Lv30 ▼乙女の宣誓
あれから、ザッくんは私が落ち着くまで待っていてくれた。そして二人で話して、今はまだレオン様への恋心は、ザッくんと私だけの秘密と言うことになった。
立場としては正式な婚約者なので、恋愛感情を抱いていてもなんも問題はないのだけれど、レオン様から同じ気持ちが返ってこなかったときに受けるショックの大きさを考えると、まだ打ち明ける勇気はない。この九年間で築き上げた関係を簡単に崩したくないというのも理由の一つだ。あとは、初めて自覚した恋心というものをまだ上手く消化できていないというのもある。
多分、前世でも恋愛してこなかったんだろうな、私。知識としては知っていたはずなのに、ザッくんに教えてもらうまで自覚すらできなかったんだから。ということは、これは初恋かあ。大丈夫かな、初恋は実らないとか誰かが言ってなかったっけ。
いやいやいや、後ろ向きになってはダメです、ルーナ! とりあえず、レオン様とサラちゃんが二人でいるときにモヤモヤする理由が恋によるやきもちだと判明したのだから、レオン様を避けることは止めければ! 好きなのに避けていたら、せっかく一緒に過ごせる時間が減ってしまうもん! それは一人の乙女として断固拒否したい!!
ひとまず、最近の大きな悩みが解決されたので、少しだけ安心できる。恋する気持ちも大切。でもまずは聖女になるという目の前にある夢を叶えなければ! 筋トレの謎はまだ解けていないけれど、次期聖女に選ばれるためには、もう一度魔法の特訓をして、今まで学んだ知識やマナーは絶対に忘れないようにしなければならない。何事も油断大敵なのだ。
あ、それならアンさんとガモンさんに今までの復習をしてもらえるように頼んでみよう。『もう教えられることはほとんどない』って言われているとはいえ、復習はまた別なはず。それに、ほとんどということは全てではないもんね!
「ルーちゃん、ちょっと元気になったな? よかったよかったー」
私が志新たに闘志を燃やしていると、ザッくんが嬉しそうに声をかけてくれた。ザッくんには、たくさん心配かけたよね。本当に私は、いい友達に恵まれた。
「はいっ! ありがとうございます、ザッくん!!」
「いえいえ。ルーちゃんのためならいくらでも! (……それに、これでレオに貸しが一つできたからな)」
「なにか言いました?」
「んーん、なあんにも!」
「ふふ、なんですかそれー、変なザッくん!」
私は久しぶりに声を上げて笑った気がした。恋の病が、いつも能天気な私からさえも笑顔を奪うくらいに重いものだったとは……なーんて、そんな冗談は置いておいて。私をまた笑わせてくれたザッくんのために、私ができることならなんでもしようとこっそりと心に誓った。
*****
「れ、レオン様!」
「ルナ!?」
その日の放課後。廊下でレオン様を見つけた私は、思い切って声をかけてみることにした。レオン様は、私が今まで無意識に避けていたこともあり、目を大きく見開いて小声で私の名前を呼ぶ。
恋心を自覚するまでは気づかなかったけれど、私はレオン様の「ルナ」という響きにめっぽう弱いみたい。ちゃんと目を合わせて名前を呼ばれたことが遠い昔のことのように思えて、またこうして正面から顔を見られたことが嬉しくて、私は上半身に熱が集まってくるのを感じた。
心配そうに私の顔を覗き込むレオン様に、真っ赤に染まっているであろう自分の顔を見られるのが恥ずかしくて、つい手で覆いたくなるのをグッとこらえ、私はまっすぐその瑠璃の瞳をみつめた。
「どうしたんだい? なにか急用が」
「はい。大事なお話です」
「……っ! な、なにかな?」
私の言葉にレオン様が身構える。
えっと、レオン様にとってはそんなに大事な話ではないかもしれないのですけれども。ううん。私にとってはとても大切な決意表明だ。レオン様にもしっかり聞いてもらいたい。少し強気なくらいでいかなければ。
「あの!」
「うん」
「明日からまた、レオン様と昼食をご一緒してもよろしいですか? その、レオン様と少しでも長く過ごしたいのです」
背をぐんと伸ばして、つま先立ちをしてレオン様の耳元に口を寄せる。今はまだ、周りに聞こえるくらい声を大にして告げることはできないし、直接的に好意を伝えることもできない。でも、これでレオン様を嫌っていないのだということだけは伝わってほしいなと思う。
「嫌でしょうか?」
「……っ!!」
なかなか返事がないことに不安になった私は、おずおずと問うてみる。あ、訊いたことを後悔してきた。これで「嫌だ」と言われてしまったらもう立ち直れない。
不安がつのり、少し泣きそうな私の顔を見て、レオン様はぐっと呻き声を上げてから思い切り後ろに仰け反った。
え、そんなに嫌なの!?
本格的に泣き出しそうになった私に、レオン様はふるふると頭を振ると、顔を背けた。
「嫌なわけないじゃないかっ!」
その言葉に私はパッと顔をほころばせる。だってこの震える声は、完璧な王太子殿下の仮面を被ったレオン様のものではない。かつて私にこっそりと胸の内を明かしてくれた、一人の少年と同じ声だったから。
「う、嬉しいですっ! あの、あ、明日からまたよろしくお願いします!!」
私は一気に押し寄せてきた安堵と喜びと羞恥心に我慢ができなくなり、それだけ告げるとレオン様の元から走り去った。廊下の隅っこで起こった出来事だったので、周囲の人たちには私たちが話していたことすら気づかれていないだろう。そのことにそっと胸を撫で下ろしつつ、それ以上に心を満たす幸福感にひたりながら帰路についた。
一人残されたレオン様の顔を見る余裕なんて、そのときの私にはなかったのだった。
*****
自室に戻って、レオン様からもらったメッセージカードを開く。いつ見ても繊細な装飾と聖女様の美しさが眩しくて、飽きることがない。なにより、気持ちを自覚した今、好きな人からこんなに素敵なプレゼントを貰えたということが本当に嬉しかった。
「はあああ」
深く息を吐いてみた。この胸いっぱいの気持ちを落ち着ける方法が思いつかなくてやってみたけれど、やっぱり楽になることはなく、私は嬉しすぎて苦しいという初めての感情に翻弄されることになった。
明日も投稿します!
よろしくお願いいたします!!




