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40 瘴気浄化の旅 10

 翌朝、聖女一行と護衛達は領主館を出て教会へ。教会に着いた後、樋口はハニー・ビーと翔馬を伴ってまた重症化した患者を癒やしに向かう。


 教会を出るときに、樋口がチラリと希と谷崎を見た事に気付いたハニー・ビーが首を傾げて問う。


「ばーちゃん、なんかあった?」

「ああ、なんかあったようなんだけどねぇ」


 樋口にも何があったのかまでは分かっていないのでそういう言い方になった。


「城で勉強したり訓練したりしていた時も、希ちゃんと華ちゃんはあんまり相性が良くないように思ったんだけどさ、昨日、浄化中に揉めたようでね。何で揉めたのかははっきり言わないもんで、さて、どうしようかねぇ」


「ほっとけば?ばーちゃんがどうにかすることじゃないでしょ」

「そりゃそうなんだけど、ガーラントさんじゃ何ともできないだろうしさ」

「ああ、ガーラントはそういうの無理そ」


 昨日と同じように教会の案内人が馬で先導し、ハニー・ビーが御す馬車が後に続く。近場から浄化していったので、今日は昨日よりも道のりがやや長い。


「ショーマにーさんは、ノゾミねーさんたち見ててどう?」

「あー、うん、確かにあんまり馬が合う感じじゃないなー。聖女が今の10倍いたら、別グループになってるだろうな」


 学校でも職場でも集団の中で馬が合う人間とグループになることは多い。グループそのものが性に合わなくてぼっちを選ぶ人間もいるが、希も谷崎もそういうタイプではないと翔馬は思っている。

 希は自分と同じような気性の人間と、ぶつかりながらも交友していくだろう。

 対して谷崎は、一人になることを避け、かといって積極的に他者と交流を持つことなく、なんとなく誰かといつも一緒に居る、という感じの人間にみえる。


「聖女のお仕事中はなんだからさ、城に戻ったらそれぞれとちょっと話を聞いてみるよ」

「おお、ショーマにーさんが、残念じゃない!」

「俺だって、やるときゃやる男だぜ!」

「あ、やっぱ、残念だった」


 胸を反らして片目をつむり、伸ばした右手の親指を立てた翔馬に「まだ、何もしてないじゃん」と一刀両断のハニー・ビーである。


 昨日は初めての浄化で慎重に癒やしていたためか、それでコツを掴んだためか、樋口は半日で22名の重症化患者の治療を完了した。午後にはさらに31名の患者を治した。


 異形化を発症した者は教会を頼りに街の中央部へ集っていて、重症化した者は家に帰ろうにも帰れない状況だった事が幸いし、あまり遠くに行く必要が無かったのでこの街での浄化はとりあえず完了という事になった。


「ばーちゃん、疲れてない?働き過ぎじゃない?魔力……じゃなかった神聖力、だっけ?それ、枯渇してない?魔力の枯渇ってヤバいんだよ。神聖力もそうだと思う。どっか、おかしいとこない?」


 ハニー・ビーは途中で何度も樋口に切り上げるように言ったが、樋口はそれに肯わなかった。自分の体はなんともない、神聖力とやらは使う度にまた溢れるように満ちてくる、産婆は時も所も構わずの仕事さね、赤ん坊はこっちの状況を判断して生まれてくるタイミングを選ぶわけじゃないからね。聖女だって似たようなもんだろうと自分の意思を通した。


 教会の案内人は感涙にむせび、出来ればこれからも聖女様付きになってお供したい、お役に立ちたいと訴える。人事はあたしの管轄じゃないけど、そう言ってもらえるのは嬉しいよと樋口は返した。



「今日は表立った問題はなさそうだね」

 教会に戻って様子を見た樋口が言う。


「たった五人の召喚された者たちなんだから、そりゃ、いがみ合いたくはないけどさ、馬が合わないもんは仕方ないやね。ぶつからないように上手く距離が取れりゃいいんだけど、一緒に居ればどうしたって目に入るからね」


「もともと聖女召喚で三人ってのがビックリ案件でしょ?今回のでみんな浄化が出来るって分かったんだから、サクサク進めるために三手に別れて回るとか出来るんじゃない?」


「ビーちゃんもそう思うかい?ガーラントさんに言ってみるかねぇ」


「ガーラントがそういう采配とれるかな?」


 人の心の機微には疎そうに思えてハニー・ビーが言うと、翔馬と樋口もうーんと唸った。二人もハニー・ビーと同じ見解らしい。


 ともあれ、ジャスターでの聖女のお仕事はいったん終了だ。


 異形化の原因となった湖は今後も要観察となり、異変が起こったらすぐに国に報告する手筈となっている。


 街の人の様子や聖女の浄化能力を鑑みると、あたしが護衛で来る必要はあったのかな――とハニー・ビーは思った。聖女を失う事は許されないと過保護になってるだけかな、と。


 護衛としての必要性はともかく、湖の様子を見てある懸念を持った魔女はあと数か所の確認は必要だが、瘴気発生の原因を自分なら突き止められると感じている。もう既にある程度の確信は持っているが、さて、あたしには関係に無い事――とノータッチを貫くのか、これも渡りかけた橋と口を出すのか、まだ心は決まっていない。


 そして翌日。


 たった二泊しただけのジャスターであったが、聖女の偉業は街中に知れ渡っており、帰りは大勢の人々が馬車を見送ろうと集まっていた。


 聖女コールは凄まじく、謙虚とされる恥ずかしがり屋の日本人である三人の聖女は馬車の中で小さくなっていたという。




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