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暴食者は異世界を貪る  作者: 蒼和考雪
一章 妖精憑き
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 この世界において、街の入口には基本的に見張りとなる兵士がいる。別に彼らが特別街へ入る人間を管理する、というわけではないが、やはり盗賊や山賊、敵国の兵士、あるいは魔物の集団など、危険が向かってくる場合その報告をする人間が必要である。それに場合によっては貴族などの立場にある人間が来る場合もある。そういった場合の報告や対応も時には必要になる。

 公也は盗賊の着ていた服を流用し、そちらに着替え比較的一般人に見える。そのため街の入口で通る際にちらりと確認されるくらいでそこまで厳しく取り締まられるようなことはないだろう。ただし……それは公也一人の場合。今の公也は一人ではない。警戒烏が公也に掴まっており、そのそばには見た目が明らかに人間の物とは違う、妖精がいる。そんな公也に対し話を聞かなければいけないと対応するのは兵士として当然のことだった。


「ちょ、ちょっといいか!?」

「……なんですか?」

「…………その腕に捕まっている鳥と、その、後ろにいる妖精について、だ」

「何か問題がありますか?」

「……別に問題があるわけではないのだが」


 警戒烏、妖精が別に問題のある存在というわけではない。妖精に関しては、悪戯をしたりするので問題がないとは言わないが、そういった行動に対しての対応は基本的に街の法律次第だろう。人間以外の種族はこの世界に多様に存在する。その中の妖精だけを禁じる、などといったことはとくにない。ただ、まあ、基本的に妖精など珍しく愛らしく、ペットや奴隷という形でほしがる人気のある生物はそれなりに大事になりやすい。特に街にいる悪人や小悪党などが捕まえようと動き、その結果騒ぎとなることが珍しくはない。警戒烏は妖精ほどではないが、基本的に人間に懐くものではなく、そもそも公也が捕まえている警戒烏には識別証がない。まあ、掴まえたばかりというか懐いたばかりであり、その警戒烏を登録するような機会がなかったので当然だ。そんな警戒烏の扱いは実に困る話となる。警戒烏はいろいろと利用価値がある。飼い主の危機に過敏に反応し、それを知らせてくれるのだから。


「その警戒烏や、妖精は……なんというか、多くの人にとってはいろいろな価値のあるものだ。連れていると様々な問題が起きるかもしれない」

「ですが、両方とも放置していくわけにもいかないでしょう」

「……ああ。そうだな。連れて行こうと連れて行かなくとも、問題になる可能性は低くないだろう」


 少し考えこむようにする兵士。


「彼らは基本的にこの地の人々などではない。妖精は国民として基本的には認識されていない。自由奔放で、好き勝手にして、そもそも人の街以外の場所で生きていることが多い生き物だ。人と同じような思考ができるし人に近い存在ではあるが、そういう扱いだ。だから彼らが自由に行動していると、それをどうにかしようとする人間もいる。だけどそれは彼らにそういった身分を証明する証がないから、だ。逆に言えばそれがあれば問題はない」

「……どうすればいいんですか?」

「冒険者ギルドならば、妖精でも身分の証明はしてもらえるだろう。登録に相応の金額が必要になるが、安全を買うことができると考えれば高い物ではない。その警戒烏も冒険者ギルドで従魔や使い魔として登録しておけば、相応の扱いはされる。そういえば、キミは何か身分証明はできるものはあるのか?」

「いえ、残念ながら……見てわかる通り、持ち物がありませんので」

「ならばやはり冒険者ギルドに行くといい……もしかしてお金もないとか?」

「幾らかは服の内側に入れていたので持っています。それなりの金額を」

「なら問題はないだろう……恐らく。ともかく冒険者ギルドに行き身分証明となるギルドカードを作るといい。まあ、それでも妖精という存在は珍しく希少で、悪事に手を染めてでも攫い売り払うくらいの価値がある。彼女を見て近づいてくる悪人は決して少なくないだろう……そこは君がしっかりと注意しておくといい」

「はい。ご忠告感謝します」

「それでは街に入るといい。ロップヘブンにようこそ」


 そういった忠告を公也は兵士から聞き、街の中に入る。街に入るのに特に身分証などは必要なく、街に入るための税なども存在しない。基本的にそういった税のない開放的な街であるようだ。場所によってはそういう税をとっているところもあるかもしれないが、ここはそうでない感じである。


