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紫苑、絢汰の部屋へ招かれる

ちょっと息抜き番外編です。

「山から降りてみたら」の朱鳥絢汰と咲希の長兄・紫苑、親友同士の二人の会話です。

「おい、飲むぞ」


 親友で仕事上のパートナーでもある朱鳥絢汰(しゅちょうけんた)に声をかけられた。

 珍しいこともある、愛しい彼女は忙しいのか?

 ここのところ常に彼女最優先の男は社交とか交友という言葉をすっかり忘れているかと思っていたのだが、見れば受付台の上にオードブルセットが置かれている。これは家飲みらしい。


 ということは、何か話があるのだろう。二人で飲みに行けば静かに落ち着いて飲むというのはなかなか難しい。空気を読まない馬鹿女がやたら割り込んでくるのだから、無視したところでまた別の女が寄って来る。迷惑でしかないというのに。


 とりあえず急ぎの案件はない。データを保存しパソコンの電源を切って片付けると、戸締まりをしてオードブル片手にエレベーターに乗った。




「パスタでいいか?」


 相変わらずマメな男だ。手料理をいただけるらしい。OKと答え、手を洗うと自分でグラスを出してビールを注ぐとキッチンの男に渡し自分も立ったまま渇いた喉に流す。この最初の一杯がやはり美味しい。

 勝手しったるなんとやらで、ランチョンマット、ワイングラス、皿や箸スプーン、ナイフ、フォークを並べオードブルの蓋を開けてまん中に置く。

 どこか地方に行った時に食べたえびめしが気に入ったとかで、ソースを取り寄せ、わざわざそのえびめしをテイクアウトで買って来て知人の料理人に食べさせ、その味を再現させたこだわりのオードブルセットだ。

 初めて目にした時は、その黒いソースにまみれた飯にドン引きしたが恐る恐る口にすれば甘くもなく辛くもなくスパイシーでもない不思議な味で、ぴったり合う言葉を探すのに何度もスプーンを口に運んでいた。つい黙々と食べてしまうような感じか………病みつきになるというか、紫苑も密かに気に入っていた。


 二本目のビールを開けていれば大盛パスタが並べられた。キノコとサーモンのホワイトソース、刻んだ大葉まで乗っけられ彩りも美しい。

 ワインセラーから引っ張り出してきた白はチリのものでよくはわからないが良いものだとは思う。


 これが女相手に並べられていれば落ちない女はいないと思うが、昔から知っている限り女相手にマメさが発揮されることはなかった。コイツが唯一興味を示したのは忘れもしない、小さな幼女!だった。

 普通の中学生男子なら同じ年ごろかちょっと年上のお姉さんだと思うが、よりによって妹咲希と同い年の幼稚園児。ロリコンか?と真剣に心配し、可愛い咲希に何かあってはと常に見張り注意を怠らなかった俺の気苦労返せ!

 幸いコイツの興味は涼風唯一人。それはこの二十年近く全くこれっぽっちもぶれない。

 さすがに幼女相手は犯罪になるからか、適当に後腐れなくその場かぎりの相手ばかり。それもこの近辺では絶対に遊ばない。自分のテリトリー内には絶対に入らせることはなかった。


 しかし、涼風が高校を卒業しても、二十歳を過ぎても手を出すどころか近付く気配もない。ひたすら囲い込んでおきながらどうするつもりかとやきもきしていたら、あっという間に捕獲監禁。婚約という鎖でがんじがらめに繋いでいたというのに、現在は逆に涼風から「待て!」をされ大人しく待つ忠犬ハチ公状態。

 実に笑える。


「なんだ?ニヤニヤと……」

「いや、まるでデートのようなもてなしだなと……」

「あいにくデザートは用意してない」

「そこまで用意されると引くよ」

「チョコレートくらいならあるぞ。涼風のお気に入りをいくつか取り寄せたんだ」


 そんなものが食えるかっ!後が恐い!

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