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「さて、死者はそんな感じだけどアンデッドは他にもいるよ」
「どんなのっすか?」
「先ほど話した死者は実体を残すアンデッド。だから物理的に殺す、破壊することがまだ可能なアンデッドだ。だけど、アンデッドには実体を持たないアンデッドもいる。幽霊、悪霊、そう呼ばれるような霊体のアンデッドだね」
「ゆ、幽霊っすか……」
「ゴーストの類だな」
アンデッドでも実体を伴わない霊体の存在……物理的なアンデッドであれば、まだこの世の摂理にギリギリ従っているようにも感じられるが、それ以上に物理的な存在ではない、実体を持たない特殊なアンデッドである霊の類はまさに魔物、この世の摂理に従わぬ存在と言えるだろう。
「特に霊系統は倒すことに難儀する存在だよ。何故なら物理的に殺すことができないから。君は物理的に殺すことができない、攻撃が通じない相手を倒せるかい?」
「………………ちょっと無理っすね。師匠はどうっすか?」
「ゴーストは魔法で倒せる。物理的に剣などでは倒せないが、何故か魔法は効くんだ」
「ええ……そんなあっさり」
幽霊など、実体を伴わない霊系統のアンデッドは魔法で倒すのがこの世界では定石である。なぜ霊系統のアンデッドは魔法で倒せるのかその点に関しての理解は進んでいないが、一つ可能性としてアンデッドは一種の魔法的な存在である可能性がある、だろうか。魔法であるアンデッドを魔法によって上書きする。あるいは魔法によって弾き飛ばす、吹き飛ばす。物理的に存在しないアンデッドでも同じ位置に属する性質の力ならばどうにかできる。これに関してはアンデッド同士、霊系統のアンデッド同士であれば普通に戦うことができる点もあって可能性が高いされている。
ただ、魔法が霊系統と同じ力に位置するのかと言われれば疑問は多い。そこは魔法が本来この世界には起こり得ていない現象を起こす干渉の力であるからか、などとみられることもある。
「そう、だから霊系統のアンデッドが出た場合は魔法使いが出動することもあるよ。まあ、魔法が使えればそれでいいから普通に魔法が使える冒険者に頼むことの方が多いだろうけどね。あと、同じ霊のアンデッドなら対抗できる。霊系統のアンデッドも実体を持つ死者と同じで話せるアンデッドは多い。こちらは物理的な害を伴わないということもあって死者よりも比較的安全性は高い。まあ、当然ながらアンデッドは魔物、死者よりも害は少ないと言っても霊系統のアンデッドに害がないわけじゃない」
「……どういうことっすか?」
「霊系統のアンデッドには同じ力、つまり霊系統でなければ攻撃できない……これは抵抗できないということでもある。物理的な攻撃が通用しないのなら、物理的な防御も通用しないということだ」
「でも、別に危険じゃないっすよね?」
「確かに霊系統のアンデッドの攻撃は肉体にはダメージを与えない。物理攻撃が通用しないということは物理的に存在しないということ、それはこちらにとっても問題だが向こうにとっても問題だ。だけど、逆に言えば、物理的な部分でないならば攻撃が通用するということになる。霊的な攻撃がね?」
「霊的な攻撃……」
「物理的な攻撃ではない。直接体の内側に触られるようなものだ。抵抗のしようがない。同じ霊的な部分で抵抗するしかないわけだが、僕ら人間はアンデッドと違いその力を認識していない。つまり相手の一方的な攻撃になってしまう。霊的なアンデッドの厄介さはそこなんだよ」
物理的に攻撃が通用せず、相手の攻撃はこちらの物理的な防御に阻まれず一方的な攻撃を受ける。霊系統なアンデッドはそういった点で極めて厄介となる。ただ、その分倒しやすさという点では死者よりも比較的倒しやすいという特徴が霊系統のアンデッドにはある。
「ただ、その分霊系統のアンデッドは消滅しやすい。物理的な防御、肉体はある種の檻であり、ある種の守りだ。霊系統のアンデッドは日の光に弱く、昼間に表に出てこようとすれば消滅の危険がある。ここはアンデッドの力次第ではあるんだけどね。だから人間に憑いて昼間は隠れていたりすることがあるし、日中の目撃証言は少ない。まあ、中には理性を失って暴れまくって勝手に消えてしまったりするアンデッドもいるけど」
「それでも厄介は厄介だけどな。肉体を持たないがゆえに、肉体の枷にとらわれない」
「増殖、感染、吸収……呼び方は様々だけど、増えるんだよね霊系統は……それが厄介な点の一つでもあるね」
