10いつも突然
仕事部屋に移動し荷物をまとめていると浅葱兄が来た。いちおう医師でもあるので診察して診断書を作成すると言う。
そんな大袈裟なと思うが、絶対に必要だと言う。仕方なく診察を受けるが、多少手首が赤くなっているだけでどうということはない。兄の気持ちは有難いがこんな時は見知らぬ他人の方が良い。早々に診察を済ませ一緒に階下に降りれば常盤兄が車で待機していた。
漆原に礼を告げ乗り込むとそのまま帰宅した。
浅葱は車に乗らず残ったので紫苑の事務所に行ったんだろう。
紫苑、浅葱、漆原。一体どんな話し合いになるのか?物凄く気になったが考えないことにした。
咲希の入り込む余地は無さそうだし、それにあの朱鳥絢汰も加わっているに違いない。どうせろくなことはない。と、きっぱり言い切れる。
出来る限り自分の安寧が残されているよう祈るしかない。
翌日からまた通常通り仕事に行けば、 漆原からは一人の時は応対しなくて良いと居留守をするよう言われたが、実際には常に漆原が居るようになっていた。
漆原も気を遣ってか、美味しそうなお菓子やデリバリーを出してくれるし楽しい雰囲気で話しかけてくれる。
仕事面でも、閃いたと今までの小説を放置して急に別の小説を書き始めた。
いつの間にか夏休みに入ったのもあるが、咲希にも何か書いてみないかと勧めてくる。そう言われてみれば今まで書いたことはないけど挑戦するのも面白そうだ。
「そうですね。考えてみます」
「ええ、書いたら見せてくださいね」
作家先生に?というのが表情に出たのか、
「私は貴女の指導教員でもありますから今までに色々読んでいます。今さらです」
と笑う。
「貴女の発想も視点も文章もなかなか面白いので、小説を書いたらどんなものを書くのか興味を持っていたんです」
「とても満足していただけるようなものを書ける自信はありませんが」
「最初からそんなものを書かれたら、こちらの方が驚きますよ。評価は気にせず書きたいように書いてみたら良い。困ったら頼ってくれて良いですから」
それに、と付け足す。
「しばらく南の島に行きましょう」
呆気に取られ呆然としている間に話は進む。




