38 瘴気浄化の旅 8
それからこの近辺で重症化した者たち14名を浄化し、教会へと戻った一行は空気がギスギスしていることに気付き首をひねった。特に聖女二人の顔色が良くない。
「浄化が上手くいかなかった?」
翔馬が疑問の声をあげたが、周囲を見ると出発前には大勢いた異形化した人間は残っていない。浄化自体に問題は無かったのだとしたら、それ以外で問題が勃発したと考えられる。
「お疲れ様にございました。問題はございませんでしたか?」
樋口に歩み寄ってきたガーラントが労いの声を掛けた。
「ああ、こっちは問題なかったよ。教会の人も良くしてくれたし、今日回ったところは全て浄化完了だ。それより、こっちになんかあったのかい?」
「いえ、此方も問題なく浄化は完了いたしました。聖女ヒグチ様、お疲れでございましょう。本日はこれで終了ですので、領主の館に戻り、どうぞ休憩なさってください」
「問題なく……って感じじゃないけど、ま、浄化がすんだんなら良かったよ」
樋口はガーラントのエスコートで教会を後にする。それに続いて希と谷崎が、その後ろからトティと三人の女騎士が後を追う。ハニー・ビーと翔馬は最後尾だ。
「なんか、変だったよね?」
「だよねー。希ちゃんと谷崎さんの様子がおかしいし、騎士さん達は身の置き所が無い感じ?」
ハニー・ビーの耳打ちに翔馬が答えた。二人が原因を知るのは領主館に戻ってからの事となる。
◇◇◇
「樋口さん、明日の外回り、私と替わってもらえません?もしくは谷崎さんに外に出てもらうか」
領主館で聖女に割り当てられた居間に落ち着くなり希が言いだした。
「そりゃ、あたしが決めるこっちゃないやね。ガーラントさんに言ってみたらどうだい?」
「言いました!でも、ガーラントさんは樋口さんが重傷者にあたって、私と谷崎さんが教会だって言うんです。でも、内輪で融通することに決めれば問題ないと思いません?」
「いやいや、あたしには何とも言えないね。――いったい、どうしたんだい」
部屋の中では聖女三人、ドアの内側に護衛としてズズとアルヴァ、領主館のメイドが二人控えている。
翔馬とハニー・ビー、残りの騎士三人は護衛の為の控えの間だ。
希は苛立ちを隠さず今度は俯いている谷崎に向かって言う。
「どうしたもこうしたも……。ねえ谷崎さん、谷崎さんも私と別行動の方がいいと思わない?」
「……私は、あの、小山内さんがその方がいいと――思われるのでしたら」
希は谷崎の答えに更にムッとしたようだ。
「あのね、どうしてそう他人任せなの?言いたいことあるなら言ったらいいじゃない」
「――ない、です」
希に何を言われても谷崎は俯いて首を横に振るだけだ。
「私、自分でもイライラしているの分かってます。このまま谷崎さんと一緒に居ると彼女に辛く当たっちゃうから、ちょっと距離を置きたいんです」
「そりゃ、見てて分かるけどさ。ああ、確かに今はちょっと距離を置いた方がいいかもしれないね。あんたも頭を冷やす時間が必要なようだ」
「頭冷やしたいです、切実に」
「で、何があったんだい?」
「……フラストレーションが溜まってる状態で話すと、もっと怒りが沸きそう。なので落ち着くまでは無理かもです」
「そうかい。あんたはどうだい?」
「あの……私が悪いんです。私がダメだから……。小山内さんのせいじゃないんです」
「っ!だからっ!そういうところが――っ!……あー、すみません。今、ちょっと駄目みたいです」
希は立ち上がるとドアの前に立っているズズとアルヴァに片手拝みで「ちょっと頭を冷やすために散歩したいから、宜しくおねがいします」と声を掛ける。
聖女たちの様子をハラハラとしながら見守っていた二人は顔を見合わせて目で打ち合わせ、ズズが希の護衛に、アルヴァが部屋に残ることを決めた。
「お供させていただきます」
ドアを開けたズズが希と一緒に部屋を出て行ったあと、樋口は谷崎に事情を聞こうとするのだがどうにもうまくない。自分が悪いの一点張りだからだ。
どうしたもんかね。別に仲良しこよしする必要なんざないが、ギスギスした場にいるのもしんどいしねぇ……。
樋口は取り立ててどちらの味方と言う訳でなく、彼女らの保護者でも上司でもない。
たまたま「ランティスの聖女」という括りに纏まってはいるが、赤の他人だ。
縁あってこうして聖女業を一緒にやるんなら、慣れあわなくてもいいから表面上だけでも大人になって欲しいもんだ。
樋口はそう思うが、さて、どうなることやらと頭の痛い思いだった。




