12
「うん、あそこだね」
「ルウ……ルウ!」
「ああ、もう降りるのかい!? もう少し直で乗っていたい、背の感触とか鱗とかいろいろ見ておきたいんだけど」
「ルウウウウ!!」
背にアルディーノを乗せてエルフの村の正確な位置を教えてもらう。大まかな場所は教えてもらったが実際の場所に関しては近くまで来ないと正確に教えることは難しいだろう。まあそうしてアルディーノを乗せるために竜の姿になると竜となってしまうためその姿を見られることで大騒ぎになりかねないが今回の場合は仕方がないだろう。アルディーノに関してはそんな事情は気にしないというかどうでもよく、メルシーネの竜の姿、その生態、生体の方に興味がある様子である。それに関してはメルシーネも少なくとも乗せた状態ではしないし、見せるにしてもある程度距離を置いて、好き勝手触れる状態では行わせず公也の監視下でやらせるつもりである。なのでこの場であれこれしようとするアルディーノに対して抵抗し少し急いで下りている。
「ル! 戻ったのです!」
「いてっ」
「……メル、アルディーノが落ちたぞ」
「おとなしくしていれば普通に下りたのです。空中、空を飛んでいる状態で人の体に興味を持つとか変態なのです。いえ、変態かどうかよりも危ないのです。どっちにしても気持ち悪いのには変わらないのですけど」
メルシーネとしては調査として触れたりするのは構わないが、それでもメルシーネ自身は女性、そのあたりを意識して調査のために触れてほしいところである。また彼女が思うのは主である公也。恋愛感情は一切持たず主従の在り様として独特の感情になるが、それでも公也以外に迂闊にその身を晒したいというわけでもない。ましてやそれが現在のエルフの村に向かう途中なら猶更。せめてそういうのはちゃんとした場所でちゃんとした機会で行ってもらいたいところである。
「そうか」
「見ることのできる機会が少なかったゆえに訪れた機会を最大限利用したかったんだろう。だが流石にいまするべきことでもあるまい」
「……そうだね。その代わり後でちゃんと機会は用意してくれよ?」
「危害を加えない程度に調査する機会は設けてもいい。まあ、本人が嫌がったら流石にやめてやってほしいが」
「………………しかたない。僕も魔物を敵に回したいわけではないしね」
研究者として少々あれな部分はあれど、なんだかんだで人らしいまともな部分もある。それに研究対象は魔物。魔物は本来人間とは仲が良くないのが基本であり、たとえ協力してくれるように見えても彼らの感覚、感性、考え方は人のそれとは違うことが多い。うかつなことをして研究対象の魔物に殺されてはそこで研究の全てが終わってしまう。それは嫌だ、ということで加減は一応できるのである。
「それで……」
「エルフの村はあちらみたいなのです。空からだと一応村の一部は見えていたので案内は問題なくできるのですよ」
「そうか。それはよかった……とはいえ、行けるのは」
公也はすっと周囲に視線をやる。予定通りエルフの村に訪れるのはアルディーノ、公也、メルシーネ、ヴィローサの四人。精霊をどうにかしてから残りの人員と合流する形であり、ワイバーンを含め暫くハルティーア、フーマル、ウィタ、ロムニル、シェリー、レリトンは待機する形になっている。
「きみや」
「……ウィタか?」
「ちがう ふぇい」
「フェイ?」
予定通り公也たちが行く、そんな風に考え色々準備しているところに公也にフェイが話しかけてきた。当然ウィタの体を借りている状態である。
「……いつものか?」
「ちがう あれ は こういう とき は しない」
「そうか……なら何の用事だ? フェイから話しかけてくるのはかなり珍しいと思うが」
基本的にウィタに関わることでもなければフェイは滅多に話しかけてくることはない。フェイ自身が用事がある、ということでもなければ。そして公也にフェイが話しかけてくるのは大体己の溜まった欲求を発散する目的である。ウィタの体を借りて。だが今回はそういう目的ではないらしい。フェイも一応人の常識をある程度理解し獣のようにどこでも気にせず、ということはない。
しかしならば一体何の用事で話しかけてきたのかと思うところ。フェイが話しかけてくること自体が珍しく、それが普段とは違う目的、理由であればそれは余計に珍しいというか考えつかない事態である。
「ふんいき」
「雰囲気?」
「ぼく に ちかい なにか その けはい」
「……フェイに近いというとアンデッドか?」
「せいかく には ちがう しゅぞく じゃ なくて けはい ふんいき かんかく そういうもの」
「…………少しよくわからないな。何を言いたい?」
「ぼく は れいたい あんでっど そういう もの だから ぼく は しんでいる そして しなない それに ちかい し に かかわる なにか それを ぼく は かんじて いる」
「…………なるほど」
フェイが感じているのは死の気配、死の雰囲気である。フェイは霊体のアンデッド、それであるがゆえに本来の生死の観点から外れた存在である。アンデッドもまた魔物、生死という本来の自然の摂理、世界の摂理から外れているがゆえに、それに関わる何らかのものに対しては敏感になり得る。それゆえに感じた死の気配。そしてここまできてようやく感じるそれはいったいどこに源流があるのかというのは簡単にわかるだろう。
「やっぱり精霊は死の力を操る死の精霊、といったところか」
「それは ぼく には わからない」
「そうだな……だけど参考にはなる。ありがとう、フェイ」
「いい ふだん とく に やく に たつ こと も ないし こういう とき くらい やく に たった ほう が ぼく に とっても うぃた に とっても いい ぼく の せいか は うぃた の せいか でも ある」
「……まあ、ウィタとフェイはセットの扱いだからな」
「ひつよう な こと は つたえた どう つかうか かんがえるか は まかせる」
「…………ああ」
公也はフェイのことから死の精霊に対する対抗手段として思いついたものが一つあった。ただ実践はできないものである。アンデッドの利用、一般的な生死の在り方から外れたアンデッドであれば死を操る精霊に対しても効果的な対応手段になり得るのではないか? もっともアンデッドの作成はネクロマンシーの認定を受け世界中から敵対的な扱いを受けるので不可能である。まあアンデルク城にいるカシスの存在とか、フェイの存在とかギリギリ危ないところというのもあるので何とも言えないが、公也自身はネクロマンシーとしてアンデッドの操作や作成自体は行っていないのでまだ大丈夫である。仮に行うにしても絶対ばれないように隠れてやらなければいけないだろう。少なくともこんな目立つ場所、魔法使いのロムニルがいる場所では無理だ。あくまで考えとして浮かび思いついたというだけの話である。




