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盗賊のアジトの中を物色する公也。盗賊の装備、今まで稼いできただろうお金、それ以外にも様々な物品がある。
「全部は持っていけないだろうな……」
盗賊のアジトを一時的に他に正式な拠点が決まるまで拠点として使い、新しく決まった拠点にこの場所に存在する持ち物を持っていく、というのも一つの手であるが、やはり面倒なものは面倒である。いっそのこと金目のもの以外は暴食で全部処理してもいいのでは? と一瞬思うくらいだ。もちろんしない。暴食を使った場合、暴食で食われたものはこの世から綺麗さっぱり消えてしまう。そういう意味では暴食はこの世界に存在するリソースを消し去る能力であるため多大に危険なものである。ある程度公也の強さが上がり、それ以上必要なくなったなら使う頻度を確実に落としておかなければいけないだろうと公也自身が思わざるを得ないくらいである。別に公也は世界を滅ぼしたいわけではない。
まあ、現時点ではそれなりに使うのだが。ところで、公也には魔法がある。最初に使ったのは火の魔法であるが、別に火の魔法以外が使えないわけではない。水、土、風などの自然的な四大元素と呼ばれるもの、光や闇、氷や雷などの属性、派生などとも呼ばれるもの、時間や空間を操作するような、法則や概念に関わるようなものなどさまざまである。時間や空間……つまり、空間の魔法、いわゆるアイテムボックス、あるいは次元倉庫と呼ばれるようなものも公也は作れるのである。
「…………………………」
それを、いろいろと確認しつつ思い出した。
「あとで入れておこう。いや、限界の調査はしておいた方がいいか? 持ち帰るだけならばいくらでもどうにかなるかもしれないが……普段使用することを考えると、あまり埋めすぎるのもよくないだろうか。っと、それは今はいいか」
色々と確認しながら、公也は今回大きな問題を抱える代物に目を向ける。檻に閉じ込められ、枷を填められた人に近い姿を持つ女の子……盗賊たちを食らい得た知識からすると、それは妖精と呼ばれる存在らしい。たまたま盗賊たちが偶然見つけ、運よく捕まえることのできた、とても希少で価値のある代物。公也としてもその存在は今まで見たことのない未知の存在であり、食らいその情報を得たいところではある。しかし、さすがに生きて捕まっている存在をそんなふうに犠牲にするのは心が痛む……この世界で一番最初に普通に人を殺しておきながら何を言うのか、と思わざるをえないが、それはそれこれはこれ、である。
「たす、けて」
「………………まあ、助けを請われたならしかたないよな」
公也としても確実に面倒になりそうな相手を助けて抱え込むつもりはあまりないのだが、助けてと請われてそれを拒絶するような悪人ではない。善悪の倫理観は確実に壊れているが、存在しないわけではない。基本的にベースは元の世界の倫理観である。己の欲、肥大した暴食の欲求ゆえに倫理観など知ったこっちゃないという行動をとるが、それでも根っこは悪い人間はない。善人とは決して言わない。光の中に生きる存在ではない。邪神が来るくらいだから少なくとも極悪の要素は備えている。それでも、別に他者が嫌いというわけではないのだ。誰かを救うことに喜びがないわけではないのである。まあ、他者と関わるのは非常に苦手であるのだが。
暴食の能力で、檻を食らう。それにより妖精の女の子は自由に行動できるようになる。
「あ……」
「さあ、これで自由だ。好きにするといい」
「これも……」
妖精の少女は枷を見せる。枷がある限り、彼女は妖精の力を行使できない。元冒険者の盗賊がどこでこれを入手したのか。少なくともそれなりに高価な代物であるのだが。何か伝手があったか、それとも冒険者時代にたまたま見つけた高価な物か。まあ、そこは知ったことではない。どんなものであろうとも、今ここで暴食によって食らい潰されるのだから。
