無駄にはしない。
次の日は、元祖!より少し多くの客がこちらに並んでいた。
しかし元祖!の男は余裕のある表情。桜はその余裕が引っかかる。
こうなったら、呼び込みの声の大きさでもっと差をつけようと思い、桜は喉が痛くなりそうなほどの声を張り上げる。
そこへ、中村佐之助がやってくる。
「いい匂いだな。だがお嬢ちゃん。この勝負お前達の負けだ。」
桜は言い返す。
「でもこっちが最初に始めたのに。」
「でももヘチマもねえ。許可があるか、ないかだ。」
中村は小太朗と桜を順番に見る。
「向こうは正規の許可を取ってる。お前達は許可なく営業している。」
中村は軽く息を吐き出す。
小太朗は震える拳を握りしめる。
「上に話が上がっている。…ここで終いだ。」
うなだれる小太朗と桜。
片付けを始めた。二人に雲海が声をかける。
「お前達の目的は何だ。屋台で食ってくつもりか?」
小太朗は首を振る。
「僕は一人前の男になって、お師匠さんに守られなくても大丈夫になりたい。」
桜も答える。
「私は兄の代わりに世間を見てくる旅だ。」
雲海は頷く。
「よし、わかった。後のことはわしに任せて宿に戻っておけ。鍋のやつの看病でもしてな。」
二人は、トボトボと宿に戻る。
言葉少なく、二人で夕餉を囲む。
そこへ坊主が顔を出す。
満面の笑顔で、二人の前に巾着を突き出す。
思わず受け取った小太朗はその重さにびっくりする。
「雲海さん、これって…。」
路銀が必要なんだろ。」
桜は頷く。
「お前達の2度焼きの方法を元祖!の奴に売ってきた。」
驚く二人。
「どのみち、すぐに見抜かれる。」
雲海は、目の前のお茶を飲み干す。
「だったら、売れるうちに売っちまった方がいいだろ。」
二人の顔を順番に見ながらも雲海は続ける。
「これは路銀の足しにしてくれ。」
唖然とする二人。
「もちろん、わしの取り分は貰ってる。心配しなくていいぞ。」
小太朗は巾着を見つめながら、口を開いた。
「…それ、僕達のやり方ですよね。」
雲海は頷き、お茶を飲み干す。
「だから、無駄にはしない。」
囲炉裏の火が、三人の影を揺らした。




