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公也はとりあえず妖精の少女を気にしないことにした。いきなり王子様とか呼ばれて少し混乱しているが、妖精とはそういう頭のおかしいものだと思えば特に気に……なるが、ともかく気にしないことにした。まあ、いろいろとあるのだろう。別に公也は王子でないのにいきなり王子と呼んだのは、つまり助けに来てくれた相手を白馬の王子様的な風にみている、ということであると考えられ、そういう風に公也のことを投影し自分の頭の中でお花畑な思考が渦巻いている、というわけである。別に害にならないのならば、問題はない……面倒そうではあるが。
そんな少女を……連れていくつもりは特になかったが、離れるつもりがなさそうなので一緒に連れて外へ出る。荷物なんかは必要なものを選別し、空間魔法でその中に入れ、それ以外は放置していくことにした。
そうして盗賊のアジトから外に出る二人。そんな二人を出迎える影が一つ。
「カアッ!」
「……懐かれてるな」
いつのまにやら公也のペットか、使い魔か、特にそういった意図を持っているわけではないがなぜか公也についてきている警戒烏が戻ってきた。流石に盗賊のアジトに入る際にいると困るので外に置いてきたわけだが、それでいなくなっているかもしれないと公也自身は思っていた。しかし、どうやらなぜかは知らないが公也に懐いているようで、公也が出てきたのを見て出迎えたようである。まあ、餌付けをしたのが大きいのだろう。怪我自体もまだ完全に回復したわけではない様子であるし。それでもある程度の移動はできるが。
「王子様、これは何?」
「……カア」
喜んで公也を出迎えた警戒烏に、妖精の少女はにこりと笑顔を向ける。それに威圧され警戒烏は怯えるように鳴く。問いかけている声音は優しげに聞こえるが、その実たっぷりの毒を含んでいる。別に毒の妖精だからではなく、彼女の精神性の問題だろう。自分の王子様に近づく輩はたとえ鳥だろうと敵になり得る。流石にそこまで敵愾心を顕わにするのはどうかと思うが、公也は特に気にしない。自分を害しない、自分に損にならない限りではまあいいかと思っている。もちろん妖精の少女が勝手に害した場合は容赦ない鉄槌を下す可能性が高いが。
「ああ、俺が拾った烏だ。怪我をしてたから餌もやって様子を見ていた。そうしたら懐かれた感じかな」
「へえ、そうなの………………まあ、これくらいなら別にいいかしら」
公也がどうするか、どんな相手とかかわるのか、そんなことを彼女に決められる謂れはない、のだが、別に彼女が直接妨害してくるわけでもなければ今のところ無視するに限る。別に公也としても彼女が特別嫌いというわけではない。まあ、敵だったり問題だったり害だったりすれば、どうするかは明白だとしても。
「そういえば……君のことをどう呼べばいいかな? 名前は?」
「私に名前はないの。王子様、あなたがつけてくれる?」
「………………いきなりか。困ったな」
唐突に人の名前を付けろ、と言われても困る話だ。そもそも妖精は名前を持たないというのもよく知らない事実である。名前というのはその存在を表すものだ。特に公也なんかはその要素がとても強い。名は体を表す、とは言うが、逆に体、その存在から名前を付けるというのもありだろう。問題は、公也が妖精の少女のことを詳しく知り得ないということだ。見てわかるのは、奇妙な色合いをしているということくらい。公也が妖精の力を解放した時に、それ以前の状態とは一気に違う見た前、色合いをした見た目と服をするようになった。それくらいだ。
「君は何か妖精として、特徴とかあるの?」
「それは……ううん、王子様に隠し事はできないわ。私は、私は毒の妖精。命を蝕み殺す、毒を持つ妖精です」
「そうか」
公也にとって毒であることは別に問題はない。ちょっと体が毒に汚染されたところで、自分に暴食を使い毒のみを食らえばいい。そう言えば公也は自分自身に暴食を使うとどうなるのかは理解していない。暴食の性質上自分だけを対象外にするとは考えづらい。しかし、自分を食らい自分に還元するとはどうなるのか、ちょっとわからない。ウロボロスみたいに永遠や無限を意味することになるのかも不明だ。まあ、積極的には使いたくない。
ところで、並みの毒では公也を殺すことはできない。一瞬で山一つを毒で汚染しすべてを殺すくらいの毒でも使わない限り、先に毒の方が負ける。もちろん暴食で処理もできるため、妖精の少女の毒くらいはなんとでもなる。
「……………………」
毒、となるとポイズン、あるいは反するものとして薬でメディスン、そんな感じに考えるが、さすがに他の何かと被るようなものは自分自身でオリジナリティがないな、と思ってしまうため他で使われている実際の名称と被るものは却下。できれば自分自身のオリジナリティを強めたい、とならば毒やその手の品物を考え、それらを元に作り上げる。
「ヴィローサ。その名前を贈らせてもらおうかな」
「ヴィローサ……はい、これから私はヴィローサです、王子様。少し長めだから、ヴィラと呼んでね」
「ああ、わかったヴィラ」
「王子様、私の名前はそれでいいけど、王子様のことはどう呼べばいいかしら?」
「……倉谷公也。公也と呼んでくれればそれでいい」
「キミヤ……キミ王子、キミ様……いえ、キイ様。わかりました、キイ様」
公也でいいと言ったのになぜか独自に呼び名をつけるヴィローサ。キイ様だと貴様と少し聴こえが被ってしまう。まあ、この世界における言語と公也のいた世界の言語は厳密に同じではないわけであるし、そこまで気にすることでもないかもしれないが、ちょっと公也としては引っかかるところである。
「……まあ、ヴィラが呼びたいように呼んでくれればいい」
「はい」
「ところで、ヴィラは今後は……」
「キイ様についていきます」
「そうか。今はとりあえず街へと向かうつもりなんだ。妖精であるヴィラは人間の街に来ても大丈夫か?」
「……キイ様と一緒なら、大丈夫。一人で歩いていると悪いことを考えている人間に捕まる危険性はあるけど。いえ、今の私なら、捕まえようとした相手に捕まえられる前に殺したり麻痺させたりできるわ。だから大丈夫」
「殺すのはやめておいた方がいい。変に面倒なことになりかねないから」
「わかりました」
とりあえずヴィローサは大丈夫そうなので大きな問題にはならないだろう。警戒烏を従え、ヴィローサと一緒に公也は人間の街へと歩を進める。最初に出会った魔法使い、盗賊と公也は基本的に普通の人間と普通の出会い方をしていない。最初の魔法使いは暴食で食い殺したのもある。そういう意味では、これが公也がこの世界で普通に人間と出会う初めての機会となるだろう。
※警戒烏はペットのような扱い。ペットにすら嫉妬する女。いや、むしろ自分がペット。
※降ってわいた勝手についてくる妖精の少女。扱いには困るが慕われることは別に嫌いではないので許容するらしい。基本的に自分に害がない限りは。なお彼女のせいで今後警戒烏が怯え出番が減る。
※毒の妖精の少女。ヴィローサ。ヒロインその一。ちなみにヒロインその一とわざわざ数字を振っているということはつまりハーレム要素ありということ。この先注意。もっともその二が出てきて増えるのは百話以上先の話だが。ヴィローサの名前の元はドクツルタケ。amanita virosa。精神的に壊れており口調が不安定気味。




