旅立ち。
春がやって来た。
毎年この時期に温泉街のお師匠さんの家に集まるのが恒例になっている。
目的はただ一つ。
お師匠さんと剣での勝負。
武虎さん、岩之助はもちろんだけど、佐之助さんもこのために毎日剣を振っているらしい。
僕も勿論だ。
あれから5年。
僕も毎日剣を振っている。
春風が硫黄の匂いを運んでくる。
温泉街が近い。
桜姉ちゃんは、岩之助とひと足先にお師匠さんのところへ行っている。
それには僕とは違う目的がある。
夏樹さんは、相変わらず。
新しい発明。
今度は風車に夢中で、夜も寝ないで部屋に閉じこもっている。
温泉街は、いつもの通り。
繁華街では、湯治の客たちがゆったりと歩いている。
僕は迷わず、夏凛さんの店を目指す。
「小太朗、やっと来た!」
元気な声は桜姉ちゃんだ。
大きく手を振っている。
その後ろには、岩之助。
店の中で、まだ首が座っていない赤ん坊を抱いた桜姉ちゃん。
これが桜姉ちゃんの目的だ。
奥から味噌の香りが漂って来ている。
「あんたも抱っこしてみる?」
僕は頷き、赤ん坊を恐る恐る抱っこする。
今にも壊れてしまいそうな、大切な宝物。
「小太朗、来たか。鍋の準備を手伝え。」
「お師匠さん。」
僕は桜姉ちゃんに赤ん坊を預け、台所へと向かう。
ちょうど鍋ができたところだ。
思わず腹がなる。
「育ち盛りだな。」
お師匠さんが笑う。
お師匠さんの鍋を桜姉ちゃん、岩之助と僕で囲む。
夏凛さんもやって来た。
赤ん坊は、夏凛さんが抱っこしている。
「この子の名前はもう決めたの?」
桜姉ちゃんの言葉に夏凛さんは頷く。
「若葉だ。」
お師匠さんが、にっこりしながら言う。
「この人ったら、男の子と女の子の名前を10個ずつ考えたのよ。」
夏凛さんは呆れ顔。
「まさか二人が結婚するなんて。」
岩之助が、皆が思っていた事を代弁する。
お師匠さんが、真っ赤になる。
こんなお師匠さんは、初めて見た。
お師匠さんは、手早く食べ終わると夏凛さんと交代。
若葉ちゃんを恐る恐る抱く、お師匠さん。
若葉ちゃんの小さな手が、お師匠さんの指をしっかりと握っている。
「おっさん、鼻の下が伸びてるわよ。早く変わって。」
桜姉ちゃんの言葉に、お師匠さんは苦笑い。
鍋を食べ終わった後、岩之助と僕は裏庭でお師匠さんと向き合う。
勿論木刀で。
岩之助さんは、桜姉ちゃんにいいところを見せようとして派手に打ち込むが、空振りの連発。
お師匠さんは、相変わらずの体捌きだ。
岩之助は、肩で大きく息をし降参する。
桜姉ちゃんは、笑いながらその様子を見守っている。
次は僕の番だ。
しばらく睨み合う。
お師匠さんの気に気圧されそうになるが、なんとか踏みとどまる。
二人の様子を夏凛さん、桜姉ちゃんと岩之助が見守る。
「免許皆伝。とは言わないが大分強くなったな。そこらへんにいるやつではまず敵わん。」
お師匠さんの言葉に僕は大きく息を吐き出す。
「お師匠さん、僕これから旅に出ます。」




