Lv31 ▼不穏な予感
レオン様を避けるのをやめてから、少しだけ穏やかな日々が戻ってきた。次期聖女の選考があるので、以前のように二人きりで話をする機会は減ったけれど、たまにお昼ご飯をみんなで食べられるようになっただけでも満足。
サラちゃんとレオン様が二人で歩いているのを見るとやっぱり羨ましく思ってしまう。だから、そんなときはメッセージカードを見返すようにしている。
レオン様が私にくれた宝物。好きという感情を自覚してからは、さらに美しいもののように見える。
恋をするって苦しいだけではなくて、目の前がきらきらして見える瞬間もあるんだなあ。初めてのことばかりで戸惑っちゃう。
でも、レオン様は次期国王として忙しく頑張っているんだから、恋愛は置いといて私も頑張らないと! まずは堂々とレオン様の隣に立てる令嬢にならなければ!
そんなふうに自分を励ましつつ、私は勉学やら淑女マナーの復習やら筋トレやらにいそしんでいた。やっぱり筋肉はつかないけれど、まだまだ諦めずに頑張っている。
サラちゃんも一生懸命勉強しているようで、今やどちらが次期聖女に選ばれるかわからない状況になっているらしい。
とはいっても、最終的に次期聖女を決めるのは現在の聖女様なので、外野がどうこう言えるものではない。私はただ、聖女様に認めてもらえるように日々の振る舞いに気をつけることしかできない。
でもいつどこで見られているかわからないのって少し怖いよねえ。ずっと抜き打ちテストされているようなものだもん!
そんなことを考えながら、私は今サラちゃんと一緒に食堂へと向かっている。今日はレオン様とザッくんとお昼ご飯を食べるのだ。
「見て。ルーナ様とサラさんだわ」
「次期聖女はやはりルー……かしら」
「そうね、やはり……ですから」
どこかから、私たちの噂話をする声が聞こえる。最近は他の生徒たちがする噂話が、以前の比ではない程聞こえてくるようになった。しかもひそひそ話ですらなく、大々的に。サラちゃんと二人で廊下を歩くだけでも、彼らの話題に上がってしまうのが現状だ。私だけが遠巻きに見られるのは慣れているのでいいのだけれど、こちらに聞こえるように言われているとなると複雑な気分になってしまう。
今回は話の内容までは聞こえなかったのでまだよかった。でも、サラちゃんも自分の話題だって気づいちゃっているかな。
心配になってちらりと横を見ると、サラちゃんは眉を寄せて険しい表情を浮かべていた。
やっぱり陰で色々と言われるのは嫌だよね。急いでレオン様達の元へ向かおう。流石に王族を前にして噂話をする人はいないだろうから。
「サラちゃん、食堂の席が埋まってしまう前に行きましょう!」
「……そうね」
少し沈んだ声でサラちゃんが返事をする。もう少し、周りが私たちをそっとしておいてくれるといいなあ。レオン様たちのところへ着いたときには元の可愛いサラちゃんに戻っていたから安心したけれど。でも、お友達がライバルっていうのも結構難しいね。
「やあ、ルナ。午前の授業はどうだった?」
恋愛フィルターがかかっているせいか、いつも以上にきらきらしいレオン様がにこやかに声をかけてくれる。その笑顔にきゅうっと心臓が縮む感覚を覚えながらも、私も努めて笑顔で応じた。
「今日の特別授業は現在の聖女様についてのお話が多かったので、とても有意義な時間でした!」
次期聖女候補と勇者である私とサラちゃん、ザッくんは、ここ最近、三人だけの特別授業ばかり受けるようになっていた。次期聖女の選考が近づいてきているから最後の追い込みということなんだろうけれど。でも、そこでは憧れの聖女についての歴史や逸話が聞けるから、聖女オタクの私にとっては本当に幸せな時間なんですよ!!
「俺は座学苦手だからちょっとしんどいかなあ。それより剣技がやりたい……」
ザッくんに座学は少し退屈みたい。勇者との相性も選考内容に関わっているとはいえ、他のクラスメイトと一緒に授業を受けられないのはつらいよね。それでも私とサラちゃんを心配してか、いつも特別授業について来てくれるザッくんは、本当にいい子だ。
「レオン様もいつもお忙しそうで大変なのに、ずっと首席だなんてすごいです!」
サラちゃんがそう褒めると、キラキラスマイルで「そんなことないよ」とサラッと答えるレオン様。いやいや、あなたの努力は半端ないですよ? いつも陰で一生懸命努力しているところも好きなポイントの一つなんだけれどね。
「よろしければ私もレオン様にお勉強を教えてもらいたいなあ、なんて!」
「いや、お前そこそこ勉強できるだろ」
「…………」
サラちゃんの提案にザッくんがツッコんだ。その言葉にサラちゃんはグッと押し黙る。
うん、たしかにサラちゃんはお勉強ができる。それでも教えを乞うなんて、向上心が高い証拠だ。でも、レオン様に教えてもらうとなると、ただでさえ激務なレオン様が過労で倒れてしまわないか心配だなあ。
「レオン様は多忙ですから、今度一緒に先生の元へ教えてもらいに行きましょう!」
「そういうことじゃなくってえ」
「そうだね、私よりも教師陣の方が適切な指導をしてくれると思うよ」
「だってさ、諦めろ」
「じゃっ、じゃあ! 先生も交えてみんなでお勉強会なんてどうですかあ?」
「サラちゃん! それは名案ですね!!」
四人でとりとめのない話をしながら席につく。昼食をとりながら、次期聖女が正式に決まっても変わらずにいられたらいいのになあなんて思ってしまう。やっぱり私は考えが甘いのかな。
同じ日常が永遠に繰り返されることなんてあるわけないというのに。
日常が崩れてしまうときは、刻一刻と迫っていた。
*****
神殿の一室。白一色の空間で、ヴェールを被った老女がなにやら深く考え込んでいる。
それを取り囲むように数人の神官が立ち並ぶ。
「聖女様……ご決断を!」
「一刻を争う事態なのです! 聖女様!!」
「聖女様!!」
聖女と呼ばれたその老女は、元は柔和であろう顔を険しく変化させ、なにかを決めあぐねている。
――聖女。そう呼ばれ崇められてきた彼女達には、代々『聖女の秘術』というものが受け継がれている。その秘術の中の一つ、それは未来を視る力、即ち未来予知の能力であった。
それはこの老女も例外ではなく、彼女はその未来予知によって、重大な決断を迫られていた。
老女が生きてきた長い人生の中でも、ここまで大きな事柄は初めてのことで、彼女は神官たちに答えを急かされながらも、慎重に決断しようとしている。
「今は次期聖女の選定の時期でもあります! 今ならまだ間に合うかもしれないのですよ、聖女様!!」
一人の神官が発した言葉に、老女はハッとしたように目を見開き、すうと息を吸い込むと、覚悟を決めたように顔を上げた。
「……わかりました。では、聖女として宣言します。私たちは、我らが神、創造神様の意思に背きましょう。こうしなければ、世界は滅んでしまうのですから」
次回は幕間です。
もうすぐクライマックスに突入いたしますので、ぜひ最後までお付き合いください!




