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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
二章 魔法使い
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「風よ彼の者たちに入りその内から破壊せよ、イントルードブレス」


 風の魔法。動きを止められた魔物達の口に風が行き、その内へ内へと空気が流入していく。生物の肺は呼吸に使われるものだが、吸い込み続けるにも限度がある。空気が入り込む一方で外に出ていく空気がなければ、それはつまりいずれ許容量を突破することになる。ロムニルの使う魔法は位置を指定しての発動になる。通常ならば抵抗しやすいというか、回避がとても容易な魔法だが今回はアルディーノが相手の動きを止めているため、問題なく使用できる。


「……即殺できる魔法ではないが、少しえぐいな」

「確かにね。でもあまり使い道のある魔法じゃないね」


 アルディーノはすぐに欠点を見抜く。簡単に相手の口から入り呼吸を奪い肺を内側から破壊するような魔法が普通に使えるわけがない。詠唱では指定した者に入り込むようなものだが動かない相手にしか使えない性質はすぐにわかる。実際顔の位置をずらし回避している魔物もいる。


「位置の指定か。相手の口に勝手に入り込むようにはできないのか?」

「追尾性は意外と面倒なんだよね。性質を増やせば増やすほど魔力の消費も大きいし、イメージ力が必要になる。詠唱も手間だし、この魔法自体は悪くないだろう……性能の問題とその内容を考えなければ」

「しかし、周囲に被害を与えず倒す分には悪くないのか」

「相手の内側から破壊して殺す魔法だから確かにそういう点ではいいね。対象が自分が認識して指定した生物のみ、無差別でないのも悪くない」


 色々と問題のある、内容的には評判のよくなさそうな魔法であるが対象を限定し効果的に使えるという点では悪くないだろう。とはいっても、やはり限定的な状況下でなければ使えないのは汎用性としてはマイナスだが。まあ、今回魔物に使うからこその使用だろう。人間を相手に使う魔法としては流石に内容が問題視される。もっとも人間相手では動きを止めづらいので使いにくそうだが。


「まったく……散々に言ってくれる」

「あら、でも使いづらいのは事実だと思うわ」

「……リーリェ。だったらリーリェはどのような魔法を使うつもりだ? 人のことを言うのならば自分はどれほどのものを使える?」

「ふふ、そうね……あまり人のことは言えないわね。じゃあ、残っているのを始末しましょう。土よ踏みしめしものの足を噛め、アースバイト」


 土が残っている魔物の足に噛みつき、怪我を負わせる。アルディーノの使った土の魔法がリーリェの魔法と干渉したのか、そちらが無効化されリーリェの魔法が優先された状態になる。とはいえ、土に噛みつかれて動けなくなったので動けないことには変わりがない。


「水よ、血よ、命ある者から流れ出る血潮を抜き出し押し出し排出せよ」


 詠唱はあるが呪文のない魔法は魔法としての完成度が低い……と魔法使いの中では認識されている。呪文まで含め、魔法として完全な形になって完成されたと考えられるからだ。実際リーリェの使ったその魔法は完成度としては足りていないだろう。だが、逆に完成させていないからこそ使えるものでもある。この魔法は使い続けることで維持される魔法となっている。一度使えばそこで終わりではなく、イメージを維持し、魔法を維持し、そうして発動する魔法。魔力の継続的消費が厄介になるが、それを考慮しても十分使える魔法である……かはわからない。

 しかし、その効果は大きい。詠唱の通り、生命から血を抜き出す魔法である。生命体に流れる血が失われればその生命の行きつく先は死。本来生命の内にある血に対する干渉は相手の意思がある状態ではできないか、できてもほとんど操作できないものだが、外に流れ出る血を用い、更に水を使うことで無理やり押し出させるのがこの魔法。一度の干渉ではなく、干渉した部分から魔力を流し続けることによって作用させる。


