襲来
その頃になると、俺達はロンドンの小さなクラブに進出し始めていた。
ある日、俺達がステージに上がる前に、DJがかけているレコードを聞いた。俺たちは衝撃を受けた。
頭に響く強烈な一撃。
シンガーの声には聞き覚えがある。
当時こんな歌い方が出来るやつは、世界に1人しかいなかった。
ロバート・プラント。
天空を切り裂くような。
ハイトーンのシャウト。
後に山程のクローンを産んだ。
しかし彼こそがオリジンだ。
俺はDJに訪ねた。
「今かけてるのは!?これヤードバーズの新しいレコードなのか?」
DJは首を振って答えた。
「いや、これはレッド・ツェッペリンという新しいバンドだ!」
もっと色々聞きたかった。
俺達は、これからステージに上がらなくてはならなかった。
鼓動が早鐘を打ち。
鳴り響き収まらない。
さっきのレコード。
あれは一体何なんだ。
頭から追い出す事が出来ない。
「集中しなくては」
他のメンバーを見る。
皆心ここに有らずだ。
胸が…ざわめく。俺だけじゃなく、メンバー全員。おそらくレコードを聞いた。イギリス中のミュージシャンがそうだったに違いない。
本当にヤードバーズじゃないのか?
俺は、あのバンドのシンガーを知ってるけど。彼は、レッド・ツェッペリンなんて…そんなバンド名は口にしなかったぜ。
「メンバーの名前を教えてくれ!」
そのDJは親切な男だった。バンドメンバー全員の名前を読んでくれた。
「ジミー・ペイジ、ジョン・ボーナム、ジョン・ポール・ジョーンズ…そしてロバート・プラントだ!」
ヤードバーズは過去の名前を捨て、レッド・ツェッペリンに名前を変えた。
「もう1度…頭からレッド・ツェッペリンのアルバムをかけてくれないか!」
DJは気軽に応じてくれた。
「俺も気にいってるんだ!」
「こいつらスゲエよな!」
スゲエなんてもんじゃなかった。
「ヘビィなブルースをやろうぜ」
元々俺達の専売特許じゃなかった。
R&Bはアメリカから海を渡ってやって来た。新しい音楽だったんだ。
当時英国のミュージシャンは、皆ブルースに魅せられ。傾倒していった。
でも、ブルースを究めたいと思えば思うだけ。英国人はコンプレックスを抱える事になった。
白人は黒人にはなれないからだ。
ましてブルースはアメリカ発祥。
どうしたら黒人のように歌えるか。
どうしたら黒人のように演奏出来るか。そればかり考えていた時代だ。
アメリカで生まれたジミ・ヘンドリックス。ブルースの世界では、彼は異端児だった。あまりに、その音楽のスタイルが自由奔放であったためだ。
本国ではほとんど無視されていた。世間からも注目されていなかった。
彼に注目して、彼をアメリカからイギリスに呼んだのは、イギリスのミュージシャンたちだった。
自費で彼を呼び。
目の前で演奏してもらった。
ジミ・ヘンドリックスの存在を知り。その人気に最初に火がついたのは英国だった。
ブルースというスタイルに囚われず。感情をそのままギターで表現する。
彼のギターは怒ったり笑ったり泣いたり吠えたりする。
「何をしていても、常に新しい曲が頭の中に流れている」
生前彼はインタビューに答えている。
「観客の前で演奏するのは、大きな喜びを自分に与えてくれる。ギターを弾くのが本当に好きだ。でも他のフレーズが次々浮かぶんだ。俺はそれも弾きたい。でも手は2本しかない…すると」
彼は、演奏中に指先が突然フリーズしてしまう事が多々あった。
彼はギターの弦に噛みついた。
歯でギターを弾いたんだ。
エリック・クラプトンは言った。
「冗談じゃねえ。あんなやつが出て来たら、俺達は失業しちまう!」
ジェフ・ベックは言った。
「予測がつかないんだ。ジミのギターを聞くと、暗闇で1撃くらった気分になる」
エリック・クラプトンが在籍していたクリーム。良いブルースと、良い演奏が入ったアルバムを何枚かリリースした。