霊系統のアンデッドは物理的に存在する死者よりもはるかに増える可能性が高い。相手の霊体に直接触れ、抜き出し、浸食する。あるいは相手の霊体を取り出し食らい、己の物とする。ただ、増えるよりは吸収される可能性の方が高い。そうして霊系統のアンデッドは強力になっていく。
「さて、霊系統に関してはそれでいいとして。これらはアンデッドとしても普通の生物からの派生として一般的なアンデッドだ。両方とも死んだ結果であり、そこから生まれた物理的な存在と物理的でない存在のアンデッドということになる。だが、厳密に言えばアンデッドというのかはわからないがそれとは別のタイプのアンデッドも世の中にいる」
「……どんなものっすか?」
「アンデッドは死んだ存在だが、これに関しては何故か不死と呼ばれている。三つ目のアンデッド、アンデッドとも呼びにくい特殊なアンデッドだ」
「不死ねえ。どんなものなの?」
「一番有名なのはヴァンパイアだな」
「うえええっ!? ヴァンパイアっすか!?」
「吸血鬼は確かに不死者と呼ばれることも多いけど、アンデッドかどうかは論議の的なのよね」
「まあ、厳密に彼らをアンデットと呼んでいいのかはわからないけどね。死者が成り果てる存在、元々の人物の連続性。そういった点を考えるとアンデッドと呼んでもいいだろう。でも、問題は死者とはまた違う点も多い。アンデッドは死者のように死んでいる存在とは言いにくい」
「傷を負わせても回復する点とかか」
「食事もとるしね。アンデッドと違って何かを食べて生きる性質が強い存在も多い……死んでただ身体だけ、意思だけが残り活動するのと違って生きているような振る舞いが多すぎる。だからアンデッドと呼んでいいのかが疑問視されている。まあ、不死はその強さゆえに出会う機会は少ない」
「ヴァンパイアは眷属という形で増殖の危険があるから比較的出会いやすいけどな」
「そうだね……そういえば彼らをアンデッドと呼ぶ原因の一つが日の光に弱いことか。これが霊系統と近しいからこそアンデッドという声もある。いろいろとこの辺はまだ明確な判断もされてないあいまいな部分、複雑化してる部分だよ。まあ、僕にはあまり関係のない話だけどね」
「ここまで全部アルディーノが話していったことなのよね……別に私やロムニルは特に興味もないことだけど」
「それなのに覚えてるっすね……」
「友人の研究内容くらい覚えてないとね。まあ、こんなことは研究ですらない可能性もあるけど」
彼ら魔物研究者にとってはこのくらいの話はただの雑学、あるいは一般的な知識に類する内容である……可能性すら有り得るというくらいの基礎的な部分である。それこそ研究者が深く突っ込む部分には抵触しないものだ。本気で研究するならアンデッドの発生要因、感染原因、霊体の性質やなぜ魔法が通用するのかの原因要因、不死に関しては捕まえて解剖しながら色々実験してその反応を調べたり内臓や脳を死なない程度に調べ回復、精神へのダメージの調査など様々な事柄が出てくる。ロムニルが話したことは研究するうえで知って置いたら便利、あるいは流布しておいた方が都合がいいくらいの簡単な知識である。
「さて、これらはアンデッドの種類。しかし、アンデッドの厄介さ、問題の一つはアンデッド自身だけにある問題じゃないんだよね」
「……まだなにかあるっすか」
アンデッドの話で盛り上がる。まあ、ロムニルが一方的に話しているだけなのだが。その中でアンデッドの発生要因……話の最終局面へと近づいていく。いや、そもそもロムニルが退屈しのぎに近い蘊蓄として話し始めたことなのだが。まあ、冒険者であるフーマルを含め彼らにとっても興味をひかれるような面白い話、ということなのだろう。実際いろいろな意味で役に立つものではあるはずだ。
※霊体系アンデッド。魔法など物理的でない特殊な攻撃しか通用しない無敵性の高い相手。今回の章のメイン敵。
※魔法はこの世界に魔力によって現象を引き起こす力……しかしなぜそうできるのか、という点に関しては魔法は世界への干渉、魔力による干渉作用である……という推測。
※霊体のアンデッドは防御力が低いので消えやすい。死者、肉体を持つアンデッドよりも見かけることは低い。その代わり規模が大きくなると倒しにくくなることが多い。物理的にどうにもできない相手ゆえに。自然消滅の可能性は逆に高くなるが。
※不死のアンデッド。ヴァンパイアとか。死人のくせに死人らしい様子を見せない。普通に食事や排泄をして傷が治ったり寿命で死んだり子供を作ったりする。お前ら本当に死人から成った魔物か。




