もう一つの顔
動いて逃げようとしたが糸に絡まって動けずにいた。態勢も変になっており力が入らずにいた。
「やるじゃねーか!」
「ここまでよく頑張った方ですよ」
「まだ負けてねぇぞ」
強気ではいるがもう戦闘できないだろうと思いレインが近づくと水晶を取り出した。
「甘く見んなよ」
閃光のごとく発せられた次の瞬間、雷が広範囲に渡って広がっていく。発動したのは〈雷の霊気〉で、レインが使った時のように小部屋ではなかったためどんどん範囲が広がっていく。
「ちッまだ生きてるか」
レインもダメージが入っているが耐性や永続回復でなんとか倒されることなく防げていた。
「上級魔法ですか……酷いじゃないですか。俺は魔法弱体化が付いてるんですから」
「こっちだってダメージは入ってるんだよ」
レインはすでにスキルに頼りきった人外の動きで闘ってきていて魔法や技を出すのが遅れてきていた。
《異能:筋肉増加:微が異能:筋肉増加に進化しました》
《異能:筋肉収縮:微が異能:筋肉収縮に進化しました》
それが表示された時、緑王の目が見開いたのが分かった。そんな小さな事だがレインには引っかかることがあった。
(感知能力……それも超高性能ですね。これは魔法戦で闘った方が安全かもしれませんね)
「原初の球」
「おっと、一点集中」
飛んできた魔法を簡単に避けると、異常なスピードでレインに迫ってきた。魔法では出るまでに時間が掛かり倒されると思ったレインは身構える。
「円、渾身」
《円が感知しました。前です》
「剛撃」「抜刀」
緑王の右腕が小さな光を帯び、レインの繰り出した攻撃とぶつかる。本来ならレインが勝ってもいいはずなのにお互いに一歩も動かずにいた。
「そういう事ですか……防がれた時も傷が付くだけで終わったわけです。レベルはいくつですか?」
「バ~カ言うわけないだろ」
緑王が後ろにジャンプする。昆虫の特性を生かしただけあって高く飛んでいた。
「敵に情報を与えるバカがいるのか?」
「そうですね」
「しかし凄いな。お前達GMからなんて言われてるか知ってるか?」
「知らないですけど、達?」
「バランスブレイカーだとよ。初めて選ばれた十人、テストプレイヤーそこまでは良かった。だがその異常なほどの戦闘スキルからモンスター達も簡単に倒されていく、だからこそ付けられた二つ名だな。その中でも特に目立っているのがお前だ」
「なぜですか?」
「ダンジョンクリア、都市クエストモンスターの撃破、エリアモンスターの撃破どれもが異常すぎて、付いた二つ名がワールドブレイカーだとよ」
レインはそれを面白いと思った。現実では仕事漬けの毎日の繰り返し、でも仮想世界なら遊んでいるだけなのに認められるその優越感が心を満たしていくようだった。
「だから……面白いんですね」
「それは同感だな。それに考えた奴はイカれてるな」
実は生みの親とも言うべき存在はこの仮想世界、テラセルドができる前にこの世を去っていた。それでも残った者が長い時間を割いて作り出したのがこのゲームだった。
「さて、倒しますか」
「……調子に乗んなよ」
「飛行」
レインは軽く跳躍すると同時に浮かび上がる。一度、興奮した心を鎮めるために大きなため息を吐く、その後に緑王を見る。
「そのくらいの距離なら届くぞ」
「転移」
レインの刀が緑王の右腕、外骨格と外骨格の隙間、関節部分に入り斬れる。斬り飛ばすはできなかったが距離を取った緑王がだらりと右腕を下げているので使い物にはならないだろう。
「全身鎧のモンスターとも闘ったことがありますし、考えて魔法も使えば簡単な作業でした」
「うぜぇ」
「転移」
緑王が後ろを振り向いた瞬間にレインが緑王の顔を端掴みにする。
「原初の球」
ゼロ距離からの魔法、それに緑王はなすすべもなく吹き飛ばされて消滅する。レインが空を見上げると日が昇り始めていた。