「キイ様、私悪人に捕まるのかしら?」

「…………いや、大丈夫だと思うぞ? 俺だって自分についてくるやつを守るつもりはあるし」

「そう? それなら私はとても嬉しいわ」

「そもそも、別にヴィラはそこまで弱くはないだろう? 雰囲気を見る限りそれなりに強いと思うが……まあ、盗賊に捕まってたから本当に強いかというのは疑問にも感じるが、雰囲気で見る限り決して弱くはないはずだ」

「あら、そんなことはありませんわ。私はとても弱い、とても脆い、儚い存在なのです。王子様無くして私はこの世で生きることなどできないのですから」


 にこりとヴィローサは笑顔で公也に答える。それはそれ自体は本心であるが、その言葉の裏に色々と隠された意味、秘された意図や言葉があると思われる。少なくとも公也はヴィローサからそんな気配を感じた。まあ、公也のそういった他者への感知能力は別に特別高いわけではないのでそれは単にそうなんじゃないかと思い込んでいるだけなのかもしれない。


「そうか。とりあえず、言われた通り冒険者ギルドに行ってみよう」

「そうね。でもキイ様? 冒険者ギルドってどこかしら?」

「…………ちょっと記憶を探ってみる」


 公也が暴食で食らった盗賊たちは元々は冒険者だ。とうぜん彼らの知識の中には冒険者ギルドがどこか、という知識があるし、この街の近くで盗賊をしていたのならばここの冒険者ギルドを利用したことがあるはず。そういった知識を探り、それを参考にすればすぐに冒険者ギルドを見つけることができるだろう。


「たぶんこっちにある」

「そうなの。じゃあ行きましょう」


 ヴィローサは公也の言葉を盲目的に信じる。別にそれに確証があるわけでもない。ただ、ヴィローサにとっては公也が正しい。まあ、公也が嘘をついているとは思っていないし、公也の性格上確証のないことは言わないだろうと思っているのもある。

 そうして二人は冒険者ギルドを目指す。しかし、公也にヴィローサは街の中でどうにも視線を浴びる。ヴィローサは一切気にしていないが、公也は流石に少々気になる様子だ。それらの視線は二人に向けられているが、正確には公也ではなくヴィローサ、妖精である彼女に向けられている。妖精を連れている人間というのも珍しいがやはり妖精という存在の方が珍しい。普通に街を訪れる妖精など基本的にはいない。冒険者となって活動する妖精なども基本的には希少である。自由奔放で街の外、自然の中で好き勝手に過ごす姿を見かけるか、あるいは貴族などの存在に捕まっているかが一般的な人間が知っている妖精の立ち位置である。そういう意味でヴィローサという存在はとても珍しい存在であると言える。


「視線が多いな……」

「そう?」

「ヴィラが目立つんだろう」

「あら、私よりもキイ様の方が素晴らしいわ」

「いや、そういうものではなくてな……」


 ヴィローサと公也は会話ができているようで、地味に話が通じない。視線を浴びているはずのヴィローサの方は視線を気にしていない。ならばあまりその視線の対象でない公也がいろいろと考えても仕方がない。もしちょっかいをかけてくる存在がいるならば、警戒烏が鳴いて教えてくれるだろう。そう考え、公也は気にせず冒険者ギルドを目指すこととした。


※この世界における妖精は悪戯好きの面倒な存在、厄介者扱い。積極的にかかわるようなことはなく、何かあっていなくなっても放置されることが多い。そもそも厳密には魔物として扱われる。保証もなにもないため捕まえて売っ払われることが多い。

※冒険者ギルドにおける冒険者登録はちゃんと対話ができる相手ならば魔物でも場合によっては登録対象となる。ただしあらゆるすべてが対象となるわけではない。妖精は可でもアンデッドなどは恐らく不可。妖精は厳密には魔物だが、一般的には魔物というよりは人間よりの存在として見られているため比較的制限が緩い。

※一般的な妖精はあまり強くはない。一部には怖ろしいくらいに強いのもいるが上位の特殊な存在のみ。ヴィローサは普通の妖精よりは格段に強い。毒の妖精であるという性質と主人公に助けられた影響による妖精として箍が外れた状態になったため。実は街一つレベルの災害を引き起こすような危険性もあったりする。

※人間と一緒にいる妖精は珍しい。そもそも街中で見かける妖精自体珍しい。なので珍しく感じ視線を向けられるだろう。あるいはヴィローサが毒々しい見た目でつい視線を向けたくなる可能性も捨てがたい。

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