39 瘴気浄化の旅 9
樋口が希と谷崎の不和に頭を悩ませていたころ、ハニー・ビーはアーティと対峙していた。
「で、見分は済んだのかな、アーティ隊長?」
「え?」
ハニー・ビーの質問に声をあげたのはトティだった。
「見分……って?」
「ああ、トティにーさんは聞いてないよね、うん、知ってた。ねえ、アーティ隊長?」
重ねて言われ、アーティは肩をすくめる。仕方ありませんねぇとでもいうように。
「見分と言われましても」
「吟味?試金?探り?査察?言い方は何でもいいけどさ、王様はあたしの事を買ってくれてんだか信用していないんだか」
不得要領のトティにハニー・ビーが説明する。
「騎士があたしにどういう態度をとるか、それに対してあたしがどう出るかを見てたんだよね?でもって、出来たらあたしがどういうタイプと仲良くなるか見極めたい感じ?」
タイプの違う三人の女騎士は、ハニー・ビーに対する試し。
ハニー・ビーはお世辞にも規律を重んじる者、目上の者に受けが良いタイプではない。
誰に対しても対等の口の利き方をするし、己に自信があってそれを隠さない傲岸な態度で、力が物を言い序列がはっきりとしている騎士には反発を買うのは必至。
しかも、まだ年若く見目麗しい細身の少女だ。外見だけで測れば、彼女を舐めてかかる騎士は多いだろう。
国王としてはハニー・ビーの力をランティス国の為に振るってほしい。魔女にその気が無いのは見て取れたが、対価を示した上に情に訴えれば何とかなると思われている。
だが、力自慢で自分に逆らうもの全て薙ぎ払うようでは使いどころが限られてしまう。
だが、おそらくこれに関しては問題なしとであることであろう。
自分に反発した女騎士を言葉であしらい、動きを封じただけで怪我も負わせていない。――本当に垂れ流しになるまで放置していたら、体はともかく心に再起不能なまでの大怪我を負わせていただろうが、幸いにもさじ加減は間違えなかったので、心に負ったのは多少の擦り傷くらいだろうとハニー・ビーは考える。
三人の女騎士がどう思っているかは別だが。
「合格?」
「あなたはこちらの考えを見透かすところがあるから気を付けるようにと陛下に言われていましたが……」
「いやいや、今回のはあからさまでしょーに。あの状況でアーティ隊長がノーリアクションって、普通に考えて有り得ないよね?」
確かに、とトティとメリアが頷く。
「ビーちゃん、怒んないの?勝手に試されてさ」
翔馬が不満そうに聞いた。
「いや、別に。ここまで露骨じゃなくても、だれだって相手がどんな人間だか見極めたいでしょ?」
「勝手に呼んで勝手に試して勝手に合否を決められて?何様だっつーの」
「いやいや、何様って、王様でしょ」
「……たしかに」
そっかー、王様だから俺様でもしょうがないのかーと、何故だか納得したような様子の翔馬に、残念勇者は単純で人がいいから権謀術数の世界には向かないなと思ったハニー・ビーである。
「つまり、私と先輩たちはハニー・ビー様の人となりを知るための駒だった……って事でしょうか、隊長」
「喧嘩を売るよう指示した覚えはない」
「そ……そりゃそうなんです、けど」
駒として使われること自体は問題ない。だが、ハニー・ビーがもっと苛烈な性格であったら、今頃二人の先輩の尊厳は木っ端みじんだったろうし、彼女の力が人の動きを縛るだけだとは思えないので、儚くなるのは命だったかもしれない。そうなったら、駒は駒でも捨て駒だ。捨て駒はあんまりだとメリアは思う。
「アーティ隊長のとこは直情的な人間が多いって言ってたけど、ほんと、そうだった。だいじょぶ、いきなり殺したりしないから、ね?遺恨も残さないしさ」
慰めてくれるのはハニー・ビー。何故に上司に腐されて、喧嘩を売られた被害者である彼女が加害者側の人間を案じてくれるのか。
「ハニー・ビー様……お優しい……女神」
「いや、あたしは魔女だし」
「女神で魔女、素敵……」
おそらく女神は人の行動を縛って、垂れ流しにさせるぞと脅したりしないだろうが、メリアの中で既にアレは正当な報復だということになっている。神は慈悲深いばかりじゃないのだ。
メリアはズズたちと違い、直接ハニー・ビーの力を身に受けた訳ではないので、恐怖心も少ないのかもしれない。
「第三騎士団の第二大隊だっけ?そこの面々は直情的な人間が多いって話だったけど、直情的っていうか……」
ハニー・ビーはそこで言葉を切って翔馬を見た。
「……単純?」
「酷いっ!ビーちゃん、何で俺を見て言うの!?」
「いや、なんとなく」
言わんとすることは明らかだったので、アーティは同感だというように頷き、分かっていないメリアは首を傾げたのであった。




