠に目や口がついた茸の集合体のような神。
そして彼らは、何故か全員が腕に相当する部分を上げてバンザイのような姿勢を取っていた。
(ガルトランドの挨拶かな?)
そう思ったヴァンダルーは、彼等に倣って腕を上げてバンザイをする。
『初めまして。ヴァンダルー・ザッカートと申します。危ないところを招き入れて貰い、助かりました』
そしてそう挨拶すると、何故か神々はビクっと身体を振るわせて、怯えたような様子を見せた。そして双頭の鮫の下半身を持つ神が意を決し、口を開いた。
『こちらこそ貴殿を迎え入れる事が出来て光栄だ。我は、『紅南海の正悪神』マリスジャファー、ドーラネーザの一族を守護してきた神だ。他の神も、約十万年もの長きに渡りヴィダの新種族を守護してきた者ばかり。
故に、どうか話を落ち着いて、冷静に、最後まで聞いてほしい』
『はい、俺は見ての通り落ち着いていて、冷静です。そして最後まで話を聞きますが……どこかおかしいですか?』
『ではその……大きく振り上げた何本もの腕は、いったい?』
『これは、あなた達の真似をしているだけです。てっきり、挨拶や歓迎の印かと思って』
『いえ、我々が手を上げているのは、降参と敵意が無い事を表しています』
『……そうでしたか』
どうやら、バンザイの意味が両者で違っていたらしい。ヴァンダルーは、すっと両腕を降ろし、マリスジャファー達も安堵しながらそれに倣った。
『ですが、何故出会い頭にそんな事を? 俺は別に貴方達を害そうとは思っていませんが。……それに、誰彼構わず魂を喰うような獣になった覚えもありません』
ラダテルの魂を喰らった事で怯えられているのだろうかと思ったヴァンダルーは、そう言ったが、マリスジャファー達がヴァンダルーに対して怯えていたのは、他の理由があったからだった。
『いいえ、ヴィダの御子、勇者を継ぐ者よ。我々があなたを恐れているのは、我々がヴィダ派の神々ではないからです。
我々は、魔王軍の残党に分類される神々なのです』
9月11日に277話を投稿する予定です。




