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30 事件の顛末2

 第一魔法騎士団の牢に捕らわれていたアルドは、御前試合はもちろん、ブルノの事件に対しても黙秘を続けていた。

 三日後、アルドには選択権が与えられた。

 このまま永遠に黙秘するか、自白し、魔法を捨て、短期の刑の後自由になるか。

 回答に与えられた時間は一時間。アルドは自白を選んだ。



 魔犬を瓶に封じた呪術師は、かつてアルドが故郷で魔法を学んでいた時の兄弟子だった。偶然王都で再会し、スドヴェストの公爵家につながりを持っていることをほのめかされた。

 ノルドの第一魔法騎士団の団員になったものの、自分の実力はなかなか認められずにいた。大した魔法も使えない癖に派手好きな高位の貴族が王族や上官の機嫌をとり、昇格していくのが面白くなかった。そこへ、事がうまく運べばスドヴェストの魔法師団の小師団長にすると言われ、今回の事件に加担することにした。


 呪術師と協力し、捕らえた数匹の野良犬に特殊な瘴気を与えて魔犬に仕立てると、うちの一匹に他の犬を魅了する強力な術を埋め込み、紫の石に封印した。

 犯罪組織がよく使っている手だった。恐らく元々この呪術師が加担していたのだろう。

 魔犬を放ち、徐々に王都に導くよう仕向けた。十分にコントロールし、いつでも仕掛けられるようにする筈だったが、予想以上に魔犬を呼び寄せる力が強く、群れは急激に大きくなり、早々に王都にたどり着いた。そして、あっけなく討伐され、ボス犬は逃げ出してしまう。


 別の群れを東の辺境地に近い森におびき寄せ、半殺しにした魔犬を用意すると、呪術師が瘴気の塊を植え付けた。アルドも協力し、再生の魔法をかけて瓶の中に封印した。

 小隊長をしていた男をそそのかし、生け捕りにした手柄を与えた。何の役にも立たないほどの簡単な封印で小隊長は安心していた。あまりの無能さに、早くこの団を出られる日が来ることを願った。

 魔犬の入った瓶は第一魔法騎士団本部に運ばれたが、近くスドヴェスト王が来駕することを考慮し、王族を警備する第一魔法騎士団から第二騎士団に一時的に移管された。そしてその管理を担当する係に同志がいたのは、偶然ではないだろう。


 御前試合の当日、同志が雇われた貧乏貴族に瓶を渡し、スドヴェストの魔法師団長シルヴァーノが王にペンダントを投げると同時に地面にたたきつけるよう指示した。しかし、師団長は投げなかった。

 それならば、王が闘技場に降りて来た時がチャンスだった。いともあっけなく捕まった雇われ貴族の手にあった瓶を宙に浮かせ、地面に叩きつけたのは、観客に紛れていた別の同志だ。

 王の退場が早く、守りも強固で、暗殺は失敗した。だが、闘技場にいる両国の騎士団員を巻き込み、両国の守りを弱体化させることも求められていた。

 イーヴォの体に瘴気の塊が仕込まれていることは、本人には知らされていなかった。本来なら、イーヴォは同志だ。しかし、機会を見て瘴気をばらまく種として起爆しろ、と言われていた。依頼主は敵味方関係なく、闘技場にいる者全員を殺すつもりだったのだろう。

 しかし、魔犬達の瘴気は拡散され、イーヴォのあれほどまで濃くした瘴気さえも薄められてしまった。

 気がつけば、魔犬さえもただの犬になっていた。あり得ないことだ。あの場にいる中でそんなことができる力を持つのは、シルヴァーノか、第二魔法騎士団の団長グイド、副団長ヴァレリオのいずれかだろう。特にヴァレリオは、自分と同期なのに副団長にまでなっている、目障りな存在だった。


 スドヴェストからの誘いは来なかった。現王に反対する派閥に捜査の手が入り、公爵も例外ではなかった。アルドを気にかけているどころではなくなっていたのだ。

 自分のことはまだばれてはいない。だが、いつ誰が裏切るか判らない。

 ほとぼりが冷めるまで大人しくしておいた方がいい、そう思いながらも、沸々とわく恨み。

 目障りな男を追い払いたくなった。


 第二魔法騎士団の女に魅了と身体操作の魔法を仕込んだ魔石を渡し、ヴァレリオを狙わせた。

 石を渡された者は魅了の魔法にかかり、石を渡した者は渡された者の命を奪うよう仕掛けた。よもや同じ団の、自分に好意を持つ女に心も命も奪われるとは思いもしないだろう。しかし、何の手違いか、石は別の者の手に渡った。だが、石を受け取る相手はヴァレリオの女だった。

 女を他の男にとられ、さらにその男に殺されたとなれば、いくら冷静と謳われた男でも取り乱すだろう。もの足りなくはあったが、そのまま計画を続行した。

 しかし、あの男は自分の女を守っただけでなく、仕掛けた術を翻した。あまりに見事な防御に、素早い連続攻撃。それも薄ら笑いを浮かべながら、だ。

 逃げる背中に剣を受け、凍らされながら、自分の敗北を悟った。



 数日後、アルドは魔力の根源を破壊する「杭打ち」の魔法を施され、生涯魔法を使えない身となった。最北の修道院へと送られ、三年間をそこで過ごした後、国外追放の処分となる。刑としては温情のある方だった。


 第二魔法騎士団の四人の女達は、三ヶ月間第三騎士団に配属になり、街の警備を担当することになった。

 はじめは屈辱的、と思っていたが、街の住人の暮らしに直結した警備はやり甲斐があり、ささやかな魔法にも感動され、直接受ける感謝の言葉は新鮮だった。

 また、第三騎士団員も、久々の女性隊員、しかも剣技はさほど強くなく、見るからに「かわいい」系の女性と一緒に街を警備することなど、今までなかった。

 当然、繕い物をはじめとした雑用を押しつけることもなく、むしろ上手におねだりをする女達に体よくこき使われていた。

 それはそれで問題がない訳でもないが、翌年以降の採用に当たり、これまで強さ一辺倒だった第三騎士団の配置には少々工夫が必要だと認識されることになった。


 強さこそが最大の正義と信じる第三騎士団長グレゴリオにとって、一撃で決まらないものは全てやっかいな問題でしかなく、近づく次の採用に向けて、ただ頭を悩ませていた。


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