page10 三人の夜
引っ張られるまま、流されるままに俺の家へと到着した。
「はやくあけて下さいよぉー」
「涼ちゃん、はやく、はやく!」
・・・。
このままでいいのだろうか。
男のむさ苦しい部屋に、女の子二人も連れてきていいのだろうか。
俺の頭の中で、葛藤が始まる。
どうするべきか。
このまま家に帰せば、まぁ何事もなく無事に終わる。
けど、この酔った二人がすぐに返してくれるわけがない。
クソっ!
どうする・・・どうする・・・。
「あーもう!その酔いを寝て醒ましてけ!」
吹っ切れた俺は、二人を部屋へと押し込んだ。
酔いが醒めるまで寝かす。
そしたら帰らせる!
扉を開けると、二人が返事もなくドタドタと入っていく。
特に広くもない部屋。
キッチンがあり、向かいはトイレ。バスルーム。
その奥がリビング。
といっても、小さな机とベッドが置いてあるだけ。
ベッドのせいで半分くらいは場所を取っている。
「ここが涼ちゃんの部屋かぁー」
「なんだか綺麗ですねぇ」
いろいろ言いながら、二人はベッドに腰掛けた。
縁から足をプラプラとさせ、二人でのほほんとしている。
「入っちゃったね、私たち」
「・・・そうですね」
俺は扉の鍵をキチンと閉めると、キッチンに入った。
適当なコップを選んで、冷蔵庫の麦茶を注ぐ。
それを持って、リビングに向かった。
「涼ちゃん、ベッドふかふかだねー」
「・・・いいから、茶飲んで早く寝ろよ」
「なんでですか?」
机に置いた麦茶を、香坂が手に取る。
優利香も机の麦茶を手に取った。
「酔いを醒まして出ていってもらいたいんだ。俺が手を出しかねないから。」
「手を、出す」
「ま、どうせ俺は離れて寝るけどな」
俺は奥のクローゼットから毛布を取り出すと、それをかけて壁に寄りかかった。
その光景を、二人はジッと見つめている。
「大丈夫だ。襲ったりなんかしねぇよ」
彼女たちはそのあと少しこっちを見てから、互いに見つめ合って頷いた。
「寝よっか」
「そうですね・・・」
心なしか彼女たちの頬が赤かった。
酒のせいだな、と俺は思って瞼を閉じた。
本当は、そゆことにちょっと興味があった。
あのひ、口付けを交わしてから何だか彼と会うときに体が火照る。
それを悟られないようにしていた。
―――香坂さんと顔が向き合ったとき、彼女もそんな感じなんだろうなと思った。
本当は・・・。ううん、多分これはお酒のせい。
じゃなきゃこんな・・・。
こんな気持ちにはならないと思うから。
あの時谷山さんも、同じ気持ち・・・だったのかな?
ここはどこだ。
静まり返る空間。
その中に、ポツンと一人。
自分が立っていた。
遥か上空から降り注ぐ幾多の光が、一点。自分を照らしている。
その光が、まるでスポットライトのように見えた。
点在する光を幾つか覗いてみると、光の中には思い出が見える。
いつかのと同じものなのか。
明るく照らされた空間の中で、肌に何かが触れた。
ここはどこだ。
暗転終了。いつものことだ。
目が覚めると、片側に何かの感触を感じる。
「ん・・・なんだ・・・?」
見てみると、そこに香坂が寝ていた。
「うぉぁっ!?」
彼女は何故か上半身の服がはだけた状態で寝ていた。
何でこんな姿で寝てんだよっ・・・!?
「・・・涼介・・・君」
「なっ」
起きたのか!?
傾く彼女を確認すると、静かな寝息を立てている。
どうやら寝言のようだ。
なんだよ・・・焦らせやがって。
にしても、どうするか。
今からベッドに戻すとしても・・・っ。
「触るに触れねぇだろ、コレ・・・」
寄りかかる彼女は、とても可愛い。
欲望が、少しずつ渦巻いてくる。
「涼介君・・・」
「―――っ!?」
何考えてんだ、俺は。
彼女の声で、正気を取り戻す。
しかし、そんな心を彼女は吹き飛ばした。
彼女は突然起きだすと、俺のほうへと視線を向けた。
「なんっ・・・」
「ワガママなんだよね?ここに・・・あたしがいることは」
「香坂、お前何言って・・・」
「ごめんね・・・。谷山さんと仲良くしてるのに。でもね、あたし・・・」
彼女は一言飲み込んだあと、涼介に近づく。
彼女の眼が、真っすぐに輝く。
そして、彼女は俺を抱きしめた。
抱きしめたと言うより、身体を少し預けたに近い。
「あたしのワガママ。・・・少しガマンしてくれますか?」
耳元で呟くように、彼女は言った。
俺は何も言えずにただ口を閉ざす。
いや、何も言えなかったんじゃない。言葉が何も浮かばなかったんだ。
はだけた服から感じる、数枚越しの彼女の体温。
それが、俺の心の中の何かを動かしている気がする。
「香坂―――」
この部屋には、優利香がいる。
こんな事してるなんて気が付かれたら、彼女を傷つけてしまう。
たとえ俺の本心でなくとも。
早く離れろ、俺の身体。
こんな事―――。
静かに時が流れる。
ジョウロ―――。
ブリキで造られたジョウロが、部屋の中で意味深に光った。