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違和感

事業を拡大したい。

これは石田さんの口癖のような言葉だった。

入社した時からそれは言っていた。


ボクが石田さんの会社で仕事するようになって違和感を感じたのは、最初の数回、石田さんと仕事をして、その後、一人で他のスタッフと仕事するようになってからだった。


『よろしくお願いします』

『よろしくお願いします……』

『今日は晴れて良かったですね』

『いい天気ですね……』

なんだか話が続かず、車の中では変な空気が流れていた。

一緒に働くヘルパーさんや看護師さんはなぜかボクに少しよそよそしかった。


ボクはまだこの会社に入ったばかりで、知っているのは石田さんと石田さんの奥さんだけである。

だから違和感と言っても嫌われるようなことはしていない。

もちろん仕事もキチンとしているし、利用者や家族からも評判はそんなに悪くなかったはずだ。

しかし、この違和感いつまで経ってもなくなることはなかった。


違和感。

そう言ったが明らかにボクは嫌われていた。

仕事で必要な会話はできるけど、それ以外の会話はいくらボクが話しかけても盛り上がることはなかった。


『阪上さん』

ある日、ボクは石田さんに声をかけられた。

『はい……』

『実はさ……スタッフのみんなが阪上さんと仕事するのはやりづらいって言ってるんだけどね』

『ああ……はい。なんでしょう。やりづらい感じなの歯こちらも感じているのでなんとかしたいと思ってはいるのですけど……』

『いや、なんだろ。ボクもかみさんから聞いたんでどこをどうとかはうまく言えないんだけどね』

『何か原因とかあるんでしょうか? あれば直したいと思っています』

『いや……そういうのはないんだよ。どこを直すとかそうじゃなくてちょっとやりづらいみたいで』

ちょっとやりづらいと言われても本当に困る。

こちらとしても何がやりづらさにつながっているかが分かれば対応の方法もあるのだけど、それがなければ何もできない。


『昼食ですが、お弁当をやめてみましょうか?』


当時、ボクは一人暮らしで節約していたからランチはお弁当だった。

訪問入浴は基本的には外食することが多い。

というのも暑い時期になると車に積んでいるボイラーの影響で車内が普通の車より暑くなってしまう。

そうすると下手をすればお弁当が腐ってしまうことも考えられるからだ。

それでもボクは少ない生活費を節約するために、保冷剤を入れてお弁当を食べていた。


一緒に働くスタッフにはお弁当にしている人はいないわけだから昼食の時間はボクだけ一人でお弁当を食べることになる。


もしかしたらこの行為が協調性がないと思われているのかもしれないとボクは思ったのだ。


お弁当をやめてから、仕事の人間関係が良くなったかと言えば……

以前のままだった。


まあ、あからさまに何かをされるというわけでもないのでボクは気にしないことにしていた。


仕事はしている。

そして新人の頃のように利用者の家で何もしゃべらないということもない。


だから自分の気のせいということもある。

そう思ってボクは考えないようにしていた。


慣れない職場で、しかも人間関係にもなんとなくだが違和感がある。

そんな自分では解決しようのない悩みを抱えながらの一人暮らしは精神的にはかなりしんどかった。


『今、何してる?』

そんな折……。

何気ない未来ちゃんのメールはすごく嬉しかった。

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