スピンオフ第4話・二人は再会する
「店長! なんてことしてくれたんですか!」
「俺は機械に弱いんだよぉ!!」
おじさん店長と若い従業員が取っ組み合うのを、エミリは慌てて止めに入った。
「おっ、落ち着いてください! 強盗犯も一緒に閉じ込められているはずです。まずはお客様を安全な場所へ誘導しましょう! 警察には、今、連絡しましたから!」
店長はその場にへたり込み、咽び泣いた。
「ありがとう、女神〜」
*
一方、その頃。タカセとレインは──。
タカセが腕時計型端末を操作すると、目の前にホログラムが展開された。ほどなくして、イノウエとの通信がつながる。
『警官への通報と同時に、ラボにも応援要請が来たけど……現場にタカセがいるのね』
「たまたまだ。急に緊急施錠装置が作動してな。状況を把握したい」
通信越しに、キーボードを叩く音が聞こえてくる。
『通報内容は、強盗犯による窃盗。モール内の緊急施錠は、従業員が誤って施錠装置を作動させたみたいね……店内の防犯カメラを確認したわ。確保対象は三名。三階の非常扉前で立ち往生している』
「客がいる。奴らが散開して、人質を取る前に一気に確保する」
『お願いね』
タカセは通信を切ると、ホルスターに手をかけた。
「レイン」
「──俺、研究員なんだが……。分かったよ。最短で行くぞ」
二人は現場へ向かって走り出した。
*
──時は、エミリに戻る。
「みなさん、声を潜めて。こちらへ──」
店長と若い従業員の協力もあり、モール内の客たちは、それぞれ近くの店舗へと避難していた。
店内に身を潜めた女子高生たちが、声を潜めて話している。
「強盗犯とか怖いんだけど……」
「大丈夫だよ。タカセいたし。なんとかなるって。さっきもらったファンサお守りにしとこ」
「そうだね」
その会話を耳にして、エミリはふと瞬きをした。
(──タカセって、あの時のコード・リーパー……)
以前、夜の裏路地で遭遇した二人の姿が脳裏をよぎる。
そして、ふと。
(……もしかして、彼も一緒にいるのかな)
胸の奥が、ほんの少しだけ弾んだ。
けれど、すぐにエミリは小さく首を振る。
(だめだめ。今はそんなことを考えている場合じゃないわ)
気持ちを切り替えるように、エミリは店長へと向き直った。
「私、困っている人がいないか、少し見てきますね」
「女神、大丈夫? 危険だよ」
エミリは小さくガッツポーズを作った。
「大丈夫です。私、こういう時の運は強いですから」
「女神〜!!!」
*
人影のない店内は、しんと静まり返っていた。エミリは周囲を見回し、小さく息を吐く。
(大丈夫そう。あとは警察が来るまで……)
そう思った、その時。
どこからか、かすかな啜り泣きが聞こえた。
エミリは息を呑む。
音のする方へ目を向けると、店内の物陰から、かすかに泣き声が漏れていた。
意を決して覗き込む。
そこには、くまのぬいぐるみを抱えた小さな女の子がいた。
「……あら」
エミリがそっと近づくと、女の子は「ひっ」と小さな声を上げた。
エミリは人差し指を唇に当て、優しく微笑む。
「大丈夫。私は怖い人じゃないからね。……誰とはぐれちゃったのかな?」
その柔らかな声に、女の子の緊張が少しずつ解けていく。
「……お母さん」
「そっか。じゃあ、一緒に探そうね。その前に、ちょっとだけ隠れんぼ、頑張れる?」
「……うん!」
女の子が小さく頷いた、その時。向こう側から、複数の足音が近づいてきた。
エミリの心臓が跳ねる。
(──もし、あの強盗犯だったら……)
咄嗟に女の子を抱き寄せ、口元に指を当てる。二人で身を寄せ合い、息を潜めた。
やがて、足音がすぐ近くで止まる。
「──大丈夫ですか?」
聞き覚えのある声に、エミリはゆっくりと顔を上げた。
「あっ、あなたは……」
そこにいたのは、見覚えのある顔。
「……エミリか? 久しぶりだな──」
タカセだった。そして、彼の隣には。
「レイン……」
その名前を口にした瞬間、エミリの胸の奥がふわりと温かくなる。
〜〜♪ テンテテン♪ テ、テンテテン♪ テンテテン♪ テテ、テンテテン♪
「──これは、偶然、必然、運命……二人は、導かれるように再会したのであった……」
タカセが無意識に口走るのを、レインは無理やり遮った。
「おい、タカセ。ナレーションはやめろ」
「すまん、つい」
タカセは一つ咳払いをし、エミリに向き直った。
そして、彼女に抱きしめられている女の子を見るなり、わずかに表情を強張らせた。
「!? エミリ……お前、もしかして子持ちだったのか?」
思いがけない問いに、エミリは一瞬目を丸くする。
ちらりとレインの顔を窺い、慌てて首を振った。
「ち、違うよ! この子は迷子なの」
「そ、そうか……!」
(──良かったな、レイン。恋の旅路は安泰だ)
タカセは、ほっと胸を撫で下ろした。
そんな二人のやり取りを眺めて、レインはため息を吐いた。
「……エミリ、怪我はないか?」
「ええ。大丈夫……ありがとう」
エミリの柔らかな笑顔を見たレインは、ふいと視線を逸らした。耳まで真っ赤になっている。
その横顔を見つめながら、エミリの胸がきゅっと締めつけられた。
──どうしてだろう。
レインの姿を見て、ほっとした。
声をかけてもらえて、嬉しかった。
それなのに、今はただ、彼の顔を見ているだけで胸が落ち着かない。
「……?」
レインがこちらを向きかけ、エミリは慌てて目を伏せた。頬が熱い。
(──ぶっきらぼうさんなのに、優しいのよね)
あの時もそうだった。
言葉は少なくても、彼はいつだって、さりげなく気遣ってくれる。
──もっと、この人のことを知りたい。
ふと浮かんだ思いに、エミリは小さく瞬きをした。
(……あれ?)
自分の胸に芽生えた気持ちに、まだ名前をつけられないまま。エミリは、もう一度だけレインの横顔を盗み見た。
二人の様子を見守っていたタカセは、意を決したように口を開いた。
「俺は強盗犯を確保する。一人残らず、とっ捕まえる。なるだけ早くな。色々済ませて、色々進めよう。色々だ(棒読み)」
(──任せろ、レイン。俺はこの状況を打破してお前たちを後押しするからな……!)
三人の思いが交差する時、静寂は崩壊し、ショッピングモールは狂乱と純愛のラヴィリンスと化す!!!!
(つづく!!!!)




