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「さて、ばれちゃったし。それじゃあ聞こうかしら? 私をどうするつもりなのかを」
今回の件において問題解決とは精霊であるプルートをどうにかすること。しかしそのどうにかする、というのは少々明確ではない。わかっていることは公也やアルディーノの要求である調査、知識の獲得を目的としているため殺してはいけない、消してはいけないというところだろう。特に精霊の場合は実体が存在していないというのも問題点としてある。殺した後彼女という存在の体が残るとは思えない。精霊はこの世界に生きているがかなり曖昧な形で存在している。ゆえに彼女の肉体的な調査をしたいのなら普通にとらえるしかない。一応実体が存在してる状態なら捕まえることも不可能ではないだろう。完全に霞のように肉体を変質させ逃げるということは精霊次第になるが死という性質であるがゆえに彼女にはできないだろう。水とか風とか火とか、形が曖昧であれば逃げやすいが死という概念ゆえに彼女は今の形を変質させるのが難しい。実体があいまいでこの世界に存在しているが存在していないとはいえ、その肉体を変化させてばらけさせるのはできない。ある意味では彼女自身が死という性質、そのすべてを持っているのも一因か。ほかの精霊の場合バラバラにして分割しても問題はないところもある。
「どうするといわれても……」
「いやあ、こちらとしては調査させてくれればいいんだけどね?」
「主目的は迷惑をかけているエルフの村から離させることにあるのです。調査はご主人様やアルディーノの個人的な目的になるのですよね?」
「あら。今いるところから離させる、ねえ? 私何か迷惑をかけているかしら?」
メルシーネの言葉にプルートがエルフの村のエルフたちに視線を向ける。彼らはびくりと体を震わせた。
「い、いや、そんなことはない……」
「……少なくともいてもらう分には問題はない」
「そうでしょう? 迷惑をかけていない、ということらしいわね?」
「精霊という存在がいるだけであまりいい影響がないんじゃないか? ただでさえその力の強さ、気配の振りまきによる影響、威圧感、ましてやそちらは精霊としても特殊な精霊だろう? その力は一体何なんだ?」
「さあ何でしょう?」
公也の予測であればプルートは冥界に関わる存在、その点から死、あるいはそれに近しい力を持つ精霊であると考えている。死の力は恐ろしい。死を操るということはいつでも殺すことができるということ。そんなことができる存在が力にいるというのは恐ろしい話である。まあ、別に彼女以外が殺すことができないというわけでもないだろう。ただ、その力を好き勝手に振るえる、目に見えるかどうかなどの様々な問題があるのが厄介なところ。さらに言えば彼女自身が強いというの者台になるだろう。強者の振りまく気配、雰囲気、そういったものは慣れない者にとってはなかなか息苦しいものとなる。また場合によっては近くにその気配を感じて生物が寄ってこないということにもなるだろう。
同じ問題はアンデルク城における公也とかメルシーネなどもあるが、あそこの場合は周りが危険なこととか、そもそも城が城魔でその範疇にいる限りは大きな外部への漏れががないとか、公也やメルシーネあたりはその気配、雰囲気、力を抑えたりとかできる。プルートも含め精霊も似たようなことはできるだろう。ただそもそも強者というのは傲慢なものであり、わざわざ誰かのためにそういうことをする必要性がない。そうする意味がない。なので気配を抑えることもなくまき散らしている。死の精霊であるためその性質も気配にはふりまかれていて、どうにも嫌な感じに思える。その気配は遠くにいたはずのフェイですら感じられたほどである。
「…………プルート、その名前は冥界の神の名前として俺は知っている。つまりお前は冥界に関わる内容、生物の生き死にを操る力……まあ、生かすよりは殺す、死の力だと考えている。自分でも自称で冥精って言ってるしな」
「正解。あら、簡単にばれちゃった。つまらないわね?」
冥精プルートは己の力について告げる公也の話の内容を肯定する。まあこれに関しては事前に推測されていたわけであるしそこまで驚くようなことでもない。
「あーあ、つまらない。ああ、でも別にいいわね。わかっていても、実際に見たことはないでしょうし」
ふっ、と一瞬辺りが暗くなる。次の瞬間、公也が黒に飲まれる。
「なっ!? キイ様!?」
「ご主人様!?」
黒は消え、そこには公也が……そのまま地に倒れ伏す。
「キイ様! キイ様!?」
「っ…………息をしていないのです」
「どういうこと!?」
「あの力は彼女……精霊も含め、ご主人様の推測も含め、いろいろな部分で見て死の力であるとなっているのです。死の力は死を導く力、殺す力、であればご主人様も殺せる可能性はあるのですよ」
「…………っ!!」
ヴィローサがプルートをにらみつける。
「あら怖い」
しかしプルートはそんなヴィローサの視線もあまり恐ろしくはないようだ。死という力を有する彼女にとってはヴィローサの力ですらその力によって抑えられる。死、殺すという力は力すら殺せる、死に導ける……死とは生の終わり、生まれ存在する果てにある終わり。力にすら終わりはあり、存在するのであれば死に導く、殺すことはできるのである。
「ああもう! 毒が聞かないのよ! メル! どうすればこいつを殺せるのかしら!」
「落ち着くのですヴィローサ! あまりヴィローサはうかつなことをしないでもらいたいのです!」
「いや、それよりも、恐れないのかい!? いきなりキミヤ君が殺されているわけなんだけど!?」
「あの黒い力が原因なのはわかっているのです! あの規模の力を容易に使えるほどではないのですよ! あの力を使うには準備、手間があるのです! もともとこの辺りもあいつの力をふるえる圏内だったですが、その力が薄れているのです! 自身の力で満たしたうえで自分が力をこうしてようやくあれなのです! 弱くわないですし相手を確殺できる強さはあるのですけど、使おうとしたタイミングと、その時の予兆さえ見抜けば逃れることは不可能ではないのです」
「…………なんでそんな性格に推測できるのかしら? でも、予兆? 逃れる? いくらなんでもそれは不可能でしょ」
「舐めないでほしいのですね……」
「そんなことはどうでもいいのよ! こいつキイ様を殺したんでしょ!? だったら殺さなきゃ! キイ様を殺したやつを許すわけがない! 絶対に殺す!」
ヴィローサにとっては公也が害された……それも殺されたという時点で完全に敵、敵というか何をしてでもこの世から消滅させる相手、となる。相手の能力とか強さとか、そんなことはどうでもいい。どうにかして殺す手段を考えろ、と彼女としては言いたいだろう。
「ヴィローサの力は相手の力によって殺されているので届かないのですね。うかつに触れるわけにもいかないのですが……生きている私が直で触れるのは危険なのです。ヴィローサもそれは同じ、やるなら武器がいるのですよ」
「武器? ああ、物なら殺されないということかな」
「概念的には殺される可能性はあるのですが、さすがにそこまで強力なものではないのですね。生きて存在するものに死を与えるといっても、滅びであり終わりではないのです。ただ生きている、存在しているものを殺すだけ。形が曖昧なものはその機能を失い解けてしまうので力はうまく効かないようすなのですけど」
魔法などの力もまたこの世界に存在するもの、生命としての生死はないが、存在することによる生死に近い概念はある。その機能を終わらせられることで維持できずに形が解けその力が失われる、それがプルートによる死の力によってなされているものである。なのでヴィローサやアルディーノのような魔法使いではそういった力に対してはなかなか対抗できない。そもそも死の精霊として死の力を操る彼女はうかつに触れれば死んでしまうのではと思うくらいである。まあそこまで横暴な力ではないと思うのだが……そうなる可能性はありうるだろう。試すわけにもいかない、危険すぎる。