「ふう…………」

「性能としては悪くないが、使いづらいのは同じようなものだな……」

「魔力の消費が半端ない感じだね。というか、ずっと使い続けなければいけないのは面倒くさくないかい?」

「詠唱だけで呪文は使ってないんだな。そちらの魔法使いの使う魔法としては珍しい……」

「そういえばそうか。未完成の魔法……いや、未完成だからこそ使い続けられるのかな?」

「発動して終わり、ではなく維持し続けるからこそ完成されている魔法か。面白いな、リーリェ」

「…………あまり使い道はないのよね。結局ロムニルの使った魔法と同じで限定的な状況、相手でなければ使えない魔法だもの」

「まあ、相手の血に干渉するものだとそうなるね」

「怪我、傷が必須か……生命体への干渉は流石に厳しいからな」

「治癒の魔法がないとはいわないけど、それだって癒す、なんて言葉には程遠いものだからねえ……」


 この世界に治癒魔法というものは……ないわけではないが、あまり発展はしていない。基本的に生命に干渉する魔法は相手の干渉への抵抗があるせいで使いづらいからだ。今使ったリーリェの血への干渉も相手の内部にある物ではなく流れ出て相手の外に出た物だからこそできている。治癒の魔法は生命体の治療を行う物、傷の回復は細胞の活性などを行う、命への干渉。先ほどのリーリェの魔法以上に扱いの難しい魔法となるだろう。

 もちろん魔力によるごり押しなどができないわけではないが、相当な魔力がなければできないし、治癒とはいっても回復なんて生易しいものではく、強引に無理矢理傷口を塞ぐようなことになるだろう。苦痛が酷く、直すことはできても完全に治るには時間がかかることになるだろうし、暫くは体力生命力に大幅なペナルティがあるだろう。そのうえ傷の治療はできても欠損の回復はできない。腕や足が残っていればつなぐことはできるかもしれないが、それ自体がかなり難しいだろう。そういう様々な理由で治癒魔法は発展していない。まあ、使えないこともないが、緊急避難的に使われるくらいだ。それくらいに魔法での生命への干渉は難しい。ただ攻撃するだけならば楽なのだが。


「そもそも魔法は現象だからな……回復、傷が元に戻るという現象は想定しづらいものだろう」

「そうだね。それだと血を抜く魔法も風を肺に送り込む魔法も想定しづらいけど」

「それらは現象の応用、作用の変換ではないか? 水を操作して血を押し出す、風を操作して肺に送り込む。どちらも水の流れと風の流れの操作、現象自体と作用自体は別物だろう」

「現象は過程、それによって及ぼすものは結果、ということね」

「なるほど……確かにそうか」

「最悪魔力で不可能も可能にできる可能性はあるが」

「豊富な魔力を持っている人が言うことは違うわね、私たちには到底できないことだわ」

「その才能が羨ましいな。まったく、僕らにはできないことだよ」

「……まあ、魔力によるごり押しはあまり望ましいものではないよね。力ある物の傲慢だ」

「魔法を使う時点で力ある物には変わりないと思うけどな……」

「それでも君は魔力が多すぎる。少なくとも僕の知る多くの魔法使いの誰よりもね」

「………………」


 エルフも比較的魔力量は多い方である。そんなエルフのアルディーノにすらそう言わせるほどに公也の魔力量は多い……まあ、エルフの魔力量は人と比較して多いとは言っても、そこまで極端に多いわけではないし、根本的に魔力量は個人の才能によるもので個人差が大きい。だからこそ魔力量を基準にした魔法、魔力量でごり押しする魔法はあまり好まれるものではない。


「ちょっと!」

「ん?」

「え?」

「あ」

「……フーマル」

「ちょっとは手伝ってくれないっすかねえ!? まだまだいっぱいいるっすよ!? 何呑気に話してるっすか!?」


 彼らが話している間に、魔物は周囲に集まってきていた。まあ、一度出てきたのだから他の魔物がいないとも限らないし、出てこないとも限らないわけである。それらをフーマルが相手をしていたが流石に一人では無理がある。そういうことで魔法検証のついでに……いや、素材を守るついでに魔法の検証に来たアルディーノ達と公也は魔物の掃討に力を費やすのであった。


※対人で使われる可能性を考慮されていない可能性のある魔法。一応知っている人間が限られる、魔法についての真実を知っている一派が独自開発したもの……っていうか個人開発したもの。なのでこの場にいる誰かがばらさなければ安全。こういった魔法を開発できると言う点で魔法は自由に何でもできる、開発してどんなことでもできるという一派はある意味危険。本当は秘したほうがいいかもしれない。

※この世界における治癒魔法は現状未完成に近い。治癒はできてもその他の弊害が大きい。

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