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プロローグ


       夢か、うつつか



 子どもを産んでも、まともに育てられない親がいる。


 ──例えば、パンダの母親は双子を産んでも、片方しか育てないことがあるらしい。


 その話を聞いたとき、僕は思った。


 ああ、僕のお母さんみたいだな、と。


 お母さんは、双子の兄だけを愛していた。

 僕はいつも、裸でベランダに立たされていた。


 暗い夜。街路灯の明かりが、ぽつぽつと滲んでいた。


 兄は優しかった。


 ときどき僕と入れ替わって、温かい食事や服を分けてくれた。


 お母さんは気づかなかった。

 僕が兄でいられる間だけ、僕は人間だった。


 ──ある夜。


 眠るお母さんを見て、僕は思った。


 こんな人でも、生きているんだな、と。


 その夜のことは、よく覚えていない。


 ただ、兄が泣いていたこと。

 そして、僕にこう言ったこと。


「分かるよ──お前の気持ち、分かる」


 ああ。


 これが、対等なんだ。

 どちらかが上で、どちらかが下じゃない。


 心も、痛みも、分け合える。そんな絶対的な絆。


 だから、僕は思った。


 お母さんも、パンダも。哀れで、バカなんだ。



【continue…】

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