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私の声

「あっさかっわさん!あーそびーましょ!」

不意に後ろから誰かが抱きつく。見ると、そこには小柄な少女、冨山奈々華かいた。

「もう、学校内でベタベタくっつかないで。私は忙しいの。」

「まったく、ほんとは恥ずかしいだけの癖して〜。そんなことをいったら、可愛い少女は離れちゃうぞ〜」

「馬鹿言わないで、私がなんで恥ずかしがるの?そんなことしてるからいつまでもレギュラー入りできないんだよ。私は自主練するから。」

そう言って、私はトロンボーンを持って楽譜に向かう。ここは吹奏楽部の部室。この教室は日当たりがよく、16時の時間帯だと、ちょっと暑すぎるくらいには太陽が眩しい。

「ふふっ、二人とも、ほんとに仲良しだね。」

「まあ、私と雛の友情も負けてないけどねー。

ねっ、雛。」

そう言って話しかけてきたのは、夢川雛と、石塚雷奈。

二人は超がつくほどの仲良しで、学園一のカップル(他称)である。それゆえ、二人の花園領域に押し入ることはどんな男でも憚られる。

「お二人は相変わらずお互いにお熱だね。私みたいに自分にストイックな人のこと、見習ってもいいよ。」

「あらっ、あなたがストイックなんて言って、私に勝ったことあったかしら?」

近づいてくる人影を見ると、そこには勝ち誇った顔の女の子、空街照がいた。彼女も私と同じトロンボーンを構えていて、ずっと私のライバルだ。

「そうやって強がってられるのも今のうちだから。

すぐにボコボコにしてあげるから、首を洗って待ってなよ。」

「ええ!かかってきなさい!私はいつだって負けないわ!」

私達の挑発合戦がちょっとエスカレートして、他の練習をしている人達の妨げになる。周りの人はまたやってると呆れ顔であるが、そのどれもが少し安心を帯びていて暖かい。

「まあ、そんなこと言える調子で良かったわ。

…ほんとに良かった。」

「…気にしてくれてありがとう。でも、負けの言い訳にはしたくないから。」

吹奏楽部の教室には、花が一つ生けてある。机の上に置かれたその花の意味は、追悼以外の何者でもない。

「あれから一週間だね。3人から2人になっちゃったけど、調整は大丈夫そう?」

「もっちろん!あたしと浅川のコンビネーションに勝るものはなーーい!」

奈々華はいつも通りの明るいキャラで、周りを笑顔にさせる。騒がしくも楽しい活動は今日も6時くらいまで続き、先生が終わりの合図をかけ、各々教室を後にする。

「…浅川。」

「うん。分かってる。今日は何時までいられる?」

「親が心配するから10時くらいまで。」

「分かった。じゃあ行こっか。」

そういうと、彼女は私の体にべったりと身体を寄せる。

あの日からのルーティンだ。部活終わりに、私は奈々華を部屋に呼ぶのは。

彼女の腕と私の腕は絡み合って、よろめきながら足を動かし合う。

私と奈々華はまだ出会って3ヶ月程度だが、お互いに信頼を寄せ合っている。

いや、むしろ彼女がいなければ生きていけない。私はそのくらいに思っている。

彼女の体温が、夏の熱気に熱った私の体に、さらに熱を込める。ただ、いたずらに私の体を温めるのでなく、私の冷め切った心に温もりをくれる。

奈々華と私は、一緒にコンビを組んでいる。奈々華は高校に入って初めての楽器に触るため、まだまだ危なっかしいこともあるが、私がフォローして、彼女は順調に成長している。

そして私達はあの日、誓い合った。

「あたし達、ずっと…ずっと一緒だからね。」

「分かってる。私達は、ずっと一緒。」

………っ!

あの日のことを思い出すと、頭が痛くなる。今日はまだ日が沈み切ってはいないが、あの日の夜は暗かった。

逆に今が日が沈むのが遅いだけなのだろうが、それでもあの日の暗がりと同じ世界とは思えない。

そのはずなのに、覚えている。

目が、耳が、あいつを捉えて、口が恐怖と土砂物を吐き出しそうになり、心が、壊れそうになったあの日のこと。

「あたし達、ずっと…ずっと一緒だからね。」

脳が何度もその言葉を繰り返し、手が勝手に奈々華の背中に回る。

抱きついたような形になってしまったが、それでも奈々華は足を止めて、私の背中をさすってくれた。

家について、はじめに目につくのはあの新聞。

私達はベットに腰をかけて、手を結び合う。

その新聞の見出しはこうだ。

"北浅見高校、吹奏楽部男子自殺。

3年A組渋井丸幸樹のご遺族は…"

渋井丸幸樹。私達がトリオでやっていた頃の人。

あいつは、確かに吹奏楽部のエース的存在だった。

私達があいつとトリオを組んでくれたのも、実力が買われたからだと思った。

でも違った。あいつは私達にベタベタと触ってきて、

その気色悪い感触がまだこの胸に、お尻に染み込んでいて、その跡が残ったかのような気になる。

奈々華がギュッと私の腕を握りしめる。

それを私は優しく受け止めて、頭をゆっくりと撫でる。


私達はあいつを殺した。


絶対に、誰にもばれる訳にはいかない。

ちょっとインスピレーションを受けたので同時連載。

どちらとも3日に一話ぐらいのペースでいけたらなと思っています。

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