けれど、彼らの本質はジミ・ヘンドリックスと同様ライブにあった。
大音響でブルースを鳴らす。
それも事前の打ち合わせなしで、
フリーフォームで演奏した。
感情の赴くままにだ。
1曲の演奏が25分を越えることはざらだった。レコーディングは単なる形式、作業、記録でしかない。
クリームは成功したが短命だった。
「ブルースをヘビィに演奏しようぜ」
誰もがそう口にした。
それが時代の扉を開く鍵だ。
誰もがそれは分かっていた。
どうやったらいい。
ジェフ・ベックはクラプトンが去った後加入した。ヤードバーズをヘビィなブルース・バンドに路線変更しようとしていた。
サウンド面での構想はあった。
バンドには、サポートメンバーとして雇ったメンバー。ジミーペイジとジョン・ポール・ジョーンズがいた。
ジェフ・ベックは、当時最も黒人に近い歌唱が出来ると言われたシンガー。ポール・ロジャースを獲得しようと試みた。しかし上手くいかなかった。
ジェフは失意のうちにバンドを去った。ヤード・バーズには、残された2人と、アルバム契約。ジェフの残した素晴らしいアイデアがあった。
そして、ジミーペイジはロバート・プラントと出会った。ロバートを獲得したら。友人のジョン・ボーナムまでついて来た。彼は間違いなく、20世紀最高のドラマーの1人だ。
ロバートは希代のシンガーだった。その歌唱スタイルはブルースとはかけ離れていた。それで良かった。
それが答えでもあった。
誰がどう歌うか。
それが重要だった。
リズム&ブルースをロックに加工しようと試み。ブルース・シンガーを加入させたら。ブルースに逆戻りしてしまう。
皆が気づいたのは、レッド・ツェッペリンのアルバムが発売された、
まさにその時だった。
ロバート・プラントは、レッド・ツェッペリンのアルバムの中で、トラディショナルなブルースナンバーも披露している。
しかし、まるでジゴロが誘惑するような。セクシーな声でブルースを歌った。
それまで、皆が崇拝してきたブルースを。見下ろすように、挑発的に。
ロックとはそうしたものだ。サウンド面も含め、当時のミュージシャンが思い描いた理想。レッド・ツェッペリンはデビューアルバム1枚で、全てやってしまった。
比類なき完成度。
桁外れのパワー。
「なんなんだ!?この分厚いギターの音は?」
俺がため息まじりに言うのを聞いていたのか。トニーが静かに言った。
「ギターを3…いや5本は重ねてレコーディングしてる」
「そんなの…ライブで再現出来るのか!?」
「やったもん勝ちさ」
「それに、たとえライブでギターが貧弱でも、このリズム隊がいれば問題ない!」
「ベースのアプローチが知的だな…曲に合わせて、指弾きとピックを使い分けてるな…俺の知らないテクニックでベースを弾くやつだ!」
ギークはベースの音を耳で追っている。
「スネアの音1発で、ドラマーの技量が、バスドラの音1つでパワーが分かる…このドラマーは、ビル・ブラッド・フォードの技術と、キース・ムーンのパワーを持ってる」
「そんなこと!言われてみて〜!認めなくないけど…こんだけ爆撃機みたいに叩いても…」
「音がいいな!」
「やはりこのベースだろ?こんだけ奔放に叩く、このドラムにしっかりついて行って音をまとめてる」
「間違いない、このベースがコンダクターだ」
トニーは、レモンソングのリフを知らず知らず口ずさんでいた。
「ギターは大したことないかもな」
トニー?
「でも、リフのアイデアが凄い!そして良い曲を書く。これだけのメンツが揃えば、充分だろ!」
「とにかくヘビィな音だ!」
俺が溜息ましまりに言う。
するとトニーが言った。
「心配するな」
「俺たちの方が、こいつらよりも、ずっとヘビィなバンドになるさ!」
トニーの凍結は溶けたようだ。
ちなみに、レッド・ツェッペリンとの契約。レコード会社が用意した契約金。
俺の窃盗の賠償金の500倍。




