遅れてくる足音。
さっきまでの静かさが嘘のようだ。
行列の客からはひっきりなしに注文が入る。
小太朗一人では焼きが間に合わない。
侍もおにぎりを焼き始める。
焼き上がったおにぎりを桜が客に渡し、お代を貰う。
おにぎりを食べた客達は、笑顔になる。
「美味い!」
「ドジョウと味噌がたまんないねえ。」
「絶妙な焼き加減だな!」
行列は一向に途切れる気配がない。
小太朗の額に汗が光る。
桜は声が枯れるほど大声で
「ありがとうございます!」
笑顔で対応をしている。
侍は残りの食材の具合を確かめ、火加減を見ながらどんどんおにぎりを焼いて行く。
三人とも、周りを気にする余裕はない。
この様子を坊主は満足そうに眺めている。
遠くから、建物に隠れるようにして侍を見つめている男がいた。腰には十手。
「彼奴、生きてやがったんだな。」
ニヤリと笑い、顎をさすりながらその男は裏道へと姿を消していった。
気がつけば準備していた食材が底をついている。
並んでいた客達に三人で頭を下げる。
「明日も来てくださいね。」
桜の言葉に客達は渋々頷き、散って行く。
片付けを始めた小太朗達の元へ、坊主が満面の笑顔でやってくる。
「なかなかの繁盛だったな。」
坊主の頭の中で算盤がなっているようだ。
桜は売り上げから決まった分を坊主に渡す。
「明日も頑張れよ!」
坊主は踊り出しそうな足取りで、夕方の街へと消えていった。
片付けがひと段落したところで、侍が口を開く。
「小太朗、少し匂うぞ。」
「お師匠さんだって!」
「桜お姉ちゃんは、いい匂いがする。」
「私にこんな鼻垂れ小僧の弟なんていませーん。」
桜が顔を赤くしてムキになる。
「鼻垂れじゃないもん!」
小太朗もふくれっ面になる。
二人の様子を見ていた侍が、ふと遠くへ目をやる。
「まだ夕方だから、銭湯に行こう。」
桜が言う。
三人は肩を並べ、軽やかな足取りで銭湯へと向かう。
…夕闇に紛れて、背後に一つの足音が。
少し遅れてついていく。




