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恋に恋して  作者: 阪上克利


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忙しい毎日もデートの誘いがあれば楽しくなる?

『業務拡大したいと思います』

 石田さんは一緒に仕事を回っているときにボクにそう言った。


 石田さんの会社にいた時、ボクは週休2日で日曜日の他に火曜日休みという中途半端な勤務だった。


 ボクが現場に出ている時は、石田さんは経営者として営業に回ったりしている。

 役所に行ったりすることもある。


 だけど土曜日は役所が休みなのだ。

 その分、やることも減るはず。

 正直な話、祝日休めないのは仕方ないとして、火曜日という中途半端な日ではなく、人数の足りている土曜日に休ませてほしいと思っていた。


 そんな不満を抱えながら、さらにはいつまでも改善されることがなさそうな違和感のある人間関係を抱えつつ、ボクは毎日仕事していた。

 だから現場仕事はもう辞めたかった。

 せっかくケアマネジャーの資格を取ったのだ。

 もし業務拡大するのならケアマネジャーの仕事がしたかった。


『居宅支援はやるんですか?』

 思わずボクは石田さんに聞いた。

『ああ、居宅。そうだね。あと通所介護をやろうと思う』

『そうなんですね』

『いろいろと手伝ってもらってもいいかな』

『もちろんですよ』


 石田さんがボクに言った『手伝い』とは指定事業者になるための県への申請のことだ。

 介護保険の新たな事業を行うためには、県の指定を取る必要がある。

 そのためには施設の広さが関係していたり、契約書が新たに必要だったりするのでやることは非常に多い。

 今までにそんな仕事を何度もやっていたボクはこれらの仕事はそんなに嫌ではない。

 そもそもこれを手伝うということは自分のキャリアアップにもつながる。取得したケアマネジャーの資格も会社が『居宅支援事業』というケアプランという書類を作成する事業を始めることができれば、ボクはケアマネジャーとして仕事ができる。


 人間関係に違和感を感じている訪問入浴の現場を離れることができると思ったらボクは少し嬉しかった。

 早速、がんばって勉強したことが生きるんだと思ったら面倒な書類作りなど苦にはならなかった。


 この日の翌週から業務拡大のための仕事が始まった。

 ボクは訪問入浴の仕事が終わってからすぐに事務所のパソコンに向かって書類作成を始めた。


 忙しい毎日が始まった。

 夜、家に帰るのも20時過ぎという日も少なくなかった。


『美味しいレストラン発見したんだけど一緒に行かない?』


 未来(みく)ちゃんからのメールだった。

 彼女はボクが忙しい間もちょくちょくメールをしてくれていた。

 何気ないメールはすごく楽しかったのだけど、この誘いは少し面食らった。


 ボクはメールを見つめながら自分の部屋で一人、つぶやいた。

『え? 二人きりで??』

 電話で話したり、メールをしたりは気軽にできるけど、食事に行くとなるとちょっとハードルが高い。

 それになんだか未来(みく)ちゃんとデートするというのは不思議な感じだった。

 もしかしたら彼女とは距離が近くなりすぎていたのかもしれない。


 だけど……

 嫌ではない。

 むしろ嬉しい。


 どうあれ女の子とデートできるなんて、もう自分にはそんな機会はないかもしれない。


 それに、よく考えてみると、別に未来(みく)ちゃんとデートしてはいけない……なんてことはない。

 というのも、ボクは結婚しているわけでもなく、特定の付き合っている彼女がいるわけでもない。

 すでに伽耶(かや)ちゃんとは別れている。


『もしもし……』

 少し遅い時間だったけど、ボクは未来(みく)ちゃんに電話した。

『あ、お疲れ様』

『遅い時間にごめんね。電話大丈夫?』

『大丈夫大丈夫。いきなり誘ってごめんね。びっくりした?』

 未来(みく)ちゃんはボクが電話して話そうとした話題を先に話してくれた。

 彼女のこういう機転がやりやすかった。

『ううん……それは大丈夫。てゆうかどの辺なの?』

『うちの近所だよ。独りで行くのもなんか寂しいし、一緒に行く人もいないからさ』

『近いならいいね。お酒飲んじゃおうかな』

『電車でこれば飲めるよ』


 電話で未来ちゃんの声を聞いた瞬間、ボクは忙しかった仕事のことをすっかり忘れて楽しい気分になった。行こうかどうか迷っていた食事も行くことにした。


 当日が楽しみだった。

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