11南の島
その二日後には機上にいた。
しかもファーストクラス。夏休みだし直前に決めたのでエコノミーは既に満席だったと言われ諦める。実際搭乗口には大勢の家族連れが溢れていた。
衣類は現地で買うから不要と言うし、必要な物は先日の外商に依頼済みと言われ荷物は逆に何を持って行っていいかわからない。しかも日程がはっきりしない。
日本円が使えるから両替も現地ですれば良いし物価も安いからそんなに現金も使わないと。仕方なくとりあえずクレジットカードは財布に入れておいた。
なんでこんなことになった?
フルートグラスに浮き上がる泡をぼんやり眺めながら思う。
咲希からすればクエッションだらけ、さっぱり訳がわからない。ただなんとなく、もしかすると何かあったのかもとは思う。聞いたところで漆原も紫苑も何も答えてはくれないが、どうやら日本から離れていた方が良いらしい。
出発間際に涼風にだけは連絡したが、さすがは絢汰と言うべきか何も聞かされていないようだった。敢えて心配させる必要もない。なので咲希も先生のリゾート視察取材旅行に同行するとだけ伝えた。あくまでもアシスタントとして!を強調して。
空の旅は七時間ちょっとで目的地に着いた。
空港の外へ出てみれば、暗くなって気温も下がったからかそんなに暑さは感じない。むしろ日本の方が蒸し暑く不快指数が高い気がする。
タクシーに乗り、そんなに走らないうちにホテルに着いた。ウェルカムドリンクを飲んでいるうちに漆原がチェックイン手続きを終え、荷物を積み込んだカートに乗るように勧められる。
「ここは敷地が広いので、歩くとかなり遠いんです。荷物もありますしね。荷物さえなけれぱ散歩にはちょうど良い距離感ですよ」
その言葉に前にも来たことがあるのかと尋ねれば、
「子供の頃に。毎年家族で来ていました」
初めて聞いた漆原の家族の話だった。その後このホテルは大改装が行われ長期休業したせいかスタッフが殆ど入れ替わり以前の面影はないと少し寂しそうに言う横顔が印象に残った。
到着したのは平屋のコテージ。ドアを開ければ広いリビング。両端にドアがあり、それぞれ寝室になっていてほっとする。窓を開ければ目の前には小さなプライベートプール。
「豪華………」
のんびり寛げそうな雰囲気で楽しく過ごせそう。
咲希はにんまりしながら窓を閉めた。
荷物を片付けた頃、ルームサービスが届いた。
日本語で言えば焼き飯、焼きそば、チキンスープ。ナシゴレン、ミーゴレン、ソトアヤムと言うらしい。
現地の缶ビールも二本、乾杯と口に含めば生ぬるい。
「すぐに馴れますよ」
と言う漆原は平然と二口目にいく。そんなもの?と思わないでもないが郷に入っては郷に従えだよねと納得することにした。
料理も少しずつ取り分けながら食べてみる。香辛料がかなり入って独特の香りがして辛いが美味しい。目玉焼きがのってたのをくずして一緒に口に入れるとマイルドになる。
添えられたえびせんも美味しい。
食べ物が合うって大事かも〜
にんまりしながらモグモグしてたら、漆原がにっこり笑うのと目があった。
当初のダサダサな感じはいつの間にか無くなって、物腰というか雰囲気が柔らかく優雅に洗練された感じになっているような気がするのは咲希の気のせいか。少なくともぼさぼさだったはずの髪は綺麗に梳かしてさらさらしている。服装もいつの間にか雰囲気が違う。そう。サイズだ。だぼっとした大きめのだらしない感じだったのが、フィットしたきれいなラインの服を着ているのだ。
こうして見ると数割増に格好良く見える。
漆原なんてまったく意識していなかったはずなのに、ただのダサいおっさんくらいにしか思っていなかったはずなのに、漆原のことばかり考えていた。
そういえば年齢はいくつだろう?
あれ、下の名前何だったっけ……………
特に意識していなかったせいだが、何も知らないことに愕然とした。