「………………ああ」
少女に妖精の力が戻る。服が再構築される。瞳の色が、髪の色が、翼が、妖精本来の姿が彼女に戻る。妖精は特殊な存在で、自然の化身たる精霊に近い要素を持つ。しかし、彼らは肉を持つ存在であり、それゆえこの世界に生きる性質を持ち、肉体のこの世界の生命に寄るか、精神の自然性質に寄るか、あるいは両方を併せ持つか。彼女はどちらかというと精霊に近い存在であり、それゆえに力を封じられると非常に弱く、ほとんど人間に近い存在だった。しかし、力が戻り、今は妖精本来の性質を戻した。
「これでいいかな?」
「はい。もう大丈夫です……私の王子様」
「はい?」
公也は流石に唐突に妖精の少女から漏れた自分の呼び名……そのあまりの突飛な言葉に、さすがに混乱した。
目の前で騒いでいた、私を捕まえた人間たちの頭が消える。一体何が起きたのかわからなかったけど、その後に入ってきた人間の行動を見て、何が起きたのか理解した。あの人間が、彼らを殺したんだ、と。殺した彼らの死体を消し去っていた。その力を見るだけでとても恐ろしいけど、やっていることはこの場所にあるいろいろな物を見たり触れたり。何か確認しているようで、一体何をしに来たのかわからない。でも、今私は彼に頼ることしかできない……ううん、彼はとても素晴らしい人なの。だって私を捕まえた、悪い人間を殺してくれたのだから。
私は彼に助けをと求める。私の方を見てきたから。だって、助けを求めないと、私が助けを求めているかどうかなんてわからない。彼は私の王子様だけど、いやだからこそ助けを求めるべきだとおもう。お姫様が王子に助けを求めるのは、当たり前のことだもの。まず檻を、彼は消してくれた。一体何をしたのか間近で見ていても分からなかったけど、やっぱり彼はとてもすごい。素晴らしい。かっこいい! でも、外に出ただけじゃあ私にはどうしようもない。だから、この私の力を封じている枷も、なんとかしてくれるように頼んだ。
これも、彼はあっさりと消してくれた。
ああ、ああ、ああ! とても、とても、とても素晴らしいわ! 私を助けてくれた王子様! 強く、かっこよく、私にとってとても大事な、私の、私だけの王子様! 戻ってきた、私の力、ああ、私はもう妖精ではない、人の私が恐怖して、それが私を変えて、私が妖精に戻り、その影響を受けて、私は妖精として強くなった。私が持ち得る力は毒、毒は私、私を蝕み壊した心は毒で埋める。もう私は壊れている。かつての私はもういない。今の私は、私の王子様に寄り添う者。
あなたに愛を誓います。あなたの御傍にいます。あなたに私のすべてを捧げます。あなたの力になりましょう。
だから……一緒にいましょう。ずっと、ずっとずっとずっと、私が生きている限り、あなたについていきます。
※普通に悪行を行える人間だが善心や良心を持たないわけではない。その時その時で選ぶ選択肢は違う。そもそも積極的に殺しを行いたいわけではない。可能ならば悪人や死体から得られる情報でも十分なのだから無理に生者を殺して情報を得たりしない。そうしなければいけないならするが。
※妖精も精霊も基本的には自然の化身として扱われることが多い。最大の違いは肉体を有するかどうか。精霊は実体を持たないが妖精は実体を持つのが一般的。
※人の心に生まれた恐怖という名の心の毒。妖精に戻ることで復帰した妖精としての心は人の心を押し潰す。しかし人の心から生まれた毒は妖精の心にはさらなる毒素となる。妖精の心は人の毒に侵され、人の心は妖精の心に潰される。壊れた二つの心は壊れた精神の元となり、妖精でも人でもない心を持った異常な妖精が生まれるに至った。本人の妖精の資質も大きな要因かもしれない。あるいは元から何処かヤンデレ気質かぶっ壊れたぶっ飛んだ精神性をしていたか。




